一夏の怒りの大声にアリーナの観客席に居た生徒達は驚き応援の声が止む。
「お、織斑君が、キレた」
「う、うん。どうしたんだろう?」
「多分彼女が何か言ったんじゃないの? 彼女、変に織斑君に付き纏っていたし」
1組の生徒達は、そうかも。と頷き合い声を張り上げる。
「織斑君頑張れぇ!」
「そんな子に負けちゃダメだよぉ!」
「やっちゃえぇ、織斑君!」
と声援が大きくなった。アリーナでは突然一夏がキレた事に動揺してしまい動きを止めてしまっている鈴。
無論一夏がそんな隙を逃すはずもなく、拡張領域から大型の武器を取り出した。
6砲身のガトリングカノン咆、『アヴァロン』。バレットホークの中で唯一の大型武器で、毎分3000発放つことが出来る銃である。
一夏はアヴァロンを取り出すと、素早く照準を鈴に定め引き金を引く。
砲身が回転し、瞬く間に大量の弾丸が鈴に向かって襲い掛かる。
突然の轟音に驚いた鈴は直ぐにその場から回避すると、自身のいた位置に向かって一直線に大きな砂埃が舞う。
「ちょっ!? 危ないでしょ一夏!」
鈴はそう叫ぶも一夏は何も返さず、再度アヴァロンを鈴に向ける。
〈一夏、聞こえる? サブアームを展開して武装を出して〉
〈分かった。彼女が避けた先に向かって撃ちまくって〉
アイラにそう返し一夏はウィングと肩と腰のサブアームを展開し武装を出す。アイラは一夏の様子が若干変わっている事に気付き、若干心配した表情を浮かべていた。
〈(バイタルなどには異常は無いけど、明らかに可笑しい。怒りで一時的に症状が治まっている? となると怒りが沈んだら……)〉
アイラは一夏の怒りが沈んだ後の事に不安な考えが頭を過るが、今は戦いに集中するしかないと、その考えを隅へと追いやった。
避けた鈴に向け再度アヴァロンを向けた一夏は躊躇いもなく引き金を引き大量の弾丸を放つ。
無論そんな弾幕を張られれば近付く事は容易ではなく、避け続けるしかない。だが、避けた先にサブアームの武装が攻撃によって、最早逃げ場などは無い。
「なぁっ!?」
アヴァロンの攻撃を避けたと思えばサブアームのアサルトライフルに撃たれるという、逃げ場のない状態の中、被弾を抑えようと逃げ惑うがガリガリとSEを削られていく。
「あぁ、もう頭きたぁ! もう容赦しないんだから!」
そう叫ぶと鈴は突然両肩の一部がスライドし何かが現れた。
〈一夏、気を付けなさい。彼女何かする気よ〉
〈分かった。アイラはあれの情報を集めて〉
一夏はそう言うとアヴァロンを仕舞いグレネードランチャー搭載型アサルトライフル、『AMWS-21』を取り出し警戒しつつ回避行動に移る。
「さっきのお礼よ!」
そう叫び鈴の肩から何かが放たれた。一夏はそれをギリギリで避ける。
〈アイラ、あれが何か分かった?〉
〈えぇ。あれは中国で開発された『龍咆』って言う衝撃砲よ。圧縮空気で砲身と砲弾を生成して放つ物で、おまけに空気で砲身などをつくるから目には見えないし、射線もほぼ無制限って言う物らしいわ〉
〈無制限と言えども、撃つ方向には何かしらの徴候があるはず。次は発射のタイミングを調べて。多分単純な性格だから直ぐに分かると思う〉
〈フッ。えぇ、分かったわ〉
一夏の口から鈴の事を単純な性格と言う言葉が出てきて思わず笑みを零すアイラ。
アイラが調べている間、一夏は回避行動を行いつつAMWS-21を向けながら攻撃する。無論調査するアイラもサブアームを操作し射撃する。
「初弾を躱すなんてやるじゃない。でもその幸運、何時まで続くかしら!」
そう叫び龍砲を撃つ鈴。一夏は素早く両手持ちをしていたAMWS-21を右手で持ち、空いた左手にバタリングラムを構え地面に刺し軸の様にしてドリフトするように急カーブする。
「あぁ、もう避けるんじゃないわよ!」
そう叫びながら次々に圧縮空気を放つ鈴。一夏は先程同様にバタリングラムを使いながらギリギリで避け続けるが、そろそろ限界かな。と思い始めていると
〈待たせたわね。アイツの撃つタイミングが分かったから、モニターに表示するわよ〉
〈ありがとう、アイラ。脚部サブアームにも武装も出すから操作お願い〉
〈任せなさい〉
脚部のサブアームを展開し武装を展開する一夏。これによってほぼ全部のサブアームに武装が展開された状態になる一夏。
鈴はその姿に好機だととらえた。
(サブアームを全部展開したら、機動力は下がる。さっきまでギリギリだった癖に、それは悪手よ!)
鈴は、逆転勝利!と心の中で思いながら龍砲を撃つ。
だが、
〈一夏!〉
〈うん!〉
アイラの合図に一夏は機体の方向を急回転させ避けた。
「う、嘘ぉ!?」
今度こそ当たると思っていた攻撃が簡単に避けられ事に驚くも、直ぐに気を取り直して再度龍咆を撃つがまた簡単に避けられた。
管制室で一夏達の戦いを観戦していた千冬達は一夏の動きが先程と大きく変わった事に驚いていた。
「凄いですね、織斑君。まさか見えない砲弾をあんなにも簡単に避けるなんて」
「いや、そう簡単に避けられるような物ではない」
真耶の言葉を否定するように千冬は言い、険しい表情で続けた。
「相手の攻撃を避けるには、相手のほんのわずかな動きでさえ注視しないといけない。織斑は女性恐怖症というハンディキャップを持っている。そんな状態の中、相手の動きを注視しないといけないのは織斑にとって危険な行為だ」
千冬の説明に真耶はハッ。と思い出したような表情となり、悲痛そうな表情に変わる。
「お、織斑君は大丈夫なんでしょうか?」
「……分からん」
そう零した後、千冬は何も言わなくなりただモニターに映る一夏をジッと見つめていた。
だが、心の中では心配でしょうがなかった。
(…一夏、無茶するんじゃないぞ)
鈴の圧縮空気攻撃を避けつつ一夏は残りの武装をアイラと確認する。
〈残っている武器は?〉
〈ハンターは2丁とも弾切れ。背部サブアームのLAMPOURDEと脚部サブアームのLG5M-BDアサルトカービンは弾倉の半分切ってるわ。腰部サブアームのGEC-Bは弾切れ。アヴァロンも残り50発程。SCAVENGERが4発。ソードオフショットガンが2丁ともフル状態。近接用はナイフ2本、バタリングラム2本、左腕のフォールディングナイフって処よ〉
〈それじゃあ出し惜しみなしで行くよ!〉
〈えぇ、徹底的にやってやりなさい!〉
一夏は左手に持っていたバタリングラムを仕舞い、腰部分に付けられているSCAVENGERと呼んだグレネードを手に取る。見てくれは魚雷のような形をしているが、実際は発射機構が組み込まれた物で単体のまま発射することが可能な、ライフルグレネードなのである。
〈時限信管をアイツの居る距離から算出したから入力しておくわよ〉
〈お願い。発射後の放物線もモニターに出して〉
〈分かったわ。……モニターに出すわよ〉
アイラの言葉と同時に一夏は左手にとったSCAVENGERをモニターに映るよう持ち上げると、モニター上に放物線を描くように現れた線が表示された。
一夏はタイミングを見計らいつつ、構える。そして
「其処だ!」
そう叫ぶと同時にSCAVENGERを発射する。グレネードが発射されたのを確認した鈴は瞬発信管だと思い、軽く避けようとした。だが、突如通り過ぎると思われたグレネード弾が近くで爆発しSEを大幅に削られる。
「あぁ、もう! こうなったら接近戦でやってやるわよ!」
そう叫ぶと鈴は残り少ないSEでイグニッションブーストして自身の間合いに詰めてくる。
〈来るわよ、一夏!〉
〈うん!〉
一夏は間合いを詰めてきた鈴を向かい討つべく右手のAMWS-21を弾切れで沈黙していたサブアームの一つに渡し、拡張領域からバタリングラムを出す。
「おりゃああぁぁ!!」
そう言い振り下ろしてきた双天牙月をバタリングラムで受け止める。当初鈴はサブアームが狙ってくると思っていたが、弾切れを起こして幾つかのサブアームが沈黙していた為今なら懐に飛び込めばまだ勝機はあると考えたからだ。
「これだけ近ければサブアームの攻撃は出来ないでしょ!」
そう言いながら鈴は双天牙月を振りまくる。一夏は迫る斬撃をバタリングラムで受け流していく。一般の人から見れば一方的に押され始めているように見える。
「やばいよ。織斑君押され始めてる」
「最初の勢いが衰え来てるのかな?」
「諦めちゃダメだよ。頑張って応援しないと」
そう言い1組の生徒達は応援を強める。
だが管制室の千冬は違った。
「凰の奴、まんまと嵌ったな」
「え? どう言う事ですか?」
「見ていればわかる。だが、言えるとすればこの試合、織斑の勝ちだな」
千冬の予告に真耶や他の教師達は首を傾げるのであった。
一方的に攻撃していた鈴は隙を見せまいと斬撃を続けていた。
(ふふん。最初は結構押されたけど、スタミナ戦なら私の方が強いのよ。このまま一気に畳み掛けてやる!)
そう思いながら攻撃を続ける。だが続けざまに攻撃しようとした瞬間
〈一夏、今よ!〉
一夏はアイラが出した合図を皮切りに右手のバタリングラムを鈴に向かって突く。
「ッ!?」
突然の突き攻撃に思わず鈴は振り下ろそうとした逆の手に持っていた双天牙月で攻撃を弾く。バタリングラムは弾き飛ばされていき、その陰からバレットホークが左腕を胸の前で構えながら鈴の懐に潜り込む。
自身の懐に潜り込まれた鈴は驚くが、左手には武器が無いと思っていた。だが、左腕から刃が出ているのが見え防ごうとするも間に合わない。
「これで、とどめぇ!」
一夏は叫びと同時に左腕に出ている刃で鈴を斬り捨てた。その結果
『甲龍SEエンプティー。勝者1組代表、織斑一夏!』
アナウンスが流れると、アリーナの観客席から盛大な歓声が上がった。斬り捨てられた鈴は負けた事に悔しがり歯を食いしばる。
一夏はそんな彼女に目もくれずピットへと戻って行った。
次回予告
管制室で一夏が何故勝てると予想できたのか、その訳を千冬に聞く真耶。
その頃観客席に居た本音は一夏の様子が気になり、ピットへと向かう。
次回
疲れ切った一夏君~お疲れ様、一夏~