女性恐怖症の一夏君   作:のんびり日和

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27話

千冬と伊田と共に夕食を取った次の日。

時刻は朝6時と、起きている生徒は少なく起きている生徒は朝の部活動や早朝トレーニングなどを日課にしている生徒のみだった。

その頃一夏はと言うと

 

「スー、スー、スー」

 

と規則正しい寝息を立てながらお気に入りのアニマル縫いぐるみ(束作)を抱きながら寝ていた。

静かな時間が流れている部屋に、ずかずかと足音を立てながら近付く生徒が居た。

 

「全く一夏の奴め。もうすぐタッグマッチ戦が近付いていると言うのにまだのんきに寝ているのか」

 

と剣道着を着た箒が一夏の部屋近くまで来た。扉の前まで来た箒は扉に向かって大きく拳を振り下ろそうとしたが

 

「一夏起きっ!!??」

 

突如背後から首を絞められ、更には右脇から腕を通されたため右腕は上に伸び自由が利かない状態となった。

箒は振り解こうとするが、どうする事も出来ず意識を失いだらんとなる。背後から箒を羽交い締めをしたのはモッフだった。一体のみならず複数体がライフルを箒に構えていた。

彼等は一夏にとっての要警戒人物の一人となっている箒を寮内に仕掛けた監視カメラで監視しており、箒が一夏の部屋に向かおうとしていた為隠れて待機していたのだ。

その後モッフ達は箒を拘束し担ぎ上げ、反省房に放り投げ込むのであった。

廊下でそんな事があったにもかかわらず、部屋の中にいる一夏はと言うと

 

「もふもふぅ」

 

と寝言を零しながら縫いぐるみを抱きしめて寝ていた。

 

~一時間後~

 

ピピピピッ‼

 

ベッド横に備えられている目覚し時計がけたたましいアラーム音を鳴り響き、一夏はもぞもぞと腕を伸ばしてアラームを切る。そしてぼんやりとした表情を浮かべながらむくりと起き上がる。

 

「ふわぁ~~、おはよぉアイラぁ」

 

〈えぇ、おはよう。ほら、さっさと洗面台に行ってその爆発した寝ぐせを梳かしてきなさい〉

 

「うん」

 

アイラと会話した後、一夏はベッドからよろよろと降り洗面所へと向かう。

 

『――よって本日は一日晴天となるでしょう』

 

「ハムハム」

 

朝のニュース番組を見ながら一夏はイチゴジャムとマーガリンがたっぷりと塗られたトーストをかじりながら、昨日千冬達に言われた事を思い出す。

 

(お姉ちゃん達は大丈夫って言ってくれたけどやっぱり心配だなぁ)

 

そう思いながら一夏は不安な表情を浮かべながら最後の一かけらを食べ牛乳を口にする。皿やコップを水で満たした桶の中に入れると扉をノックする音が鳴り響き

 

『イッチー、教室に行こぉ!』

 

と本音の呼ぶ声が聞こえた。

 

「あ、はい。今行きます!」

 

本音にそう答えながら一夏はカバンを背負い廊下へと向かう。

扉を開けるとのほほんとした笑みを浮かべた本音が居た。

 

「おはよぉイッチー」

 

「お、おはようございます、本音さん」

 

挨拶していると、隣の警備室から2号と4号のモッフが出てきた。

 

「「フモッフ!(`・ω・´)ゞ」」

 

「おはよう、ございます」

 

「おはよぉ」

 

モッフ達にも挨拶した2人は教室に向かって歩き出した。

 

教室に向かう道中、一夏は本音にタッグの事を何時切り出そうと悩みながら歩を進めていた。隣にいた本音は一夏が何か思い悩んでいる表情に、首を傾げながらも一夏に問う。

 

「イッチー、どうかしたのぉ?」

 

「えっ?」

 

「なにか悩んでるのぉ? 私でよければ相談に乗るよぉ」

 

と笑顔で言う本音に、一夏は意を決して言おうと思い口を開く。

 

「あ、あの、本音さん。その、ぼ、僕と「あ、2人共おはよぉ!」「おはよう二人共」あうぅぅ」

 

意を決して本音にタッグを申し込もうとしたが、運悪く相川と鷹月の2人がやってきてしまった為挫かれるように止まってしまった。

 

「うん、おはよぉ。それでイッチー、なに?」

 

「あの、えっと、だ、大丈夫、です。さ、先に行ってます」

 

そう言い若干落ち込んだ表情を浮かべながら歩き出す一夏。その後姿に、本音は少し心配した表情を浮かべ、相川と鷹月は何とも言えない表情を浮かべながら見送る。

 

「なんか織斑君落ち込んじゃったけど、どうしたの?」

 

「わかんなぁい。なんか悩んでた表情を浮かべてたから相談に乗るよって言って何か言おうとしたところで二人が来て、結局聞けなかったなんだぁ」

 

「あちゃ~、間が悪い時に私たち来ちゃったのかぁ」

 

「だね。どうしよ」

 

「うぅ~ん。別に二人が悪い訳じゃないから気にしなくても良いと思うよ」

 

「そうだけど、織斑君が相談しようとした事も気になるし」

 

「もしかしてタッグの事じゃないのかなぁ?」

 

鷹月がそう言うと2人もあぁ、それかもと何処か納得のいった表情を浮かべる。

 

「確かに織斑君がトーナメント戦に出ようと思ってるなら、本音に申し込むもんね」

 

「そうだよね。でも、なんで悩んでたんだろ?」

 

「うぅ~ん、分かんない。取り合えず教室に行こ。イッチーの相談事は自分から話してくれるまで、聞かないであげよ」

 

「そうだね。タッグの申し込みだって決めつけるわけにもいかないし」

 

3人はそう話し合い、一夏が再度相談して来るまでは相談事は聞かないであげようと決めるのであった。

 

それから時間が経ち、4限目の授業終了のチャイムが鳴り響く教室。

あれから一夏は、本音達と談笑はすれどもタッグの申し込みが出来ず落ち込んだ表情を浮かべるの繰り返しだった。本音達も無理して聞こうとせず一夏の決心がつくまでは見守っていた。

 

〈はぁ、いい加減にタッグの申し込みしたらどうなのよ〉

 

呆れた様な口調で言うアイラに、一夏は落ち込んだ表情を浮かべる。

 

〈うぅぅ、い、言おうと思ってるんだけど、ど、どうしても断られたらと思うと、怖くて…〉

 

〈はぁ~、あの子の性格からしてそれは無いでしょ。というか絶対にあの子もアンタとタッグを組みたいと思ってるはずよ〉

 

〈そ、そうなのかなぁ?〉

 

〈気になるんだったら、さっさと聞いてきなさい〉

 

〈う、うん。き、聞いてみる〉

 

アイラに背中を押され、一夏は隣に座っている本音の方に顔を向ける。

 

「あ、あの、ほ、本音さん」

 

「うん、なぁにイッチー?」

 

「あの、ぼ、僕とた「織斑君、ちょっと話があるんだけど!」ヒッ!?」

 

意を決して本音に申し込もうとした矢先に、突然真横から話しかけられ一夏は肩を思いっきり跳ね上げた。

突然一夏に話しかけたのはデュノアで、満面の笑みを浮かべる彼女に周りにいた生徒達は一斉にデュノアを一夏から遠ざける。

 

「ちょっと、真横から織斑君に話しかけちゃダメでしょ!」

 

「そ、それはごめん。で、でも大事な話が合って…」

 

「大事だからって突然真横から話しかけちゃダメ! って、持ってるその紙って何?」

 

デュノアを遠ざけるのに手を貸した生徒の一人がデュノアの持っている紙に気付き見ようとするが、デュノアは見られまいと隠す。

 

「な、何でもないよ」

 

「何でも無い訳ないでしょ。その紙なに?」

 

「まさか、タッグマッチの希望票?」

 

「ギクッ」

 

一人がまさかとばかりに希望票と問うと、デュノアは一瞬体を硬直し視線を逸らす。

 

「ち、違うよ。ま、前の授業で配られたプリント。ちょっと、織斑君に教えてもらおうと思って…」

 

「だったら私達が見ても問題無いでしょ。なんで隠す必要があるの?」

 

「そ、そりゃあ見られたら恥ずかしいって、ちょっと何するのさ!」

 

デュノアは紙を見られまいと隠そうとしていたが、モッフ達が素早くその紙を奪い取り広げる。隠そうとしていた紙は推測通りタッグマッチの希望票の紙で、名前の欄には既にデュノアの名前が書かれており更に何故か一夏の名前も書かれていた。

その紙を見た生徒達はジト目でデュノアを見つめる。

 

「これ、どう言う事?」

 

「そ、そのぉ……」

 

言いづらそうな表情を浮かべながら視線があっちこっち泳ぐデュノアに生徒達は

 

「皆、デュノアさんに対する判決は?」

 

「「「「「勿論、ギルティ!!」」」」」

 

「えぇぇ!? ちょ、ちょっとまっ『バリリリ』あばっばっばばば

 

突然の有罪判決にデュノアは何とか弁明(言い訳)を言おうとするが、モッフの振り下ろしたスタンバトンの方が早く強烈な電撃を受け、デュノアはそのまま倒れ込む。そして廊下からモッフ数体が現れ、デュノアをロープで簀巻き状態で拘束し、そのまま運んで行った。

もはや1組の日常光景の様になってきた光景に、生徒達は気にも留めることなくお昼を取りに教室から出て行った。

 

「……」シュン

 

突然話しかけられた事に対し、何とか落ち着けたがまた出鼻を挫かれ言う事が出来なかった一夏。落ち込みながらご飯を食べようとすると

 

「イッチー、大丈夫ぅ?」

 

心配した表情で一夏に問う本音に、一夏はコクリと頷き返す。

 

「そっかぁ。…えっと、それで何か用があったんじゃないのぉ?」

 

「……えっと、や、やっぱり、大丈夫、です」

 

そう言いご飯を食べる一夏。本音はその姿に心配した表情を浮かべ続けていた。

 

 

 

因みにその光景に千冬は

 

「……デュノア、〆るか」

 

と持っていたチョークケースが潰れそうな位、手に力を込めていた。

 

 

 

~放課後~

カバンに教科書などを仕舞い、一夏はカバンを背負って教室を後にしようとすると

 

「あ、イッチー。ちょっと待ってぇ」

 

と本音から呼び止められた。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「この後、時間ってある?」

 

「え? あ、はい。ありますけど…」

 

「お、それじゃあこれ一緒に食べに外のベンチに行かない?」

 

そう言い本音がカバンから取り出したのは、スティック菓子だった。だがそのパッケージに一夏は驚いた表情を浮かべる。

 

「そ、それって、確か地域限定でしかも数量限定の」

 

「うん、こりじゃがのチョコバナナ味! えへへ、偶然昨日手に入ってね。イッチーと食べようと思ってとっといたの。だから一緒に食べよ」

 

「い、いいんですか?」

 

「うん、ほら行こ」

 

一夏はは、はい。と言い本音と共に教室を後にした。

教室を後にし、外の人通りの少ない所に置かれたベンチに2人は腰掛け、お菓子を頬ばり始めた。

 

「うぅ~~ん、美味しぃ」

 

「う、うん。チョコバナナの風味も良いし噛んだ時の触感も良い」

 

2人はお菓子に舌鼓しながらポリポリと食べ続ける。

 

「ねぇ、イッチー」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「此処だと誰にも邪魔されないと思うし、言えると思うよ」

 

「え?」

 

本音の言葉に一夏は呆けた顔を浮かべた。

 

「ほら、私に相談しようとするたびに話せなかったりしたじゃん。此処だったら来ないはずだからイッチーの相談に乗れるよ」

 

のほほんとした笑顔で言う本音に、一夏はジーンと胸が温かくなりながら、言うべきかどうか迷い顔を伏せる。

暫し沈黙が流れた後、一夏は意を決しして口を開く。

 

「あ、あの、ぼ、僕とた、タッグを組んでくだしゃい」

 

と本音に告げる一夏。が、緊張のあまり最後の方を噛んでしまい、耳まで赤くなるほど恥ずかしくなり俯く。

 

「うん、良いよぉ」

 

「ほ、本当に良いんです、か?」

 

「うん、私もイッチーとタッグを組みたいなぁって思ってたし」

 

了承する本音にそっと顔を上げ、はにかんだ笑みを浮かべる一夏。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

お礼を言う一夏にえへへへ。と笑顔を浮かべる本音。そして二人はお菓子を食べ終えた後、タッグの申請をしに職員室へと向かった。

職員室へと到着し中へと入る一夏と本音。一夏は怯えた表情を浮かべながら辺りをきょろきょろと見渡していると

 

「ん? 織斑か、其処で何をしている?」

 

と机に座っていた千冬が一夏に気付き声を掛けると、一夏と本音は足早に千冬の元へと向かった。

 

「あの、た、タッグの申請に、来ました」

 

「ふむ、布仏とタッグを組むんだな。布仏も織斑とタッグを組むことには同意したと捉えても良いか?」

 

「はい、イッチーとタッグを組みまぁす」

 

「分かった。それじゃあタッグの申請は私がしておく。頑張れよ、2人共」

 

「「は、はい/はぁい」」

 

2人はそう返事をして職員室から出て行き、千冬は事前に準備していた一夏と本音の名前の書かれた希望票を引き出しから取り出し判子を押す。

 

「よし、これで正式に決定だな」

 

そう呟いた千冬は2人が何処まで行けるだろうな。と考えに更けるのであった。




次回予告
ついに始まる学年別タッグマッチトーナメント戦。
一夏と本音は果たして優勝まで行けるのか。

次回
タッグマッチトーナメント戦 第一回戦
~「がんばろぉ!(≧▽≦)」「お、おぉ~」~

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