『キーンコーンカーンコーン』
授業終了を知らせるチャイムが鳴り響き、教卓に立っていた千冬はチョークを箱に戻し生徒達の方に体を向ける。
「では、本日は此処までとする。織斑、挨拶を」
「は、はい。起立、礼」
『ありがとうございました!』
「着席」
そう言うと千冬や真耶は教室から出て行き寮に帰る者、部活に行く者と生徒達は準備を始める。
一夏もカバンに教科書やノートを仕舞い席から立ち上がる。
「あ、イッチー。今日から部活だっけ?」
「う、うん。まだ他の部員の人達と挨拶してないから、凄く緊張してるけど」
「大丈夫だよぉ。イッチーなら出来るって!」
そう言い本音は一夏を応援する。本音の応援に一夏は少し照れた表情を浮かべながら、あ、ありがとう。と返しモッフ達と共に料理研究部の活動部屋である家庭科室へと向かった。
ところで、自身で作ったサンドイッチを食べ気分を悪くしたセシリアはと言うと
「あぁぁぁあぁああぁぁぁぁあ」
と保健室のベッドで魘されていた。
何故保健室に居るのか。簡単に説明すると
サンドイッチを食べ気分を害する
↓
トイレに駆け込もうと、走り出す
↓
教師に見つかり、お説教される
↓
我慢の限界に達し、気を失う
↓
保健室へと運び込まれる
と言う訳である。
因みにセシリアが作ったサンドイッチは、危険物として焼却処分された。
暫し学園内を歩き、モッフ達と共に家庭科室へと到着した一夏。恐怖心と不安が圧し掛かりつつも、一夏は扉をノックした。
『どうぞぉ』
そう中から聞こえると、一夏は恐る恐る扉を開けた。
「し、失礼します」
そう言いながら中に入ると調理実習台が並んでいる側には6人程の生徒達が座っており、前の調理実習台には入部届を出しに行った際に居た先輩が居た。
「おぉ、来た来た。それじゃあ先に自己紹介をお願いして良い?」
「は、はい」
先輩の言葉に一夏はビクビクしながらも他の部員たちの前へと立つ。家庭科室の後ろにはモッフ達が居り頑張れと小さく応援していた。
「お、織斑一夏と言います。りょ、料理には少し自信があります。ど、どうか、よろしくお願いします」
そう言い頭を下げる一夏。暫し沈黙した後生徒達はパチパチと拍手を始めた。
「うん、宜しくねぇ織斑君」
「よろしくねぇ」
「どれ程の腕か楽しみにさせてもらうね」
部員達は一夏の入部に優しく向かい入れる姿に、一夏は心の中でホッと一安心した。
「それじゃあ織斑君は、其処の実習机で良い?」
「わ、分かりました」
部長の指示に一夏は後ろに並んでいる実習机の一つの席に着いた。
「それじゃあ皆の自己紹介をするね。まず私がこの料理研究部の部長、セレスティーヌ = コンヴェルシ。皆からはセレスって言われているからよろしくね」
「私は稲葉紀子。セレスとは入学前からの友人なの。宜しくね、織斑君」
「神崎里佳子じゃ。喋り方は家の事情故これなのじゃ。よろしく頼むぞ」
「私は狗山あおいやでぇ。よろしくねぇ」
「藤條朱乃と申します。どうかよろしくお願いしたしますわ」
「ニコラス・アレルヤです。ニコって呼んでね」
「アメリア・ランバートよ。気軽にアメリアって呼んでちょうだい」
部長のセレスの挨拶から部員たちの挨拶が終わり、一夏は再度宜しくお願いします。とお辞儀をする。
「さて、自己紹介は終わったけど……。織斑君、後ろにいるあの2体の着ぐるみは一体?」
「あ、あのお二人は僕の護衛の方達です」
一夏がそう紹介するとモッフ達はふもっふ!と言いながら敬礼する。
「そ、そう、分かったわ。それじゃあ早速部活を始めたいと思います。お題は『みんな大好き 菓子パン』という事で、それぞれ調べてきたレシピで調理を始めてね。それとさっき手渡した紙に書かれた織斑君の接し方についても注意するようにね」
「「「「はぁ~い!」」」」
「は、はい」
セレスの開始の合図と共に皆は調理準備を始め、一夏もエプロンや三角巾を身に付け調理準備を始めた。
皆は持ってきた材料をボールや鍋などに入れながらパン生地を作っていく。すると神崎は一夏の調理している様子に首を傾げた。
「ん? のぉ、織斑よ。少し良いか?」
「ふえ? えっと、だ、大丈夫です。何でしょうか?」
少し距離が離れていた為、怖がることは無かったが突然声を掛けられたことに少し怯えながらも神崎の方に顔を向ける。
「お主の机にあるそれはなんじゃ? 小麦粉ではなさそうじゃが…」
神崎がそう言い一夏の机の上にある袋を指さす。神崎の言葉に他の部員達も一夏の方に顔を向ける。
「こ、これは“米粉”です」
「米粉? 米粉って確か米を粉末状にした物よね。なんで米粉を?」
稲葉は一夏が持ってきた米粉に首を傾げながら問う。菓子パンとは言えパンと同じ材料を使用しており、その大本が小麦粉である。
だが一夏は小麦粉ではなく米粉を使って菓子パンを作ろうとしていた。
「そ、その、前にテレビで米粉を使ったパンの作り方をしていたんです。それで少し試したくて。そ、それと……」
「それと?」
説明の途中で急に言いづらそうな表情になる一夏に、皆首を傾げながら見守っていると
「その、こ、小麦粉アレルギーの人でも美味しく食べられるパンをその、作れるようになったらいいなと思って」
縮こまりながらも、説明する一夏に部員達は
(((え、何あの可愛い後輩君(同級生)は? めっちゃ抱きしめたいんだけど?)))
と心の中で思った。
「あ、あの、何か?」
「はっ! う、ううん。何でも無いよ! それは立派な事だと思うよ!」
「う、うむ。確かにアレルギーを持っている者でも食べられるパンを作るのは立派な事じゃ!」
「その通りですわ。他者を気遣ってその様な配慮をできるお方はそうそうおられませんわ」
部員たちにそう言われ、一夏は顔を真っ赤にさせながら俯きながら作業を再開した。
今まで女性に怯えながら生活してきたため、一夏は女性、特に姉である千冬以外から褒められた事が余り無かった。
最初は自身の思いを馬鹿にされると思っていたが、まさかの高評価に思わず驚きと羞恥心が沸き上がり、部員達の方に顔を向けるが恥ずかしくなり作業に戻ったのだ。
そして暫くしてそれぞれの調理台には色とりどりの菓子パンが置かれていた。
ジャムパンにあんパン、そしてメロンパンにクリームパン。どれも美味しそうに見える中、部員達が特に気になっているのが、一夏が作ったパンであった。
一夏が作ったのは米粉のミルクパンであった。
「よし、それじゃあ皆それぞれ行き渡っているわね。それじゃあ」
「「「いただきまぁす(のじゃ)!」」」
「い、いただきます」
それぞれパンを手に取り口へと運び食べ始めた。無論一夏もパンを口に運ぼうとする前にチラッとモッフ達の方に目を向ける。
モッフ達は一夏の視線に気付くとコクリと頷きながら部員達から見えない様コッソリと背中からプラカードを見せる
【(・ω・)bグッ】
それを見た一夏はこっそりとホッと息を吐いた後菓子パンを頬ばり始める。
一夏がモッフ達に確認したのは調理中変なものが入れられていないか、それを確認したのだ。
無論一夏自身部員達がそんな事はすることは無いと信じたい。だがどうしても不安になってしまう。
その為モッフ達に部員達の調理の様子を見て貰っていたのだ。
モッフ達に確認を終え、一夏は安心した様子でパンを口一杯に頬張りながら
「モヒ( ´ω`c)モヒ」
と幸せそうな表情でパンを食べる姿に
((((あぁ、何だか和むなぁ(のじゃ)))))
とほんわかした表情でパンを食べていた。そして最後に皆は一夏の作ったパンを手に取る。
「それじゃあ最後は織斑君のパンを食べるわよぉ」
「楽しみだなぁ」
「見た目も良いし、香りも凄く香ばしい」
「そやねぇ。はよう食べたいわぁ」
「それじゃあいただきます」
そう言い皆一夏のミルクパンを頬張る。一夏は不安そうな表情を浮かべながら見守っていた。
そして
『おいしぃい!!』
と全員声を揃えながら張り上げた。
「外はサクッてしていて、中はふんわりしてる!」
「それになんだか優しい味だわ」
「うむ、この様な甘美なパンは初めてじゃ」
「めっちゃ美味しいわぁ」
「本当においしいですわ。これでしたら紅茶とも相性がよさそうですわ」
「本当に美味しいね、これ!」
「確かに美味しいわね。ねえ、織斑君。これってなにか入れているの?」
アメリアにそう問われ、一夏は照れた表情を浮かべながら答える。
「い、いえ。レシピに載っていた通りに作ったので特に何も…」
「そうなの。でも此処までふんわりしているのは凄いわね」
「そうだね。ん? ねぇ織斑君」
「は、はい。何でしょうか?」
「あそこのトレーの上に残っているパンは?」
セレスにそう聞かれ一夏は自分の机に置かれているトレーへと顔を向ける。トレーにはまだ2つ程パンが残っていた。
「こ、これはお姉じゃなくて織斑先生と友達に渡すパンです」
「友達は分かるけど、織斑先生にも? どうしてまた?」
「その、織斑先生のお陰で、この部活にも出会えたし、他にも色んなことでお世話になってるからお礼にと思って。……あの、もしかしてダメ、何でしょうか?」
「え? ダメって?」
突然一夏が困った表情で駄目なのかと聞いてくる事にセレスは戸惑いの表情を浮かべる。
「つ、作った料理は他人に手渡すのがです」
「あ、あぁ。別に問題無いわよ。皆も作った料理は少し多めに作ったりして友達とかに手渡しているからね」
「そ、そうですか。良かったぁ」
セレスの説明に一夏はホッと安心した表情をうかべる。
そしてパンを食べ終えた部員達は道具やシンクの清掃を行い、そしてそれぞれ席に着く。
「それじゃあ今日は此処までにしましょうか。それで、次は何のお題をするかお題を書いて貰ってもいい?」
そう言いながらセレスは白紙の紙をそれぞれ手渡していく。皆何にしようかなと思いながら思案にふけながらも思いついた物を書いていく。一夏も何にしようか悩みながらも思いついた物を書いた。
そして書かれた紙が集められそれぞれ黒板に貼られていく。
紙にはそれぞれ
『ピザ』
『ホールケーキ』
『中華料理』
『丼物』
『麺料理』
「さて、それじゃあ皆どれがいいかな?」
「無難なのは丼物とかどうじゃ?」
「それもいいけど、ピザとかはどう? シーフードだったりミートピザだったり、色々種類もあるからアレンジレシピとか浮かび易そうだし」
「それだったらホールケーキもよろしくありません? ショートケーキやチーズケーキとか色々ありますわ」
「うぅ~ん、どれも想像しただけで涎が出てくるなぁ」
皆悩んでいる中、一夏もどれがいいだろうと思い見ていた。
暫しどれにするかと悩み、話し合いが行われるが結局決まらずセレスはお題の紙を全て事前に準備しておいた箱に入れシャッフルし、手を入れて一枚引き出した。
セレスが引き出したお題には
『旬の食材を使った料理』
と書かれていた。
「えぇ、次回のお題は『旬の食材を使った料理』となりました。因みにこれを書いたのって誰?」
皆を見渡すようにセレスが問うと、おずおずと一夏が手を挙げた。
「ぼ、僕です」
「お! 織斑君かぁ。因みに理由は?」
「その、そろそろ夏にも近付いてきたので旬の食材を使った料理を作って見たいなと思いまして。そ、それに部活の名前の通り、旬の食材で出来る美味しい料理の研究にもなると思いまして」
一夏の説明に部員達は確かにと納得の表情を浮かべる。
「それじゃあ次の部活は旬の食材を使った料理としまぁす。次の部活は木曜日になるから皆それまでに食材とレシピを準備してきてねぇ」
「「「「はぁ~い」」」」
「は、はい」
こうして一夏の初めての部活動は無事に終わり、一夏は袋に入れたパンを持ってモッフ達と共に寮へと帰って行った。
登場人物
セレスティーヌ = コンヴェルシ
姿 崩壊3rd キアナ・カスラナ
料理研究部部長の3年生。食べることが好きで自ら美味しい料理を探求するべく料理研究部に入部。結果部長まで昇進した。
稲葉紀子
姿 崩壊3rd 雷電芽衣
料理研究部の部員というよりも副部長に近い3年生。小さい頃からセレスとは友人で、美味しいものの為に突き進むセレスのサポート役を担っている。誰に対しても分け隔てなく接することから、『研究部のお母さん』とひそかに呼ばれている。
神崎里佳子
姿 世話やきキツネの仙狐さん 仙狐
喋りが独特な2年生。身長は一夏より少し上。明るく人を元気にさせるのが生きがい。
狗山あおい
姿 ゆるキャン 犬山あおい
1年生でのんびりとした関西弁で喋る子。悪意のないホラ話をして、最後には「ウソやで~」と言って締める姿に、皆を和やかにさせる。
藤條朱乃
姿 HSD&D 姫島朱乃
撫子口調の2年生。実家が有名な和菓子店で、本人も和菓子作りが得意。料理の腕が鈍らないようにする為と、実家の和菓子店を広く知って貰うべく料理研究部に入部した。
ニコラス・アレルヤ
姿 ギャラクシーエンジェル ミルフィーユ・桜葉
元気いっぱいの1年生。何事にも元気いっぱいに挑戦し、失敗してもへこたれず再挑戦を繰り返す。
ちょっぴりアホの子だが、ときおり鋭い閃きを発揮して摩訶不思議な料理を生み出す。(これまで不味い料理を出したことが無い)
アメリア・ランバート
姿 セキレイ 月海
とある企業のご令嬢らしく、料理などはしたことが無かったが学園に入学後初めてやったところ、その楽しさにはまり日夜勉強をする努力家。
次回予告
部活で作ったパンを千冬に届け、一夏は寮の部屋に帰ろうとした所、デュノアと鉢合い少し話す事に。
早々にデュノアとの会話を切り上げ、一夏は本音の元にパンを届けに向かった。
次回
手作りパンのお届け~い、一夏の手作り、パン!~