トーナメント戦から数日が経ったある日。
「――では以上でSHRを終える。織斑、挨拶を」
「は、はい。起立、礼」
『ありがとうございました!』
「着席」
そう言うと千冬と真耶は教室から出て行き、生徒達も部活動に行く者や友達と駄弁り合う者で別れた。
カバンに教科書やノートを仕舞い終え、一夏も部活動へと向かおうと席を立つ。
「あ、ねぇねぇイッチー。今日って部活の日ぃ?」
「は、はい。お題が真夏に嬉しいお菓子です」
「ほへぇ~、真夏に嬉しいお菓子だったらやっぱりアイスじゃないかな?」
「そう、ですね。僕も手作りアイスクリームにしようかと思ったんですが、手軽に出来てそれにアレンジメニューが豊富な物を今日は作ろうと思ってるんです」
一夏の説明に、本音はへぇ~と声を零しながら口の端からタラーと涎を零す。
「ほ、本音さん。涎が…」
「はっ! ごめんごめん、なんか美味しくて冷たい物が作られそうだから良いなぁと思っちゃってさ」
えへへへ。と照れ笑いを浮かべながら涎を拭く本音。
それにクスクスと笑う一夏。
そして一夏は家庭科室へと向かい、本音はカバンを持ってある場所へと向かう。
本音は校舎から出ると、そのまま学園の奥へと進む。そして人気がほとんどないとある建物の中へと入って行く。
中に入った本音は靴を脱ぎ、建物に上がり奥へと進むと一面に畳の敷かれた道場に到着した。その中央には
「来たか」
腕を組んで佇む千冬が居た。
「はい、よろしくお願いします!」
そう言い本音は荷物を置き千冬の前に立つ。
何故千冬と本音が相対しているのか。それはトーナメント戦後のある日の事だった。本音は一夏と寮へと帰った後、寮母室へと訪れていた。
本音は緊張した面持ちを抱きながら扉をノックする。暫くして部屋からタッタッタと音が聞こえ扉が開く。
「む? 布仏か。どうかしたか?」
「ちょっとご相談したいことがありましてぇ」
部屋から出てきた千冬に本音はそう言うと、まぁ入れと言い本音を部屋へと招き入れる。部屋に招き入れられた本音は千冬の案内で部屋の奥へと連れられる。
「まぁ、適当に座ってくれ。今お茶を入れてやる」
「あ、お構いなくぅ」
本音を椅子に座らせた後千冬は冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し棚から取り出した二つのコップに注ぎ一つを本音の前に置き、もう一つを自分の前に置く。
「それで相談とは何だ?」
「あの、私を、鍛えてくれませんか?」
「はぁ?」
突然鍛えて欲しいと頼む本音に千冬は怪訝そうな顔を浮かべる。
「急にどうしたんだ、鍛えて欲しいなどと?」
「実は――」
千冬の質問に本音はその訳を話し始めた。タッグマッチ戦での事、そして医務室で決意したことを。訳を話し終えた本音はそっと出されたお茶に口を付ける。
「なるほど、事情は分かった。だが布仏。お前の家が特殊な家系でその手の訓練を受けているのは知っている。なら、私から手ほどきを受ける必要が「今のままじゃダメなんです! …それに、私はあまり訓練を受けてないんです」…なるほど」
「遊びたいからと言う理由で、訓練をサボったりしていたんです。だから今はそれを悔やんでます。どうして訓練をサボっちゃったんだろう? サボらなかったらイッチー一人に辛いことをさせずに済んだんじゃないのかな?って」
「……だから私に戦闘技術の教えを乞おうとしたんだな?」
千冬の問いに本音は真剣な眼差しでコクリと頷き、千冬はうむぅ。と腕を組んで考える素振りを見せる。
(布仏の決意は本物だな。……ふむ、なら一肌脱いでやるか)
本音の熱意。千冬はその熱意が本物で、本気で一夏を支えるために強くなろうとしている事に内心頬を緩ませる。
「分かった。手ほどきしてやろう」
「ほ、本当です「但し!」な、何でしょうか?」
「本気でやるからな。お前が本当に一夏を支えるために強くなりたいと思っているなら中途半端な気持ちは許さん。いいな?」
「はい!」
千冬の鋭い眼光を向けられながらも本音は力強く返事をすると、千冬は笑みを浮かべ普段一人で使っている道場の場所を教えたのだ。
それから千冬は自身が身に着けている格闘術を本音に教え、更に身近な道具など使った格闘術を教えた。
本音が千冬に手ほどきを受けて貰っている頃、一夏は料理研究部の活動場の家庭科室で調理の準備を始めていた。
家庭科室にいたセレスや紀子達もそれぞれお菓子を作り始める。
一夏は拡張領域に仕舞っていた保冷バッグを取り出し、中から円形状の氷の塊を数個取り出す。それぞれの氷にはイチゴやキウイ、更にミカンやブドウの実が入っていた。
周りの生徒達は今日はどんなお菓子を作るんだろうと思いながら作業をしながら見守る。
一夏は取り出した氷をトレーの上に置き暫くそのまま置き、戸棚から耐熱皿を取り出し其処にグラニュー糖とイチゴを載せラップをかけ、レンジへと入れ加熱する。
「え? 織斑君、その氷どうするの?」
「その、暫く放置しておきます。そうすれば触感が良くなるので」
「そう…。それならいいけどぉ」
氷を放置して別の作業をする事にセレスを含め、皆首をかしげるのであった。
そうこうしている内に加熱完了を知らせるアラームが鳴り、一夏はレンジから耐熱皿を取り出し程よく溶けだしているイチゴをある程度形が残るくらいまで潰しながら、残ったグラニュー糖と混ぜる。そしてまたレンジに入れ加熱をする。そしてまた終えるとまた混ぜてまた過熱をする。計3回加熱と混ぜる作業をした後、出来上がった物を器に入れ冷蔵庫の中にいれ冷やし始めた。
その後、ミカンやキウイ、ブドウも同じようにジャムにして冷蔵庫で冷やす。すべて終えた後一夏はトレーに載せた氷の様子を見ると、表面上に水滴がついており、持ち上げると水がポタポタと落ちる位溶けだしていた。
「よし、削ろう」
そう呟くと一夏は若干溶け始めた氷を拡張領域から取り出したかき氷機にセットし、同じく冷蔵庫で冷やしていた器をセットしてハンドルを回し始めた。
シャリシャリと音を立てながら色鮮やかな氷が器に盛られていき、ある程度形が出来た後冷蔵庫で冷やしていたイチゴのジャムを掛ける。
「で、出来た」
そう言いイチゴのかき氷を机に置く。
「おぉ~、フルーツたっぷりのかき氷だぁ!」
「氷のイチゴのみならずシロップにもイチゴの実が入ったジャムを使うなんて凄いわね」
「ほぉ~、冷え冷えで美味そうじゃのぉ」
周りの生徒達の感想を聞きながら、一夏は他のキウイやブドウの氷も削りジャムをかけていく。
そして全員の料理が完成し、机の上に並べられた。
アイスクリームにフルーツポンチ、更に色鮮やかな水羊羹が置かれ豪勢な雰囲気が醸し出していた。
「それじゃあ」
「「「「いただきまぁす!」」」」
「い、いただきます」
そう言いそれぞれお菓子を手に取り頬張る。
「うぅ~~ん、冷たくて美味しいわぁ」
「そうね。それにしても朱乃。また綺麗な水羊羹を作ったわね」
「フフフ、お褒めに預り光栄ですわ。だてに和菓子店の娘ではございませんもの」
「はわぁ~、この羊羹の中に泳いでる金魚さんとかまた見事ですねぇ」
それぞれ感想を述べる中、朱乃はチラッと一夏の方へと目を向ける。一夏も水羊羹をまじまじと見つめていたのだ。
「あら、一夏君。どうかしましたか?」
「あ、いや。その、凄く、綺麗なお菓子なので、食べるのが勿体無いなぁと思って」
照れた表情で水羊羹を褒める一夏。その様子に朱乃はフフフ。と笑みを浮かべる。
「確かに勿体無いと思わるのは仕方がありませんわ。ですが水羊羹は目で涼み、そして食べても涼むと言う物。そうしないとせっかく作った水羊羹が可哀想ですわ」
そう言われ、一夏はそうですか。と答え竹ぐしを使い水羊羹を切り分け口へと運ぶ。
「凄く、冷たくて美味しいです」
「それは良かったです」
そう言い一夏の照れた笑みを見て、朱乃は円満な笑みを浮かべる。
そんな中セレスや紀子、里佳子達は一夏の作ったかき氷を頬張っていた。
「このかき氷フワフワしてて食べやすいわね」
「そうね。それにジャムにまだ果肉が残っているから触感も良いわ」
「はぁ~、何杯でも行けるのぉ」
そう言いながらかき氷を食べる里佳子達。するとニコラスが頭を抑えながら蹲っていた。
「どうしたん、ニコ?」
「あ、頭が痛いですぅ!」
「急いでかきこむからよ、全く」
そう言いながらアメリアやあおいは呆れ顔やハッハハハ。と笑顔を浮かべる。
それから暫くして机の上にあったお菓子は全て無くなり、それぞれ後片付けを始める。
「あ、皆。後片付けをしながらちょっと聞いてくれる?」
そうセレスが声を掛けると、各々手を動かしながら顔をセレスの方へと向ける。
「もうすぐ一年生は臨海学校があるから1年生抜きで私達は部活動を行います。それで、そのお題が…」
一旦間を置き全員の顔を見渡すセレス。そして
「『臨海学校・期末試験お疲れ様パーティー』を開こうと思います! このパーティーは主に私達上級生が準備等を行うから2,3年生はパーティーの準備をお願いします。1年生は初めての臨海学校と期末試験だからしっかりと勉強してきてね」
「「「はぁい/は、はい」」」
「それじゃあ後片付けをしたら解散とします。それじゃあ皆さん、洗い物の続きをお願いね」
このセレスの宣言の後、皆洗い物や、道具を片付け始めるのであった。
次回予告
1年生の恒例行事にあたる臨海学校。一夏も臨海学校に向け準備をするべくお出かけをする事に。無論本音と一緒にだ。
だが、まぁた何時ものお邪魔虫が現れる。
さてさて一夏君達は無事にお買い物が出来るのか。
次回
レゾナンスでお買い物
「どう言った物をお求めですか?」
「一番いいカメラを頼む」