初めての部活動の次の日、一夏は朝早くから部屋で弁当作りを行っていた。
「えっと、昨日用意したホウレン草のお浸しも入れたし、海苔入り卵焼きも入れた。ウィンナーも入れた。うん、準備よし」
弁当箱に入れたおかずを確認し蓋をする一夏。
〈相変わらず美味しそうなお弁当を作るわね、アンタ〉
「そ、そうかな? ……あと、これどうしよう」
一夏はそう呟きながらある物に向け困った表情を浮かべる。
〈どうするの? 残ったお浸しと卵焼き〉
ISコアにいるアイラは呆れた様な口調で言う。そう、一夏が困った表情を浮かべた理由はボウルに残ったホウレン草のお浸しと半分ほど余った海苔入りの卵焼きであったであった。
「どうしよう。……あ、そうだ!」
困った表情を浮かべていた一夏だが、何かを思いついたのかキッチン下の棚からタッパーを取り出し残ったお浸しと卵焼きを詰める。
〈どうするのよ?〉
「その、本音さん達のお昼の足しにして貰おうと思う」
〈なるほど。まぁ確かに彼女達なら喜んで食べるでしょうね〉
アイラはフッと笑みを浮かべているのかそう言い、一夏はそうだといいなぁ。と少し不安な表情を浮かべながらカバンの中に弁当とタッパーを入れる。すると扉をノックする音が鳴り響く。そして
『イッチー、教室行こぉ!』
と、何時もと変わらない時間にやってくる本音。
「あ、はぁ~い。ちょ、ちょっと待っててください」
そう言いながら一夏は鞄を背負い玄関で靴を履き替え扉を開ける。扉の先には笑顔を浮かべた本音が立っていた。
「おはよぉ、イッチー」
「お、おはよう本音さん」
そう挨拶を交わしながら一夏は扉に鍵を掛ける。それと同時にボヒュボヒュと2体のモッフ達が隣に何時の間にか出来ていた『警護室』と書かれた部屋から出てきた。
「あ、おはようございます。えっと、今日は7号さんと9号さんですか?」
【はい。交代制で警護することになりました。本日はよろしくお願いします。(`・ω・´)ゞ】
そうプラカードを見せながら敬礼するモッフ(7号と9号)達。
「はい。今日も、お願いします」
そう言い一夏はモッフ達の警護の元本音と共に教室へと向かった。
「昨日はありがとうね、パン」
「い、いえ。本音さんにはその、色々お世話になってるので、少しでも恩が返せたらなと思って渡しただけなので」
一夏は照れた表情を浮かべながら、喜んでもらえてよかった。と内心喜んでいた。
そして二人と2体は教室へと到着し、一夏と本音は中へと入り、モッフ達は廊下に残り一夏の席から一番近い扉の両脇に立ち銃を携えながら警備を始めた。
教室内に入った一夏は直ぐに自身の机に座り教科書やノートを机の中に仕舞う。
そして顔を上げると、相川と鷹月が笑みを浮かべながら近付く。
「織斑君おはよ!」
「おはよう織斑君!」
「お、おはよう、ございます」
「おはよぉ、2人ともぉ」
相川と鷹月は2人の元に来ると何気ない談笑をしながら時間を潰していく。すると
「おはよう」
とデュノアが笑顔で挨拶をしてきた。
「あ、デュノア君おはよう!」
「おはよう相川さん。織斑君もおはよう!」
「……お、おはようございます」
と一夏にとびっきりの笑顔で挨拶をするデュノアに一夏は一瞬ビクッとなりながら小さく挨拶する。
隣の本音は一夏の様子に若干首を傾げつつも、その様子を見守り続けた。
そして会話グループの中にデュノアも交ざり談笑が再開する。
すると相川が何か思い出したような顔つきになり一夏の方に顔を向ける。
「そうだ、織斑君。昨日本音にパンあげたでしょ?」
「えっと、はい。その、日頃のお礼にと思ってあげましたけど…」
「実はね、私も少しだけ本音に貰った。対価は大きかったけど」
「? な、何か言いました?」
「う、うぅん。何も無いよ。で、あのパンすっごく美味しかったよ!」
「そ、そうですか? それは良かったです」
はにかみながら笑顔を浮かべる一夏。その姿にほんわかした表情を浮かべる4人。するとデュノアがある事を本音に聞く。
「パンって?」
「イッチーが部活で作ったパンだよ。イッチーは料理が得意なんだぁ」
そう言うとデュノアはへぇ~。と声を漏らす。
「凄いねぇ、織斑君! その歳でパンとか難しい料理が出来るって!」
そう言いデュノアはつい一夏の頭を撫でてしまった。デュノアはただ褒めるために頭を撫でてあげただけであるが
「……」ガタガタ
「えっ?」
一夏の表情はみるみる悪くなりデュノアや相川達はどうしたんだろう?と心配そうな表情を浮かべてる。そんな中本音は直ぐに一夏の身に何が起きているのか察した
「イッチーから離れて‼」
そう叫び一夏の頭からデュノアの手を払い除けようとする前に一夏の発作の方が早かった。
「ひやぁあぁああぁ!???!!」
そう叫ぶと同時に一夏は椅子から転げ落ちる。
「い、イッチー!?」
転げ落ちた一夏に本音は急いで駆け寄り一夏の容態を診る。すると扉から一夏の悲鳴を聞いたのかモッフ達が入ってくる。そして一体は無線機で何処かに連絡を取り、もう一体は周囲警戒の為武器を構える。
「イッチー、大丈夫!?」
そう声を掛けるも一夏から返答はなく、それが余計に本音を不安に駆らせる。
「あぁぁ、ど、どうしたらぁ。あっ! く、薬!」
思い出したかのように本音は一夏が発作を起こした時に打っているペン型注射器を探す。
「えっと。えっと。あ、あった!」
上着の外や内ポケットなど手当たり次第に探して発見し、直ぐに一夏の腕に注射した。注射したと同時にチャイムの音が鳴り響き教室の前の扉が開く。
「おい、既にチャイムは鳴っているって、一体何をしているんだ?」
扉から入って来た千冬は席に座らず人だかりの様に集まっている生徒達に声を掛ける。
「あ、お、織斑先生! お、織斑君が!」
「織斑がどうしたんだ?」
「きゅ、急に悲鳴を上げて倒れたんです!」
「な、なにぃ!?」
生徒達の報告に千冬は驚き急ぎ生徒達を掻き分けて進むと、倒れた一夏と心配した表情で一夏に話しかけ続ける本音。そして
「ふもぉ」
「……」
モッフに武器を向けられ冷や汗を流しながら手を挙げるデュノアの姿があった。
「布仏! い、一夏の容態は?」
「そ、それが薬を打ったんですけど、目を覚まさないんです!」
「薬は打ったんだな? そうか、それならいい。重度の場合は強制的に眠らせる作用がある」
千冬の説明に本音は安心したような表情を浮かべ、重い息を吐く。
すると今度は複数のボヒュボヒュと足音が鳴り響き、扉からフモッフを先頭に数体のモッフ達が現れた。
「フモッフか。どうした?」
【担架を持ってきた。それと捕縛が必要と報告を受けた為人員も連れてきた】
プラカードを見せながらフモッフは後ろに居たモッフ数体に指示を出し一夏を担架に乗せる。
「そうか。それじゃあ布仏。すまんが一夏を頼む」
「分かりましたぁ」
そう言い本音は担架に乗せられた一夏とモッフ達と共に教室から出て行った。
2人とモッフ達が出て行った後、千冬はモッフ(7号と9号)に銃を向けられたデュノアの方に顔を向ける。その顔は般若の様に恐ろしい表情を浮かべていた。
「さて、一体何をしたデュノア?」
「あ、あの。ぼ、僕はただ、織斑君の、頭をその、撫でただけで…」
千冬から発せられる威圧感に怯えながらデュノアは振るえる唇で答える。
「あ、あの織斑先生。織斑君は、その、きっと驚いて症状が出たんじゃないんですか?」
1組の生徒の一人が、デュノアを庇う様にそう言うと何人かもそうですよ。と同意するように頷く。
「確かに突然頭を撫でられたら、織斑も驚くだろう。だがな」
千冬は一旦言葉を区切ると、デュノアを鋭く睨みつける。
「それが男性だった場合は、症状など起きることは無い」
「「「「えっ?」」」」
千冬の口から出た言葉に生徒達全員が呆けた顔を浮かべる。
「で、でもデュノア君は男ですよ?」
「そ、そうです。それだったら何で織斑君は症状が起きたんですか?」
「決まっている。
千冬の突然の爆弾発言に1組の生徒達は暫し思考が停止したのかシーンと静まり返り、デュノアは何でバレてるの!?と言いたげな表情を浮かべていた。
「ふん。何で知っているのかと言いたげな表情だな、デュノア。だがその説明は後で取調室でたっぷりと聞かせてやるから覚悟しろ。モッフ、そいつを独居房にぶち込んでおけ!」
「「ふもっふ!」」
千冬の指令にモッフ7号と9号は了承し、固まっているデュノアを拘束し担ぎ上げて連行していった。
(よし、面倒ごとの一つが片付いたな。……後一つ、どうやって片付けるか)
千冬はデュノアの件は簡単に片付いたが、もう一つのボーデヴィッヒの件はどうやって片付けようかと思案しながら固まった生徒達を起こしてSHRを始めるのであった。
次回予告
医務室に運ばれ目を覚ました一夏。伊田の問診後、本音と共に教室へと戻る。
その頃、SHRを終えた千冬は取調室へと赴きデュノアと対峙していた。
次回
バレた理由~これはお前の物だな?~