女性恐怖症の一夏君   作:のんびり日和

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37話

チュン、チュン、チュン

 

窓の外から雀のさえずる音が鳴り響く早朝。一夏と伊田が眠る部屋ではまだそれぞれ布団に入って寝息を立てていた。

部屋の隅ではメサが正座で一夏達が目を覚ますまで待機していた。するとふと顔を窓の方へと向け立ち上がり、そのまま窓へと近づき開ける。

 

するとぴょこんと機械のうさ耳が現れ、そして

 

「おぉ、流石メサ君。私がいっくんの為に作っただけの事はあるね」

 

小声で笑顔を浮かべる束であった。

 

【当たり前です。フモッフ殿達が来られるまでは私が坊ちゃまの護衛をしていたのですよ。(´-ω-`)】

 

「にゃははは、そうだね」

 

【それで、どうして此方に? 千冬様のお部屋でしたら隣ですよ。(・・?】

 

「あぁ、ちーちゃんには後で会いに行くよ。その前にちょっといっくんにプレゼントがね」

 

そう言い束は徐に背後に手をやりゴソゴソと何かを探すように動かす。

 

「これ、じゃない。これ、でもない。こっち、でもない」

 

そう零しながら次々に物を取り出す束。暫くして

 

「おぉ、あったあった」

 

そう言って取り出したのはゴマフアザラシの赤ちゃんの縫いぐるみだった。

 

「はい、これいっくんに渡しといて。束さんの新作縫いぐるみ」

 

【これはまた、坊ちゃまが喜びそうな縫いぐるみですね。(・∀・)】

 

「ふふん。見た目だけじゃなく、今まで使っていたモフモフ素材を更にモフモフ感のある物に替えたから抱き心地はさらに増してるよ」

 

そう言いながら束は縫いぐるみをメサへと手渡す。

 

【では坊ちゃまが起きられましたら、お渡ししておきます。(*- -)(*_ _)ペコリ】

 

「うん、宜しくねぇ。それじゃあ束さんはちーちゃんに会いに行ってくるよ」

 

そう言って束はそのまま隣の部屋へと向かい窓をコンコンと叩く。

 

「ちーちゃん、あ~け~てぇ」

 

束がそう窓に向かって言うと窓がガラガラと開き、束は中へとよじ登って入って行った。

 

 

 

束を部屋へと招き入れた千冬は頭をかきながらやって来た束に目を向ける。

 

「それで束、こんな朝っぱらから一体何の用だ?」

 

「そりゃあ今日ISの訓練あるんでしょ?」

 

「あぁ、ある。それが何だ?」

 

「いやぁ、いっくんのISの整備をその時にやろうと思ってね」

 

束の言葉に千冬はジッとその顔を見つめる。

 

「なぁに、ちーちゃん? 束さんの顔に何かついてる?」

 

「あぁ、ついてるな。お前が何か、企んでいると言う名の仮面がな」

 

そう言われ束は笑みを更に深く浮かべる。

 

「さっすがちーちゃん。それじゃあ一体何だと思う?」

 

「…ただ一つ言えることは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の妹に関係している事だろ?」

 

千冬がそう告げると、クスクスと笑みを零しニンマリとした顔で束は語り出す。

 

「いやぁ、ご明察だよちーちゃん。どうして箒ちゃんだと思ったの?」

 

「それしかないだろ? 今日はアイツの誕生日だ。違うか?」

 

「いや、それで合ってるよ」

 

「で、何を頼まれた?」

 

「…そこまで分かっちゃうかぁ。まぁ、ちーちゃんなら予想出来るでしょ?」

 

「まぁ、此処最近のアイツの行動などを見てだがな。大方ISでもねだったのか?」

 

「うん、ねだってきたよ」

 

隠そうともせず束は堂々と箒がねだってきた物を告げると、千冬は眉間にしわを寄せはぁ~。と重いため息を吐く。

 

「あの馬鹿者が。それで、お前は渡すのか?」

 

「それは内緒だよ。けど…」

 

一旦言葉を止める束。その顔はまるで誰かを馬鹿にしている様な表情であった。

 

「何時までも悲劇のヒロインを演じてる奴にとっていい薬なら持って来てるかな」

 

「?」

 

束の言葉に千冬は首を傾げるも、何か仕出かすんだろうな心の中でため息を吐くのであった。

それから時間が過ぎ、生徒達が起床していき軽い朝食を取りそれぞれISスーツを身に纏い海岸近くにある岩場へと集合した。

その際岩場の一か所には

 

『私は許可なく旅館から抜け出しました』

 

『浴衣のまま温泉に浸かりました』

 

等のプラカードを首からぶら下げた問題児5人がロープで拘束され正座させられていた。

5人の姿に生徒達は茫然と言った表情を浮かべ、1組の生徒達は5人に向け冷たい視線を送っていた。

その後教師達も到着し、5人以外の生徒達を整列させる。整列した後、千冬が生徒達の前へと立ち口を開く。

 

「ではこれよりIS訓練を行う。一般生徒は神林先生、溝口先生、ロベルタ先生達と共に浜にて学園から持ってきたISに搭乗してもらう。専用機持ちは各々の政府から送られてきたパッケージをインストール後、訓練を始める。だがその前に…」

 

そう言い千冬は正座している5人の前に立ちギロリと睨みつける。

 

「今度問題行動を起こしたら、夏休みのほとんどを道徳と常識の勉強で埋めてやるからな。いいな?」

 

そう言われ5人はコクコクと激しく頷く。そしてロープを解いて貰い俯きながら立ち上がる。

 

「では訓練を「ちーちゃん、失礼するよぉ!」なんで今出てくる、束!」

 

千冬が解散と言おうとした矢先に岩場の影から束がひょっこりと現れた。突然現れた束に生徒達は驚きの表情を浮かべていた。

 

「あれ? 解散言ったんじゃないの?」

 

「まだ言っておらん。一般生徒が解散した後に呼ぼうとしたんだぞ」

 

「ありゃりゃ、めんごめんご」

 

千冬にジト目で睨まれながらも、束はアッハッハッハ。と笑い声を上げなら謝る。

 

「まぁ、バレちゃったのは仕方ないじゃん」

 

「はぁ~、もういい。お前に常識を求めるんじゃなかった」

 

「えぇ~、酷いなぁ。ちゃんと束さんにだって常識は持ってるよ」

 

「はいはい。だったら常識人らしくこいつらに自己紹介をしろ」

 

「ほいほい。ハロハロ~、ISを生み出した博士、篠ノ之束さんだよぉ。宜しくぅ!」

 

「「「……」」」

 

「あれ? ちーちゃん、皆固まってるよ?」

 

「…お前の名前を聞いて固まっているだけだ。暫くしたら戻る」

 

千冬がそう言ったと同時に

 

『えぇぇええぇ~~~~!!???!』

 

1組以外の生徒達が大声を上げなら目の前にいる人物に驚く。

 

 

因みに突然の大声にフモッフは咄嗟に一夏の耳を塞いだため、症状が起きることは無かった。

 

「あ、あの篠ノ之博士が目の前に!」

 

「う、うわぁ、ほ、本物だぁ」

 

「えぇ、な、何の用で来たんだろう?」

 

初めて見る束に対し生徒達が浮足立っている中、束が語り出す。

 

「それじゃあちーちゃん、束さんの用件済ませちゃってもいい?」

 

「あぁ、構わん。織斑、こっちに」

 

「あ、はい」

 

千冬に呼ばれ一夏はフモッフ達と共に束の元にやってくる。

 

「久しぶりぃ、いっくん♪」

 

「う、うん、お久しぶりです、束お姉ちゃん。あと、縫いぐるみありがとう。その、すごくフワフワだった」

 

「そう? うへへへ、そりゃあ良かったぁ。また新作が出来たら持っていくねぇ」

 

「うん」

 

2人で会話をしている中、千冬はんん。と咳ばらいをする。

 

 

「おっとと、束さんの用件を済ませないとね。いっくん、IS見せてくれる?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

そう言い一夏はバレットホークの待機形態である白い腕輪を束に見せる。束は見せられた腕輪に何処からともなくコネクターを取り出し、それを挿して空間デュスプレイを投影してパタパタとデータを見て行く。そしてデュスプレイを閉じコネクターを抜く。

 

「特に問題無し。メンテナンスもしっかりと出来てるね」

 

「う、うん。束お姉ちゃんから貰ったメンテナンス冊子のお陰だよ」

 

「うへへへ。それはどういたしましてぇ」

 

照れた表情で褒められた事で束は顔を惚けさせながら笑みを浮かべる。

 

「あ、あの! Dr.篠ノ之、ぜひ私のISも見て頂けませんか?」

 

オルコットはまたとない機会だと思い束に向かってそう頼むも

 

「はぁ? なんで束さんが、お前のIS見ないといけないの? それをして私に何か得することある? と言うかお前と束さんは知り合いでも何でもないじゃん。それで頼むって君頭大丈夫? あぁ、ごめん。いっくんに迷惑を掛けてる奴の頭は空っぽだったね。こりゃ失敬」

 

そう言い話を閉める束。ストレートに物を言われ固まるオルコットに誰も同情の目を向ける者は居なかった。

 

「おい、束。用事はもう一つあるんじゃなかったのか?」

 

「おっと、そうだった。それじゃあえぇと、あ、いたいた。箒ちゃん、ちょいちょい」

 

そう言い手招きで呼び寄せる束。箒は笑みを浮かべながらその傍へとやってくる。

 

「はい、誕生日プレゼント」

 

そう言って束は長方形状の綺麗に包装された物を箒へと手渡す。箒はそれを受け取り包装紙を破り捨てて行く。

 

「あぁ~あ、折角綺麗に包装してもらったのに」

 

束がそう零すも、箒はそれに聞き耳を持たず包装紙を全て破り捨てると中から箱が現れ、箒はふたを開けた。そして中に入っていた物に箒は驚愕の表情を浮かべる。

 

「……姉さん、なんですか、これは?」

 

「なにって、誕生日プレゼントだよ?」

 

笑顔を浮かべながらそう告げる束。箒は箱に入っていた物を見つめながらプルプルと震えながら箱を握る手に力が入る。

 

「そう言う事を聞いているんじゃないんです! この箱に入っている物を聞いているんです!」

 

箒はそう叫び箱の中身を束へと見せる。箱に入っていた物、それは綺麗な赤色の布が入っていた。

 

「髪留め用の布。普段白か緑のやつしか使ってないでしょ? 偶には赤でもいいんじゃないかなぁと思ったからそれにした」

 

束の説明に箒は怒りの形相を浮かべる。

 

「私が頼んだものはこれじゃない!」

 

そう叫び、箒は持っていた箱を地面へと投げ捨てる。投げ捨てた箱は地面を跳ね返った後一夏の脚元へと転がって来た。

箒の叫びに生徒達は驚きの表情を浮かべ、千冬は睨むような眼を箒に向け口を開こうとしたが束が手で制し、声を出さず口だけ動かす。

 

〘手を出さないで〙

 

そう伝えられ千冬は口を閉ざす。

 

「頼んだ物じゃないってだけで投げ捨てる事ないじゃん」

 

「頼んだ物じゃないからですよ!」

 

「はぁ。そう言われてもねぇ、【自分だけの力】って言われても具体的に言ってくれないと分かんないんだけど」

 

「そんなの分かり切っている事じゃないですか! 私だけのISですよ!

 

箒が束に頼んだ物を叫ぶと生徒達はえぇ!?と驚いた表情を浮かべ、束はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あぁ、自分だけのISね、なるほどなるほど。……と言うかさぁ」

 

「なんですか?」

 

「箒ちゃん。束さんの事、都合のいい姉としか見てないでしょ?」

 

「ッ!?」

 

束の一言に箒は肩を跳ね上げた。

 

「な、何を…」

 

「だってそうじゃん。普段私の事嫌ってるくせにいざとなったら私の名前出してるみたいじゃん」

 

「そ、そんなことしていません!」

 

「へぇ~、そうなんだ。じゃあ後ろにいる子達に聞いてみようよ」

 

そう言い束は箒の後ろに居た生徒達へと目を向ける。

生徒達は突然目を向けられた事に隣にいる生徒達を見あった後、口を開く。

 

「…篠ノ之博士の言う通りだよね」

 

「うん、前に篠ノ之博士の事聞いたら『そんな事知らん。あんな人の事など…』って、怒鳴った事がある」

 

「そうなの? 私、タッグマッチ戦の時期に織斑君と布仏さんがアリーナで模擬戦をしていた時にアリーナの教師に止められている篠ノ之さんを見かけたとき、『私は篠ノ之束の妹だ!』って叫んでたよ」

 

「あ、それ私も見た。その後教師がビビッて中に入れようとしたけど織斑君の護衛のロボット達が篠ノ之さんにスタンガンみたいなのを押し当てて気絶させて連行しているよね?」

 

「私も、姉とは関係無いって言ってたけど、何か自分が不利になると篠ノ之博士の名前出してた」

 

「それ、私も見た事ある」

 

などなど束の事を聞いてもあの人とは何の関係も無い。と常に言っているのに、自分の都合が悪くなると束の名前を出していた。と証言する生徒達が続々と現れた。更に

 

「欲しいプレゼントじゃなかったからって投げ捨てるのは流石に。ねぇ?」

 

「うん。ISが欲しいって言ってたのは驚いたけど、せっかくプレゼントしてくれた物を投げ捨てるのは人としてどうかと思う」

 

「篠ノ之博士が可哀想に思える」

 

ISじゃなくても、折角妹の為にと用意したプレゼントを本人の目の前で投げ捨てるのはどうなんだ。と生徒達も居た。

生徒達の言葉に箒は苦い顔を浮かべ、拳を震わせる。

一方一夏はと言うと、足元に転がって来たプレゼントを拾い上げジッと見つめていた。箱は砂埃が付いていたり、へこんでたりしていた。

箱を見つめていた一夏は暫し悲しそうな表情を浮かべた後、意を決したような表情を浮かべ口を開く。

 

「し、篠ノ之さん」

 

「っ! い、一夏…」

 

一夏に呼ばれ箒は顔を向ける。一夏は体を振るわせつつも、真剣な表情を浮かべていた。

 

「せ、折角、束お姉ちゃんが用意してくれたプレゼントを、こんな、投げ捨てる様なこと。僕、そんな事をする人、嫌いです!」

 

「っ!?」

 

一夏の口から嫌いと言われ、ショックを受けた箒は顔を俯かせた。俯く箒から一夏は束の方に体を向け、持っていた箱を差し出す。

 

「束お姉ちゃん、これ」

 

「うん。ありがとうね、いっくん」

 

手渡された箱を受け取り、束は箱をポケットへと仕舞う。

 

「さて、束さんの用事は済んだし、そろそろお暇するよ」

 

「……そうか。それじゃあ生徒諸君、これより「お、織斑先生!」ん? なんだ、山田先生?」

 

スマホを片手に驚いた表情を浮かべる真耶。その表情を見た千冬は新たな厄介事かと心の中で重いため息を吐くのであった。




次回予告
真耶からの突然の報告、それは暴走するISに関する事だった。千冬は専用機持ち達を集めこれの撃墜、もしくは自衛隊が来るまでの時間稼ぎをする作戦を立てた。
作戦は実行に移されるも、予期せぬ事態が起こるのであった。

次回
暴走したIS

〈安心しなさい、一夏。私がついてるんだから〉

〈アイラが、そう言ってくれるなら頑張る〉

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