女性恐怖症の一夏君   作:のんびり日和

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30話

第2回戦を何とか乗り切った一夏と本音。ピットへと戻ってくるとすぐにベンチに座り、背もたれにもたれ掛かる。

2人は『はふぅ~』と息を漏らしながら力を抜く。

するとまたピットに備わっている通信端末に連絡が入り、本音が出ると其処には真耶が映っていた。

 

「あ、山田先生ぇ。何か用ですかぁ?」

 

『はい。次の試合の相手が決まりましたので、それを伝える様織斑先生に頼まれていたんです』

 

「そうだったんですかぁ。それで次の相手って誰なんですかぁ?」

 

『えぇと、次の対戦相手なんですが篠ノ之さんとボーデヴィッヒさんです』

 

「えっ?」

 

『ではお伝えしましたので、失礼しますね』

 

「あ、はぁい。次はしののんとラウラウだってって、イッチー大丈夫!?」

 

真耶と通信を終えた本音が振り返ると青褪めた表情をした一夏がいた。体も若干震えており、明らかに様子がおかしかった。

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫、です。けど、その、次の相手があの二人と聞いて、その、怖くなって…」

 

そう言い怯える一夏。本音は大丈夫だよぉ。と慰める。そしてコアにいるアイラが口を開く。

 

〈一夏。相手が訓練人形にしか見えない様にしたり声を聞こえない様にしても、名前だけを聞くだけでその震えじゃまともに戦えないわ。悪い事は言わない。棄権しなさい〉

 

アイラがそう言い状況を今の一夏の状態、そしてアリーナに出た場合の予想を伝える。だが一夏は

 

〈そ、それは嫌だ〉

 

〈一夏!〉

 

〈だ、だって。せ、折角本音さんとアイラのお陰で3回戦まで来れたのに、こんな形で棄権したくない〉

 

そう言い棄権したくないと首を横に振る一夏。

 

〈分かった。けど、少しでもアンタの体調に異常が感じられたら即棄権させるわよ〉

 

〈うん。……ごめんね、我儘言って〉

 

〈ふん、やるって言ったからにはしっかりしなさいよ〉

 

アイラと会話を終え、深呼吸を数回する一夏。

 

「あの、本音さん。もう、大丈夫です」

 

「本当にぃ? 無理なら棄権できるけど…」

 

「だ、大丈夫です」

 

そう言い必死に笑顔を浮かべる一夏。本音はまだ不安な表情を浮かべるが、わかったぁ。と言い了承し、ISの準備に取り掛かった。

 

2人が準備している間、アイラはドイツの軍ネットワークに侵入しボーデヴィッヒが使っているISについて調べていた。

 

〈(シュヴァルツェア・レーゲン。第3世代型で遠近共に戦える万能型。武装はワイヤーブレード6本にプラズマ手刀、それに大口径レールカノン。……武装とかに対して特に危険性は感じないけど、これだけは厄介ね)〉

 

アイラはシュヴァルツェア・レーゲンの装備、機能項目の一つに鋭い視線を向ける。

 

〈(AIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。範囲指定した場所に物体が触れると、動きを封じられるもの。面倒な物を載せているわね)〉

 

そう思いながらもアイラは不敵な笑みを浮かべていた。

 

〈(一対一の戦いなら流石に危ないけど、2対2なら問題無いわね。まぁ、この試合は実際には3対2だけどね)〉

 

そう思いながらアイラはあらゆる状況を想定した戦略を練り始めた。

 

 

 

それから暫くして試合開始時間となりそれぞれピットからアリーナへと出てきた。

ボーデヴィッヒの乗ったシュヴァルツェア・レーゲンと箒が乗った打鉄。一夏の目には訓練人形が搭乗しているように見えているが、乗っているのがあの二人だと一瞬思った所為か体が硬直しかかるが、直ぐに深呼吸して心を落ち着かせる。

隣にいた本音は心配した表情を浮かべながらも、援護できるようにと新たな装備を持って出て来ていた。

本音の左手には表面にデコボコと長方形上の物体が幾つも付いた大型の実体シールドを持ち、右手にアサルトライフルを装備していた。

観客席にいた生徒達は何故実体シールドを持ってきたんだ?と困惑した表情を浮かべており、それは1組の生徒達も同様だった。

 

「おい一夏! 何故そんな奴と組んだんだ!」

 

箒はそう怒鳴りながら一夏に問うが、一夏には声は届いていなかった。それに箒はわぁわぁと更に騒ぎ立てる。隣にいたボーデヴィッヒはめんどくさそうにチッと舌打ちを放ち、本音はムスッとした顔を浮かべていた。

更に

 

「織斑君が誰と組もうと関係ないでしょうがぁ!」

 

「自分の思い通りにいかないからって怒鳴る事ないでしょ!」

 

と、観客席にいた1組の生徒達からのブーイングが上がった。

 

更に更に

 

「……」メキメキ

 

「「「「……」」」」ダラダラ

 

管制室に戻って来た千冬がその光景を見て、殺気を漏らし持っていた缶コーヒー(スチール)を握り潰す。その光景に真耶や他の教員たちは自分達にそれが向けられている訳でもないのに冷や汗が止まらずにいた。

 

『で、ではカウントを始めます。3…2…1…試合開始!』

 

開始のアナウンスが流れたと同時に箒は打鉄の装備の一つ、葵を構えながら本音に迫る。

 

「でやぁぁぁ!」

 

「イッチー、こっちは任せてねぇ」

 

「わ、分かりました。無茶しないでくださいね」

 

迫ってくる箒を迎え撃つべく楯を構えながら前に立つ本音。一夏は本音の心配をしつつ、もう一方のボーデヴィッヒと戦うべく武器を構える。

 

〈アイラ、何か作戦ってあるの?〉

 

〈あるわよ。まぁ、作戦については追々説明するからまずはアイツに向かって鉛玉をプレゼントしてやりなさい〉

 

〈わ、分かった!〉

 

アイラの指示に一夏は両手に持ったMMP-80、更にサブアームの武装すべてをボーデヴィッヒに向け引き金を引く。

引き金と同時に響く破裂音と、薬莢がバラバラと落ちる音が鳴り響いた。

 

その頃本音と箒はと言うと

 

「でやぁぁ!」ブン

 

「ほいっと」ヒョイ

 

「はぁぁ!」ブン

 

「よっとぉ!」ヒョイ

 

と、箒の攻撃をひょいひょいとかわす本音。

 

「えぇい避けるなぁ!」

 

「避けないと負けるからや~だよぉ」

 

と言い本音はライフルで攻撃する。本音の攻撃に箒は避ける間もなく受け、ガリガリとSEを削られた。

 

「飛び道具を使うなど卑怯だぞ!」

 

「だったら自分も使ったらいいじゃん」

 

そう言いながら本音はライフルから空になったマガジンを抜き、新しいマガジンを挿す。

箒はその一瞬生まれた静止を見逃さず、一気に間合いを詰め斬りかかる。

その攻撃に本音は咄嗟にシールドを構える。

 

(そんな楯、叩き壊してやる!)

 

箒はそう思いながら葵を思いっきり振り下ろした。観客席の生徒達はただ攻撃を防いで次どうするのかと本音の行動を見守る。

だが、本音の持っているシールドは()()のシールドではないのだ。

振り下ろされた葵が本音のシールドにぶつかった瞬間

 

『ドッカァーーン!!』

 

と激しい爆発が起き、楯の前にいた箒はその爆発で大きく後方に吹き飛ばされた。

 

「あのシールドって…」

 

「あぁ、爆発反応装甲(エクスプロージョンリアクティブアーマー)搭載のシールドだな」

 

管制室に居た真耶が驚いている中、千冬は冷静に本音が持っていたシールドを呟く。

本音の持っていたシールドについていた長方形上の物、それが先程千冬が言ったエクスプロージョンリアクティブアーマー、爆発反応装甲なのである。

リアクティブアーマーは外部から加わった圧力や爆風によって反応し、爆風で砲弾などから守る一種の追加装甲板のようなものだ。

反応したリアクティブアーマーの個所の主装甲には若干の傷が残る程度で済むが、周囲にはリアクティブアーマーの鉄片や砲弾の欠片、更に爆風などが生じ、周りに被害を及ぼす。

これが敵であれば良いが、味方だったら相当な被害を及ぼす為使い勝手が悪い。

現代では旧世代型の戦車の近代化改修などで、追加の装甲板として使わていることが多い。

 

「それにしても本音さん。まさか篠ノ之さんが近接しかしてこないと分かっていたうえで、あのリアクティブアーマー搭載のシールドを持ってきたんですかね?」

 

「ふむ、多分そうじゃないのか?」

 

千冬の返答を聞きながらも真耶は凄い子ですねぇ。と本音を褒めていた。

因みに本人はと言うと

 

(おぉ~、なんかごつごつしてる物が一杯ついているからこれでいいかなっと思って適当に選んだけど、これって攻撃とかも出来たんだぁ)

 

と内心驚いていた。

さてリアクティブアーマーの爆風によって吹き飛ばれた箒はと言うと、SEを大きく削られた上に持っていた葵の刃部分がへし折れていた。さらに爆風による衝撃波で全身を殴打されたような痛みが走り、まともに立つことさえ難しいのかふらふらと揺れていた。

 

「まだだ、まだだぁ!」

 

「うえぇ。そんな状態でまだやるのぉ?」

 

呆れた様な表情を浮かべながらも本音は油断せず楯とライフルを構える。

箒は折れているにも拘らず葵を構えながら本音へと迫るも、本音が盾を前に構えた瞬間また爆発が起こすと思い踏みとどまってしまう。

 

「隙ありぃ!」

 

隙をつくように本音はライフルを撃ちこむ。結果

 

『ビィー―! 打鉄、SEエンプティー!』

 

とアナウンスが流れた。

 

「な! 待って下さい! あいつの使っている楯は不正『不正な訳ないだろうが。さっさと其処から出ろ、試合の邪魔だ!』」

 

不正だと声を荒げようとした箒を黙らせるように千冬がアナウンスで怒鳴ると、箒は本音を一睨みした後ピットへと引っ込んでいった。

 

本音と箒との戦いが終わった頃、一夏とボーデヴィッヒはと言うと

 

「えぇい、この!」

 

〈あわわわ、またワイヤーブレード出してきたぁ〉

 

〈いくら出そうが無駄よ。私が対処するから一夏はアイツに向かって撃ちまくりなさい〉

 

銃撃を続ける一夏のバレットホークに、ボーデヴィッヒは苛立ちを募らせながらワイヤーブレードやキャノンで攻撃をしてくる。

 

「えぇい、こうなったら!」

 

そう叫ぶラウラに、一夏は警戒心を上げる。

 

〈な、何か仕掛けてくるのかな?〉

 

〈恐らくAICでしょうね?〉

 

〈AICって、なにそれ?〉

 

〈簡単に言えば、物を止めたりすることが出来る物よ。但し、集中力が結構必要な物らしいから今のあの状況じゃ簡単に集中が切れそうね。一夏、さっきと同じ様にライフルで攻撃しなさい。それと私から出す合図にしっかりと耳を傾けておきなさいよ〉

 

〈え? う、うん、分かった〉

 

アイラに指示に一夏は弾倉が空になったMMP-80を放り捨て新たなライフルを拡張領域から取り出しボーデヴィッヒを攻撃し始めた。

ホバー移動しながら攻撃をする一夏にボーデヴィッヒはワイヤーブレードで攻撃しつつタイミングを見測る。そして一気に集中力を高めようとした瞬間

 

〈一夏、急旋回!〉

 

〈うぇっ!? ひゃい!〉

 

アイラからの突然の合図に一夏は変な返事を返しつつ、急旋回させた。

 

「なっ!? ちぃ!」

 

突然別方向に移動したバレットホークに集中が切れAICを掛ける事が出来なかったことにボーデヴィッヒは舌打ちを放ちつつ再度反撃しながらAICを掛けようと集中するも

 

〈一夏、もう一度よ!〉

 

〈う、うん!〉

 

また急旋回をしてボーデヴィッヒの視線から逃れる。その際一夏は置き土産と言わんばかりに腰についていたSCAVENGERを撃ち放つ。

撃たれたSCAVENGERに気付いたボーデヴィッヒはその場から避けるが背後から飛来したグレネード弾が命中しSEを削られる。

 

「イッチーばかり気にしてちゃ駄目だよぉ!」

 

そう言いながらボーデヴィッヒの背後にいた本音は楯を構えつつグレネードランチャーを撃つ。

ボーデヴィッヒは舌打ちを放ちつつ回避軌道を取るも、それを予見していたのか一夏がサブアームと持っていたライフルで攻撃し更にSEを削る。

 

2人の攻撃にどんどん窮地に追いやられるボーデヴィッヒ。彼女の心はもはや怒りでいっぱいだった。

 

(クソッ! 何故だ! 何故あんな弱虫のような奴とのんびりしている奴に此処まで追い込まれるのだ!)

 

そう思っていると突如

 

汝力を求めるか?

 

と頭の中に声が響く。

 

(…寄越せ。その力を。あいつ等を打ち倒す絶対の力を!)

 

怒りで冷静な判断が出来なかったボーデヴィッヒはその声に答えるように念じる。すると

 

『……Pi.…Standby.……―――――Start-up』

 

その声と共にボーデヴィッヒの意識は闇へと落ちて行った。

 

 

 

「――あれ、止まった?」

 

突如動きを止めたボーデヴィッヒに、一夏は攻撃の手を止めると本音も一夏の傍にやってくる。

 

「どうしたんだろう?」

 

「わ、わかりません。突然動きが止まって…」

 

暫しボーデヴィッヒの様子を注視していると、突如

 

「嗚呼あぁぁぁあああぁ!!」

 

叫び出したと同時にボーデヴィッヒの機体からスライムのような物が出てきた。




次回予告
突如ボーデヴィッヒの機体から現れたスライム。それは危険な物であった。
一夏と本音。二人の運命は如何に?

次回
緊急事態発生
「逃げるんだよぉ!(´□`;)=З=З=З=З=З=З」

「ま、待って下さぁい!? ヾ(TДT;)))).....マッテー!」

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