女性恐怖症の一夏君   作:のんびり日和

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11話

決着がつきアナウンスを終えた真耶は、千冬の方へと顔を向ける。先ほど千冬が言った意味を知るために

 

「それで織斑先生、どうして織斑君が勝つと予知できたんですか?」

 

「ん? なんだ、気が付かなかったのか?」

 

千冬はそう言い肩を竦めながらその訳を話し始めた。

 

「最後に織斑が押された様子、あれはフェイクだ」

 

「ふぇ、フェイクですか? けど、そんな風には見えませんでしたよ?」

 

真耶はそう言いながら先ほどの戦闘の様子のシーンをディスプレイに出す。ディスプレイには鈴が双天牙月で一夏を押すように斬撃を行っているシーンだった。

 

「確かにただ見ているだけでは、織斑が押されているように見える。だがな、織斑は効率的に凰の攻撃を受け流しているんだ」

 

そう言いながら千冬は真耶の前にあるキーボードを叩き、ディスプレイに一夏が使っていたバタリングラムと鈴の双天牙月が表示される。

 

「織斑のバタリングラムはランスの様に円錐形で後ろが太く先端が鋭く細い。逆に凰のは大型したとは言え青龍刀と何ら変わらん。あの試合、織斑は防御する際バタリングラムを一度も真横に構えなかっただろ?」

 

「は、はい。確かに」

 

「真横に構えて双天牙月を受け止めればすぐにバタリングラムは折られていたかもしれん。その為織斑はバタリングラムを斜めに構え、凰の斬撃を全て受け流したんだ」

 

「なるほど。でも、どうしてそんな事を?」

 

「残りの残弾では止めが刺せないと思ったんだろう。だから危険な近接に持ち込もうと考えたが、自ら仕掛けるんじゃなく凰の性格を利用すればいいと思ったんだろうな」

 

「性格をですか?」

 

「凰は単純な性格だからな。爆発物で凰にダメージを与えれば、アイツは頭に血が昇って近接で掛かってくると思ったんだろう。そして凰はそれに掛かった。その後は押されている様に見せかければ、アイツは織斑を押せていると思い込み、動きが単調になる。そして単調になり始めた時に織斑は凰の意表を突いたんだ」

 

「なるほどぉ。まさかあんな戦いの最中に、そんな作戦を考えるなんて凄いです!」

 

「そうだな」

 

そう言いながら千冬はまた別の事を考えていた。それはイチカの容態の事だった。

 

(あんな戦い方をすれば、一夏の奴相当疲れているはずだ。布仏に確認に行かせるべきか?)

 

そんな事を考えながら険しい表情を浮かべる千冬だった。

 

その頃アリーナの観客席に居た1組の生徒達は歓喜に包まれていた。

 

「よぉし! 織斑君がまず1勝したわよ!」

 

「最後はどうなるかと不安だったけど、まさかあそこで不意打ちを決めて勝つなんて、流石織斑君だね!」

 

「ねぇねぇ、織斑君の雄姿ちゃんと撮れた?」

 

「もっち! ちゃんと撮れてるわよ! 後で焼き増ししとくから」

 

1組が何故あそこまで喜びあっているのか分からない他クラスの生徒達は怪訝そうな顔を向けられているが、1組の生徒達は気にもしなかった。

普段気弱でオドオドし、ちょっとしたことでもすぐにビビってしまう一夏が、果敢に挑んで勝ち取った勝利。それだけでも1組の生徒達にとっては大きな喜びであった。

 

そんな中喜びで湧きだっている1組の生徒達とは違い、一人心配そうな表情を浮かべた生徒が居た。

 

(イッチー、大丈夫かなぁ)

 

そう思いながら一夏の心配をする本音。そして投影されている時間を確認すると、次の試合開始まではまだ時間があり本音は席から立ち上がる。

 

「あれ、本音何処行くの?」

 

「ちょっとイッチーの所に行ってくるぅ」

 

「分かったぁ。あ、織斑君に次の試合も頑張ってねって言っておいてぇ」

 

「了解なのだぁ!」

 

そう言いながら本音は足早に観客席から出入口へと向かった。

暫くして本音は一夏がいるピットへと到着し、出入り口横に付けられている装置で中に居るであろう一夏を呼び掛けた。

 

「イッチー、私だけど入ってもいい?」

 

装置に向かて声を掛けるが返事は無く、本音は不安な気持ちが大きくなる。

 

「どうしよう。勝手に入るのは不味いし。けど、イッチーの事も心配だし」

 

そう零しながらピットに勝手に入るか止めておくか迷っていると、ポケットに入れているスマートフォンがブルブルと震え、本音はスマートフォンを取り出して画面を見ると

 

「あ、織斑先生だ。もしもしぃ」

 

『布仏、今何処に居る?』

 

「えっと、今イッチーが居るピット前にいまぁす」

 

『織斑のか? フッ、それだったら好都合だ。すまんが、織斑の様子を見に行ってくれないか? ピットに入る許可は私が出す』

 

「分かりましたぁ」

 

千冬から許可が下り本音はピットのドアを開け中へと入る。

中へと入り少し奥へと行く、一夏が備え付けられているベンチに腰掛け、顔を伏せていた。

 

「あれ、イッチー。どうしたのぉ?」

 

一夏が顔を伏せている事に本音はもしかして何処か痛いのか?と思い急いで一夏の傍へと駆け寄る。

 

「イッチー、何処か痛い「すぅすぅ…」あれ、寝てる」

 

不安な表情を浮かべていた本音は近付いて規則正しい寝息を立てる一夏に一瞬キョトンとした表情になるが、直ぐに朗らかな笑みとなった。

 

「良かったぁ。あ、織斑先生に言わないとぉ」

 

そう言いピットにある装置に元に向かう本音。

 

『こちら管制室。おぉ布仏か。織斑はどうだった?』

 

「えっと、疲れているのか眠ってまぁす」

 

『やっぱりか。…分かった、保険医の者をそちらに向かわせる。すまんが、そのまま暫く織斑の傍に居てやってくれ』

 

「分かりましたぁ。あ、ピットの扉はどうしておきましょう?」

 

『そうだな。織斑はもう動けんから次の試合には流石に出られんだろうからアナウンスをしないといけない。そうなると馬鹿3人が織斑に突っかかってくるかもしれんからな。仕方ない、保険医が来るまでは鍵は掛けとけ』

 

「了解でぇす」

 

本音は千冬の指示通りにピットの扉を閉め、鍵を掛けた。

そして本音は一夏の隣に座り、保険医が来るまで待つことにした。

何もすることが無い本音は暫しぼぉーとしていると、肩にコテンと一夏がもたれ掛って来た。

 

「ふえ? イッチー、相当疲れたんだぁ」

 

そう零しながら一夏の寝顔を見る本音。スヤスヤと寝るその寝顔に本音は朗らかな笑みを浮かべていると、ふとある事を思いつく。

 

「このままだと寝づらいだろし、こうしてあ~げよっと」

 

そう言いながら本音はそっと体を動かしながら、一夏の頭を自身の膝の上に乗せる。

 

「えへへへ、こうしたらイッチーも寝やすいよね」

 

そう言い暫し一夏の寝顔を見ながら暇を潰す本音であった。

 

 

 

 

その頃アリーナの観客席では次の試合が今か今かと待ちわびていた。

それは1組の生徒達も例外ではなく、皆ソワソワしていた。

 

「うぅ~、次の試合の4組の代表も、代表候補生なんでしょ? 織斑君大丈夫かなぁ?」

 

「うぅ~ん、どうだろう? さっき試合を見に行っていた友達から聞いた話じゃあ、4組の代表の子は大量のミサイルを撃っていたって聞いてるよ」

 

「ミサイル? それなら織斑君なら問題無いでしょ。織斑君のISの弾幕なら『お知らせします』ん? なんだろう?」

 

皆一夏なら余裕で勝てる。そう話し合っているとアナウンスが入り全員静かになった。

 

『1組代表の織斑一夏君が体調不良の為、次の試合を辞退致しました。その為4組の不戦勝となりますので、次の試合は4組対5組の試合を行います』

 

突然のアナウンスに観客席は騒然となり、1組の生徒達も騒然となった。

 

「ウソ、織斑君辞退!?」

 

「そ、それより体調不良って、織斑君大丈夫なの!?」

 

「ちょ、ちょっと本音さん、織斑君の様子をって、居ないし!?」

 

一夏が体調不良と聞き1組の生徒達は騒然となり、様子を見に行って貰おうと本音に声を掛けようとしたが肝心の本音が居ない事に更に騒然となった。

 

「本音だったら、ちょっと前に織斑君の様子を見に行ってくるって行ったよ」

 

「え? そうなの? それじゃあ連絡を取って様子だけ聞いてみる?」

 

「そうしたいけど、本音と連絡が取れないのよ。何度電話しても繋がらないからさっきメッセージを送っておいたわ」

 

「そうなんだ。それじゃあ私達も後片付けをして帰ろっか」

 

「そうだね。あ、織斑君が復帰したらさ、またパーティーしない? 【織斑君初勝利おめでとうパーティー!】ってな感じで」

 

「お、それ良いね! じゃあまた皆と計画立てよっか?」

 

「「「「「おぉー!」」」」

 

と、和気藹々しながら1組の生徒達は後片付けを始めるのであった。




次回予告
医務室で目を覚ました一夏。医師の診察を受けた後、医務室まで付いて来てくれていた本音と共に寮へと帰っていく。
帰り道、一夏は本音にあるお願いをするのであった。
次回
お願いごと~一夏君専属の医師として、当然の事だよ~

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