管制室に居た千冬や真耶達はボーデヴィッヒの機体から出たスライムに驚きと警戒の表情でいっぱいだった。
「い、一体あれは『ピピピッ‼』ん? 誰だこんな時にって、束?」
ポケットに入れていたスマホの画面に映った束の文字にこんな時に。と苛立ちを一瞬浮かべるも、もしかしら何か知っているかもと電話に出る。
「もしも『ちーちゃん、直ぐにいっくん達を避難させて‼』…あれが一体何か知っているのか、束?」
『恐らくVTシステムだと思う。そして入れられているデータは恐らく…』
言い淀む束に、千冬はギリッと奥歯を噛み締める。
「私が現役だった頃のデータか…」
そう呟き千冬はモニターに映るボーデヴィッヒの機体、いや何時の間にか変化して自身が現役時代に乗っていた機体、【偽暮桜】を睨みつける。
「束、アイツにハッ『残念だけど、あのISにハッキングするのは愚策だよ』どういう事だ?」
『何が切っ掛けで攻撃モードに移るか分からないのに、ハッキングなんかできないよ。それより早くいっくん達を避難させて!』
「そうだな。真耶、急いで教師部隊に連絡をとれ! アイツが何時暴走しても可笑しくない!」
「わ、分かりました!」
千冬の指示に真耶はすぐさま元軍所属の教師達に連絡を取りIS保管所へと走らせた。
真耶が連絡を入れている間に千冬は通信端末で一夏達に連絡を取った。
一方アリーナにいた一夏と本音はドロドロしたスライムから、千冬が乗っていた暮桜に変化したことに恐怖しながら後退っていた。
「ど、どうしてお姉ちゃんが乗っていた暮桜に?」
「わ、分かんなぁい。なんか気味悪い」
そう話していると、通信が入り千冬が現れる。
『織斑、布仏聞こえるか!?』
「お、織斑先生? あ、あれは、一体なんですか?」
『違法システムが作りだしたものだ。恐らく私が現役だった頃の性能を有しているはずだ』
「えぇ!? そ、それじゃあどうしたら?」
『恐らく奴はまだ完全に起動状態になっていないはずだ。お前達は直ぐにピットに避難しろ。いいな?』
「「は、はい」」
千冬の指示に2人は偽暮桜が起動する前にとすぐさまピットへと向かった。2人がピットに向かっているとピットから打鉄やラファールを身に纏った教師部隊が入って来た。
「あなた達、急いで避難しなさい!」
先頭にいた教師にそう促され、一夏達は擦れ違う様にピットに向かって飛ぶ。
避難していくのをモニターで確認した千冬は生徒の安全はひとまずとれたな。と内心呟きながら溜まっていた重い息を吐きもう一つの問題にとりかかろうとした瞬間
『も、目標起動しました!』
「なにッ!?」
アリーナにいた教師の一人からの報告に千冬は目を見開きモニターを見る。其処には刀を構え、教師部隊へと向かう偽暮桜が映っていた。
「何もしていない何故急に?」
『ちーちゃん、もしかしたらアイツの狙いは…』
「ッ!? 一夏か!」
束の言葉に千冬の一気に体から血の気が引く感覚を覚えるがすぐに通信を入れる。
「教師部隊‼ 絶対に奴を止めろ!」
「―――イッチー、急いでぇ!」
「は、はい!」
背後で教師部隊が戦っている中、一夏は本音と共にピットへと向かい飛んでいた。もうすぐピットに着くところで背後から
「あなた達気を付けて‼」
教師の叫び声が聞こえ、一夏が振り向くと教師部隊の包囲を突破した偽暮桜が迫って来ていた。
(やばい、防御が間に合わない!?)
背後から迫ってくる偽暮桜は刀を振りかぶってくる。すると
「やらせない!」
と叫びながら本音が割って入り楯を構える。偽暮桜が振り下ろされてくる刀を盾で防ぐ本音。その時、残っていた爆発反応装甲が反応し爆発する。
爆風で前が見えない中、本音は箒の時の様に吹き飛ばされたのかなと思っていると突如爆風の煙の中から刀が突くように現れた。
「っ!?」
突如現れた刀、そしてそれを持った偽暮桜に本音は恐怖から体が硬直してしまい動けず攻撃を受けてしまい勢いよく吹き飛ばされた。
「ほ、本音さん?!」
吹き飛ばされ壁に激突し、SEが無くなったのか強制解除され壁に凭れる様に倒れ込む本音に一夏は急いで駆け寄ろうとするが、偽暮桜がそれを邪魔するように攻撃を仕掛けてくる。
〈こいつ!〉
アイラがそう叫びながらサブアームが握っていたライフルの引き金を引く。ライフルの攻撃に偽暮桜はサッとバックステップで避ける。
〈チッ。動きまでほぼアンタの姉そっくりじゃない〉
「ど、どうしようアイラ。あれ絶対僕を狙ってるよね」
〈間違いなくアンタ狙いよ。あぁもう、最後のライフルも弾切れよ〉
そう言いながらアイラはサブアームが握っていたライフルを放り捨てる。一夏は出来るだけ抵抗できるようにとバタリングラムを取り出し構える。
〈残った武器はコカトリス2丁、SCAVENGER3発、アヴァロン、バタリングラム、対物ナイフ、バヨネット、フォールディングナイフのみ。アイツとまともに戦えるような武器はほとんど残ってないわね〉
「で、でも何とかして凌がないと後ろにいる本音さんを守れないよ」
〈分かってるわよ。でもどうしようも――〉
「このぉ!」
「早く逃げなさい!」
「こいつぅ!」
偽暮桜相手にどう戦おうと手をこまねいていると、偽暮桜の背後から教師部隊が奇襲をするように攻撃をする。偽暮桜は背後から仕掛けてきた教師の方を振り向くと、アイラはチャンスととらえた。
〈一夏、今の内よ!〉
アイラの叫びに一夏は直ぐに機体を反転させ、本音の元に向かう。
本音の元に着いた一夏は本音を抱き上げてピットに避難しようとしたが
「きゃあぁあぁ!?」
と教師の叫び声が聞こえ振りむこうとしたが、一夏の横を勢いよく飛んできたラファールが壁に激突した。
「せ、先生!?」
「うぅうぅぅ…」
痛みで小さく声を漏らす教師。そして背後を振り向くと出撃してきた教師が全員壁に凭れていたり地面に倒れ伏していた。
そして偽暮桜は刀を構えスッと一夏の方に振り向き、一気に間合いを詰めるようにイグニッションブーストを仕掛けてきた。
一気に接近してくる偽暮桜に一夏はビクッと恐怖する。恐怖で動悸が早くなり、更に呼吸も浅くなる一夏。
此処で殺される。そう頭に過った瞬間一夏はパニック寸前だった。すると気を失っているはずの本音から
「…イッ…チー。に、…げて…」
とか細く声が漏れ、一夏の耳に届く。その声に一夏は自然と落ち着きを取り戻し始めた。
(せ、せめてほ、本音さんだけでも助けないと!)
そう思い一夏は使える物が無いか探すと、傍に転がっていたある物に目が留まる。それと同時に偽暮桜が刀を振り下ろさんと振り上げてきた。
一夏は目に留まったそれを急ぎ掴みとる。それと同時に振り下ろされる刀。
ガキィン!!!!
アリーナ内に響く金属と金属の衝突音。千冬や管制室に居た教師達は恐る恐る咄嗟に閉じた目をそっと開きモニターを見ると其処には
偽暮桜が振り下ろした刀を、盾で防ぐバレットホークが映っていた。
一夏が目に留めたもの、それは本音が持っていた盾であった。爆発反応装甲は殆んど無くなっており若干ボロボロであったが、それでもまだ使えそうな状態だった盾を一夏は咄嗟に掴みとり偽暮桜の攻撃を防いだのだ。
無論本来であれば本音のラファールに装備していた盾の為、本音の使用許諾が無ければ一夏は装備が出来ない。
だがタッグマッチ戦の為、本音は万が一一夏が盾を貸して欲しいと言われた時に直ぐに渡せるようにと、自身が乗るラファールのほぼすべての武装を使用許諾していたのだ。
その為一夏は本音が持っていた盾を掴みとり偽暮桜の攻撃を防げたのだ。
〈ナイスよ、一夏!〉
「あ、危なかったぁ」
〈まだ気を張っておきなさいよ、こっからはパワー勝負なるんだから!〉
そう言われ一夏はコクリと頷き、叩き切ろうと力を入れてくる偽暮桜に対し押し返すように力を入れる一夏。
教師達は当初パワー勝負となれば一夏が押し負けると思っていた。だが、徐々に一夏が偽暮桜を押し返してきたのだ。
「そ、そんな、偽物とはいえ相手は暮桜なんですよ!」
「けど織斑君少しずつですけど、押し返してますよ」
管制室に居た教師達が驚ている中、千冬は組んだ腕の中でギュッと手を強く握りしめる。
(確かに偽物とはいえ暮桜は私が乗っていた機体。だが機体性能はほぼの初期の第一世代で、私の身体能力があってこそ最強と言われた機体だ。VTシステムでその時と同じ性能を出しているが、一夏の機体は他の代表候補生、国家代表が持っているISとは一線を凌駕する性能を有している。身体能力では私が上だが、機体性能であれば一夏の方が軍配が上がる。それに機体にダメージの入ったシュヴァルツェア・レーゲンで発動しているから機体にガタが来ている。そう言った要素があるからこそ一夏は押せている。だが…)
そう思いながら千冬はある心配をしていた。それは
(一夏の体力があとどのくらい持つか……)
千冬はタッグマッチ戦での疲労、そして偽暮桜にあれ程の力で押されているのを押し返そうとしているので相当体力を持っていかれていると思っていた。
その千冬の読みは当たっていた。
「はぁー、はぁー、はぁー」
偽暮桜の攻撃を何とか押し返そうとサブアームを使って力の限り押し返しているがすでに足腰、そして腕がプルプルと震え始め一夏の体力が無くなりそうになっていた。
〈一夏、もう少し辛抱できない?〉
「ご、ごめん。もう…ヤバいかも」
一夏の言葉にアイラはクッ。と歯を噛み締める。すると一夏が何を思いついたのか、アイラに話しかける。
「アイラ、アイツからちょっとでもいいから隙を作れない?」
〈何とかしてやりたい気持ちはあるけど、サブアーム全部を使って盾を抑えてるからこっちは手が出せないわ〉
「うぅぅ、そんなぁ…」
プルプルと振るえる腕と足で何とか持ちこたえる一夏。だが、何とか押し返せていた状況から徐々に押し戻され始めた。
「―――う、うぅぅ」
そんな時、偽暮桜の攻撃を受け壁に凭れていたラファールを纏っている教師の一人が朦朧とする意識の中、ライフルを構え偽暮桜にへと向ける。
「や、やらせる…ものです…か!」
そして引き金を引いた。
発射音と共に放たれた弾丸は真っ直ぐに偽暮桜へと向かい命中。偽暮桜はその攻撃に誰が攻撃したのかと確認する。その時一瞬力が弱まり、一夏はチャンスだと捉え盾を若干ずらし腰に付けたSCAVENGERが撃てる様にし狙いをつける。一夏が何をやろうとしているのか察したアイラはすぐさま一夏からSCAVENGERの発射権限を取り上げる。
〈一夏、この距離でSCAVENGERを撃ったら危険よ!〉
「でも、こうでもしないとアイツを引き離せない! お願いアイラ、やらせて!」
〈ッ! 分かった。けど、しっかりと盾を構えなさいよ!〉
そう叫び、アイラはSCAVENGERの発射権限を一夏へと返す。一夏はすぐさま狙いをつけていた偽暮桜に向けSCAVENGERを放つ。無論撃った後しっかりと盾を構えてだ。
SCAVENGERはまっすぐに偽暮桜へと飛来し命中、爆発を起こした。迫りくる爆風に一夏は本音を守る様に残り少ない体力でしっかりと盾を構え爆風を防ぐ。
暫くして爆風は収まり辺りに煙が立ち込めている中、一夏は盾を落とし崩れ落ちる様に四つん這いとなり荒い呼吸をする。
「はぁーはぁーはぁーはぁー」
〈一夏、大丈夫?〉
「う、うん」
〈全く無茶するんじゃないわよ、この馬鹿。はぁ~、兎に角至近距離で爆発を受けたんだから恐らくアイツはしばらく動けない…嘘でしょ〉
「え?……ッ!?」
アイラの驚いた声にどうしたんだろうと思った瞬間煙からガシャンと言う機械音が聞こえそちらに顔を向けると、刀を構えた偽暮桜が立っていた。
「そ、そんな…」
〈至近距離で受けたっていうのに、まだ平気な訳ッ?〉
偽暮桜は脚を引き摺りながら刀を構え一夏へと迫る。一夏は何とか立ち上がろうとするも足に力が入らずズデンと倒れてしまう。迫る偽暮桜に一夏はもう本当に駄目だと思っていると
ボシュ―ン……ドッカン‼
と爆発音が鳴り響いた。一夏は突如背後から聞こえた音に驚き恐る恐る振り向くと、其処には
「ふもっふ‼」
肩にロケットランチャーを担ぎ、その背にはグレネードランチャー搭載のアサルトライフルを背負ったフモッフが居た。
「ふ、フモッフさん」
【良く耐え抜いた。後は任せてくれ】
そうプラカードを見せた後、フモッフはボヒュボヒュと一夏の前に出る。そしてその後に続く様にピットから続々とモッフ達も現れた。現れたモッフ達は当初いた11人から更に増えており、その数は50体近くいた。
現れたモッフ達の内数人は一夏と本音、そして近くに居た教師を担ぎ上げピット内へと避難していった。
アリーナに残ったフモッフとモッフ達は目の前にいる偽暮桜に向け鋭い睨みを聞かせる。そして
「
とフモッフが叫ぶとモッフ達はアサルトライフルからロケットランチャー、更にはグレネードランチャーを発射し偽暮桜を攻撃する。
更に遠方からは対物ライフル、バレットM82A3を構えたモッフ達も居り、此方も同様に偽暮桜に攻撃を続けていた。
偽暮桜が居た場所には爆風に弾丸が激しく降りそそいでおり、もはや蛸殴り状態であった。
暫くしてフモッフが手を挙げ攻撃止めの合図を出し暫しの沈黙が流れる。立ち昇っていた土煙などが晴れると、地面にボーデヴィッヒが倒れていた。
『よくやったフモッフ、それとモッフ達。教師達を救護、それとボーデヴィッヒを拘束して医務室に放り込んできてくれ』
「ふもっ!」
アナウンスで千冬の指示を聞いたフモッフは直ぐにモッフ達に指示を飛ばした。
次回予告
タッグマッチ戦は違法システムの発動という事で中止となった。
そんなタッグマッチ戦後のお話
次回
タッグマッチ戦後
「( ˘ω˘)スヤァ」
〈お疲れ、一夏〉