女性恐怖症の一夏君   作:のんびり日和

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26話

~職員室~

アリーナでの一件を手早く済ませた千冬は、重いため息を吐きながら自身の机に置いてあるコーヒーを口にする。

そしてカップに入ったコーヒーを飲み干すと、千冬は現在の時刻を確認する。

 

(16時半か。明日の教材の準備は済んでいるし、どうしたものか)

 

そう思いながら机の上を整理していると、書類を抱えた真耶が千冬の隣の席へと戻ってくる。

 

「あ、先輩。さっきのアリーナの喧嘩、大丈夫でしたか?」

 

「あんなもの早々に片付く。で、あの馬鹿者どもは何時まで反省房に放り込んでおくと決まった?」

 

「えっと、上層部と学園長の協議の結果、タッグマッチ戦までだそうです」

 

「チッ。もっと長い事放り込めばいいものを」

 

舌打ち交じりで言う千冬に、真耶は苦笑いを浮かべながら持っていた資料を見つめながら分けて行く。

 

「アリーナの設備を壊したと言うよりもへこみやクレーターを造ったりした程度などで、そんなに長くは放り込めませんよ」

 

「それでもだ。周りに生徒達が居たと言うのにそれを全く気にもしないでいきなりで模擬戦を始めたんだぞ? それを考慮してもタッグマッチ戦までは短すぎる」

 

「…確かにそうですね」

 

千冬の説明に真耶も若干思うところがあるのか、若干悲しい表情を浮かべる。

自身が受け持った生徒が喧嘩、それも周りに人がいる状況でISを使った喧嘩を始めたのだ。

下手をすれば死人も出る恐れがあった事だけに、真耶はセシリア達に十分反省してくれることを切に願っていた。

 

真耶と駄弁っている間に時刻は17時を過ぎ、千冬は寮母室に戻ると真耶に伝え手提げかばんを持って職員室を後にした。

寮母室に戻った千冬は手提げカバンから弁当箱を取り出し流し台でサッと洗い、乾燥機の中に仕舞いソファに深く座り込む。

自然と重いため息が零れ目を閉じていると

 

[コンコン]

 

と扉をノックする音が鳴り響き、閉じていた目を開け体を起こし扉の前まで行く千冬。

 

「誰だ?」

 

『あ、あの、織斑です』

 

「織斑? 鍵は開いてる。中に入れ」

 

そう言うと扉がそっと開き顔を覗かせたのは心配そうな表情を浮かべた一夏だった。

 

「お、お邪魔します」

 

そう言い中に入る一夏。

 

「どうかしたのか一夏?」

 

「あの、モッフさん達からアリーナで喧嘩が起きて、お姉ちゃんが止めに行ったって聞いて心配になって…」

 

そう告げる一夏に千冬は

 

「そ、そうか」

(う、うぅぅぅううぅ。や、優しいなぁ一夏。お、お姉ちゃん。そんな優しい弟がいて幸せだぞぉ!)

 

と内心泣き喜んでいた。

 

「見ての通り怪我はない。私はそう軟に鍛えていないからな」

 

「そ、そっかぁ。良かったぁ」

 

安心したようにほっと胸を撫で下ろす一夏。

すると一夏は手をもじもじさせる。

 

「あの、お姉ちゃん。この後、時間ってある?」

 

「ん、時間か? そりゃあ消灯時間までは私は此処にいるが、どうしてだ?」

 

「その、久しぶりに、お姉ちゃんとご飯を食べたいと思って…。だ、駄目かな?」

 

上目遣いで聞いてくる一夏。その姿に千冬は

 

(い、いかん。は、鼻から血が出そう…)

 

と弟ラブメーターが一気に急上昇した為か鼻から溢れ出そうになるものを必死に抑える。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「はっ!? だ、大丈夫だぞ! し、しかし食材がなぁ」

 

そう言いながら千冬は今朝の冷蔵庫の中身を思い出す。

 

(確か、昨日作った煮物の残りと冷凍餃子。それとキャベツくらいだったか?)

 

碌な食材が無いな。と思っていると

 

「い、一応僕の部屋から少し持って来てるから、それで出来るよ」

 

「そうか。…ん? も、もしかて、一夏が作ってくれるのか?」

 

「うん」

 

「それは楽しみだな」(久しぶりの一夏の手料理! 此処で食わねば何時食えるか分からん!)

 

中々忙しい余りに一夏の手料理が食べられずにいた千冬にとって、この機会は滅多にないチャンス。

だからこそ

 

(この時間に仕事を持ち込もうとしてきたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらゆる手段を用いて断る!)

 

と考えていた。

 

キッチンに立ち一夏は冷蔵庫に入っている物を確認し、一夏は冷蔵庫から煮物と餃子、キャベツを取り出し調理を開始した。

キッチンからシャカシャカと米を研ぐ音を聞きながら千冬はほっこりとした笑みを浮かべながらその様子を見ていた。

 

(はぁ、久しぶりの手料理。楽しみだなぁ)

 

そう思いながら一夏が出してくれたきゅうりの浅漬け(手作り)を食べる千冬。すると

 

[コンコン]

 

とノックする音が鳴り響く。

 

(チッ。仕事だったら適当に理由を付けて断るか)

 

そう思いながら千冬は鍵を開け扉を開けると、其処には

 

「よぉ千冬」

 

「なんだ伊田か。何か用か?」

 

扉を開けた先にいた伊田に問う千冬。

 

「いや、久しぶりに二人で晩酌でもどうかなと思ってな。あぁ、無論ノンアルの酒だからな」

 

そう言いながら手に持っていた大きめのビニール袋を見せる伊田。

 

「それはいいな。あ、そうだ。ちょっと待っててくれ」

 

ある事を思いついた千冬は中に入っていき、キッチンにいた一夏に声を掛ける。

 

「一夏、伊田が来たんだがアイツも交じってもいいか?」

 

「え、伊田さんも? うん、良いよ」

 

一夏の許可を貰い千冬は入り口にいた伊田を中へと招き入れる。

 

「おじゃましますっと、やぁ一夏君」

 

「こ、こんばんわ伊田さん」

 

「千冬、もしかして今晩は一夏君の手料理だったのか?」

 

「あぁ。ほら、何時までも立っていないでこっちに座ったらどうだ」

 

そう誘われ伊田は千冬の向かいの席に座る。そして料理が出来るまで千冬と同様に浅漬けを口にしていた。

 

それから暫くしてお盆に料理を載せて持ってくる一夏。

 

「お、お待たせしました」

 

そう言いお盆を机の上に置きそれぞれの前に並べて行く。

 

「おぉ、旨そうな炊き込みご飯だな」

 

「確かに、いい匂いがする」

 

千冬達の前に置かれたのは人参やゴボウ、油揚げなどが入った炊き込みご飯であった。

2人が炊き込みご飯の匂いにほんわかしていと、一夏が次に持ってきたのは大きめの鍋であった。

 

「ロールキャベツ、です」

 

そう言って鍋を置き、蓋を開けるとコンソメの匂いとロールキャベツとジャガイモがゴロゴロと転がっていた。

 

「ふむ、これも旨そうだ」

 

「そうだな」

 

料理を並び終えた一夏は伊田の隣の席に座り、それを確認した千冬はそれじゃあ。と声を掛けながら手を合わせる。

 

「頂きます」

 

「「頂きます/い、いただきます」」

 

そう言いながらそれぞれ箸を手にご飯を食べ始める。

 

「この炊き込みご飯、具材に味が染みていて旨いな」

 

「確かに。俺が来てからそんなに時間が経っている訳でもないのに、結構沁みてるな」

 

炊き込みご飯い入っているゴボウや筍など味が沁み難いものまでしっかりと味が沁みており、ご飯も味が濃すぎず、薄すぎずと言った丁度良い感じであった。

 

「この、炊き込ご飯。お姉ちゃんが作った煮物を使ったんだよ」

 

「ん? 煮物って冷蔵庫に入っていた物か?」

 

「うん」

 

「ほぉ、上手い活用法だな」

 

「だな。俺も煮物を作った時に余りそうだったら試してみるか」

 

そう言いながら炊き込みご飯を頬張る伊田。そして千冬は鍋に入っているロールキャベツをお玉で掬い、お椀によそってかぶりつく。

すると千冬は、かぶりついたロールキャベツにふと違和感を感じ、その断面を見る。

キャベツに包まれていたのは餃子であった。

 

「これ、餃子を巻いたのか?」

 

「う、うん。そのまま焼いても良かったんだけど、キャベツがあったからロールキャベツにしてみようと思って試してみたの」

 

「はぁ~、こういう調理法もあったのか」

 

千冬と伊田は改めて一夏の腕に驚くのであった。

その後談笑を交えながら千冬達は一夏の手料理を食べ終え、それぞれ湯呑に入った温かいお茶を飲みながらのんびりしていると千冬がふとある事を思い出し一夏の方に顔を向ける。

 

「そう言えば一夏。今朝話したトーナメント戦、お前は出るのか?」

 

「で、出たいと思ってるけど、その…」

 

目を伏せる一夏に、千冬と伊田は理由を察し苦笑いを浮かべる。

 

「全く、一夏。お前の事だ、布仏に迷惑を掛けているから頼みづらいと思ってるんだろ?」

 

「……」コクリ

 

千冬の言葉に一夏は小さく頷くと隣に座っていた伊田がポンと一夏の頭の上に手を置き撫でる。

 

「相変わらず心配性だな。まぁ、それが一夏君だからな仕方がないもんな」

 

「そうだな。一夏、明日布仏に聞くだけ聞いてみろ。アイツの事だから別に迷惑とは思っていないはずだからな」

 

「……う、うん。聞いてみる」

 

まだ心配なのか暗い表情を浮かべているが、ちょっとだけ一歩前に出せた事に千冬と伊田は優しい笑みを浮かべる。

 

時刻が20時となり、一夏は部屋へと帰って行き残った2人はノンアルの酒を飲みながら浅漬けと伊田の持ってきたつまみをつまむ。

 

「それにして一夏君の料理の腕、ますます上がっているんじゃないのか?」

 

「そうだな。まぁ、いいじゃないのか? 料理のできる男はモテると言うしな」

 

「それ、俺に対する当てつけか?」

 

口を尖らせながら言う伊田に千冬はそんな訳ないだろと笑みを零す。すると寮母室の窓が突然開き

 

「やっほ~~~! 束さんも混ぜてぇ!」

 

と束がぴょ~んと飛び込んできた。

 

「お前なぁ。いきなり飛び込んでくるな! 誰かに見られてって事は無いか」

 

「当たり前じゃん、ちーちゃん。この束さんを見つけられるのはちーちゃんとよー君といっくんだけだもん」

 

フフンと笑う束に伊田は苦笑い、千冬は呆れた様な溜息を吐くのであった。そして3人は消灯時間になるまで酒とつまみを食べながら駄弁り合うのであった。




次回予告
次の日、一夏は千冬に背中を押され本音にタッグを申し込もうとするが…

次回
一夏君、タッグを申し込む~お、お願い、しましゅ~

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