ある町で、神と勝負する話が盛り上がった。
二十一世紀の繁栄した町だった。
一人の少女が、
「あたしたちの町で神と勝負しようぜ。逃げも隠れもしねえ」
と話を持ちかけ、少女は神と勝負するチームを結成して、神と勝負することを吹聴してまわった。
「おれたちの力なら、神にだって勝てるだろう」
と話し合った。
「ここに宣言する。この町の住民みんなで、神に対して勝利すると。神など恐れるものか。覚えていろ、神よ」
少女を代表に、その町は神に宣戦布告した。
「いくぞ。決起集会だ。神を落とす。天を落とすぞ」
みんなが叫んだ。
「神を落とす。天を落とす。神を落とす。天を落とす」
何度も、みんな、唱和した。
町の住人は、意気揚々だった。
「逃げるな、神よ。あたしと勝負しろ」
と町の住民が要求すると、洪水がこの町を襲った。
どどどどどどどど。
水が町に押し寄せる音だ。
そのまま、住民たちは洪水に流されてしまった。
床上浸水となり、ほとんどの家が天井まで水が浸かった。
洪水の跡地で、生き残った住民たちが生き残るすべを探した。
「まだ生きているぞ。誰だ、あたしらの町を流しやがったやつは」
少女はいったが、近くの男がいった。
「いやあ、これは神がおまえたちの挑戦を受けてたったのだろう」
「ああ、洪水を起こしたのは神のやろうか」
生き残った人たちが集まり、笑った。
「はははは、神に負けてたまるか。もう一度、勝負しようぜ」
「おう」
町の復興も後まわしにして、その町の住民は再び神に挑んだ。
「いくぞ。もう一度、決起集会だ。この町のチームで神を落とすぞ」
「おお、神を落とす。天を落とす。神を落とす。天を落とす。洪水なんて怖くねえ」
どどどどどどど。
再び、町を洪水が襲った。
ざぷーん、ざぷーん。
「大丈夫か、みんな。生きているのか」
少女は泳いで建物の屋根に這い上がった。
「くそう、洪水なんかであきらめるあたしたちじゃねえぜ」
少女はそういったが、中にはあきらめ始めたものもいた。
「いやあ、やっぱり、神には勝てないよ」
「罪深い町ですよ。傲慢、冒涜、自涜の罪です」
神に挑む傲慢。
それは冒涜でもあり、自涜でもある。
二十一世紀の洪水神話だ。
「すまん。おれ、そろそろ、神に勝てる自信がなくなってきたんだが」
男がいうと、少女は怒った。
「この程度であきらめるな。町を三度、流されても神に勝つ」
そして、また洪水が起こって町が流された。
どどどどどどどど。
ざぶーん、ざぶーん。
「いや、もう、あの女とそのチームは、地上の秘密だ。でないと、神に怒られる」
洪水の町は、しかし、あきらめることなく神を倒す野望を吹聴した。
懲りない町だ。