女性恐怖症の一夏君   作:のんびり日和

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本編
1話


IS学園、言わずと知れた女性しかいないISを学ぶ学園だ。そんな学園にあるイレギュラー的出来事が起きている。それが、世界で初めて男でもISに乗れる者が見つかったのだ。

そしてその男子は今IS学園1年1組に居る。

 

~1年1組の教室~

1組の生徒達は皆ヒソヒソと一番後ろの席に居る男子生徒を見ていた。その男子生徒は何故だか分からないが、ブルブルと震えており顔は入学前に渡された教本で隠している為か、よくは見えなかった。

そして童顔で教師には見えないが、教師の証であるネームタグをぶら下げた女性が入って来た。

 

「はぁ~い、皆さんおはようございます! 私がこの1組の副担任、山田真耶と言います。3年間宜しくお願いしますね!」

 

そう元気よく挨拶をする。だが

 

「「「「……」」」」

 

クラスの中からの反応は無く、しーんと静まり返っていた。

 

「うぅぅぅう、では端の方から自己紹介を」

 

涙目で端から自己紹介をするよう指示され、端の生徒達から名前、そして趣味や中学の部活の事を話し始めた。

そして少年の順番となるが、全く自己紹介をしようとせずただ教本を読み続けていた。

 

「えっと、織斑君? 織斑く~ん!」

 

「ひゃ、ひゃっい!」

 

真耶に呼ばれ織斑と呼ばれた少年は肩を跳ね上げ、怯えた表情を見せる。その状態に真耶はある事を思い出し慌てて謝る。

 

「ご、ごごご、ごめんね! 『あ』から始まって今『お』の所まで来たから織斑君の自己紹介の番になったから」

 

「そ、そうですか。わ、わかりました」

 

そう言い席から立つ織斑。表情から顔色はあまり良くなく、未だにブルブル震えていた。

 

「お、織斑一夏と、言います。その、出来ればそっとしておいて、欲しいです。以上、です」

 

そう言い席に座る。先ほどとは違い本で顔は隠そうとはしないが、顔色はまだいい感じでは無かった。

一夏の自己紹介に生徒達は何処か物足りそうな表情を浮かべ、もっと喋ってと言いたげだった。

 

「大丈夫か、織斑?」

 

そう声が一夏の傍から聞こえ、生徒達は声の主の方に顔を向ける。其処には黒のレディーススーツを身に纏い、きりっとした目つきの女性が其処に居て、一夏の心配をしていた。

 

「だ、大丈夫、です。織斑先生」

 

先程とは違い少し震えているのが止み、顔色も少し良くなる一夏。

 

「そうか、もし無理そうなら何時でも言っていいからな」

 

「は、はい」

 

一夏の様子に未だ辛そうな表情を浮かべる千冬。だが顔付きを変え教卓の元に向かう。

 

「遅れて済まない山田先生」

 

「あ、いえ。副担任として当たり前のことをしたまでですので」

 

そう言い教卓から降り、千冬と場所を変わった。

 

「では自己紹介の前に先に言っておくが、騒ぐのは禁止だ、いいな?」

 

そう言うと生徒達はコクンと頷く。

 

「では、私が君達の担任となる織斑千冬だ。ISについてのイロハを君達に教えて行くが、分からないからと放置するようなことは許さん。分からない事、もっと聞きたいことがあるなら私か山田先生に聞きに来るように。それが今後君達にとって必要な事なのだからな」

 

そう自己紹介を終え一息を付こうとした瞬間

 

「「「「きゃあぁぁぁ!!!」」」」

 

「本物の千冬様よ!」

 

「あぁ、私、先生に教えてもらいたくて来ましたぁ!」

 

「手とり足とりお願いしまぁす!」

 

そう叫ぶ生徒達。すると

 

《ベキッ!!》

 

と、千冬が掴んでいた教卓にヒビが入った。

そしてクラスの中の空気が一気に重くなり、先程の歓喜の空気が消し飛んだ。

 

「……貴様ら、私が最初に言った言葉をもう忘れたのか?」

 

そう問われ叫んだ生徒達は首を激しく横に振る。全員重苦しい空気に居る中、只一人様子がおかしい生徒が居た。

一夏だった。先ほどよりも肩を震わせ、怯え切った表情を浮かべ呼吸が浅くなっていた。一夏はおもむろにポケットからペン型の注射器を取り出し腕に打った。

その様子を見た千冬は慌てた表情で一夏の元に近寄る。

 

「だ、大丈夫か一夏?」

 

肩に一瞬手を置こうとした千冬。だが手はその肩に置かれることは無く途中で止まった。呼吸がゆっくりと落ち着き、表情も幾分かよくなり始める一夏。

 

「大丈夫か? 無理そうなら保健室に「だ、大丈夫、です」そ、そうか。だが、無理はするなよ?」

 

コクンと頷く一夏に、千冬は悲しそうな表情を浮かべ教卓に戻る。一夏と千冬の光景に生徒達は茫然といった表情を浮かべていた。

 

「……先程私が騒ぐことを禁止した理由がさっきのだ」

 

教卓に戻った千冬がそう言い、見渡すように顔を向ける。

 

「織斑はある症状を患っている。それが『女性恐怖症』だ。本来なら此処ではなく専用の教室を設けるのだが、高校生活をそれで終わらせる訳にも行かずこのような形になった。その為今から言う事は絶対に守れ。もし破ったりした者が居れば、私自ら引導を渡す。いいな?」

 

千冬にそう言われさっき叫んだ生徒達、そして叫んでいなかった生徒達は冷や汗を流しながら首を縦に振る。

 

「1つ目、大声を上げるな。2つ目、本人の許可なく体に触れない。3つ目、話すときは正面からで、ある程度距離をとること。4つ目、大勢で話しかけない。かならず少人数で話しかける事。5つ目、高圧的態度で接しない。以上の事は必ず守るように」

 

「「「「はい!」」」」

 

全員そう声を揃えると、千冬は良いだろう。と返す。だが、内心不安要素が残っている事に警戒していた。

その不安要素である2人に目線を向ける。1人は窓の景色を眺める黒髪の生徒。もう一人はムスッとした顔を浮かべた金髪の英国人。

 

(この二人が要警戒人物だな。……頼むから一夏を苦しめる様なことはするなよ、貴様ら)

 

心の中で2人に対し警戒心を浮かべる千冬。そして朝のSHRは終了した。

 

1限目の授業が始まるまでの間、それぞれ授業の準備をしながら一夏の方をチラチラと見る。

その視線には一夏も気付いているが、恐怖からか話しかけようとはしない。準備を終えまた教科書で視線を遮ろうとした瞬間、

 

「えっと織斑君、少しいいかな?」

 

そう声を掛けられ一夏は本の上から少しだけ顔を出す。

 

「な、なんでしょう、か?」

 

「うん、そのままで良いから質問してもいい?」

 

「ど、どうぞ」

 

そう言い、一夏は質問される事を返していく。オドオドはしているが、ちゃんと接しようとしている姿に生徒達は感心の様子を見せた。

 

1限目の授業が始まり、それぞれ電子ノートで黒板に書かれている事を写したり、教本にマーカーペンで線を引いたりしていた。

 

「えっと、此処までついてこれていますか?」

 

教卓に立っていた真耶がクラス全体を見渡すと、生徒達はそれぞれ頷く。

 

「織斑君は大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫、です」

 

一夏はおどおどしながらもそう返し、顔を下に向ける。

 

「そうですか? 分からなかったら、何時でも聞いて下さいね。なんたって先生ですから!」

 

そう言い、胸を張る真耶。

 

「山田先生、そんなことを言っていないで早く進めてください」

 

呆れた表情で真耶に告げる千冬。真耶は慌てて授業を再開した。

そして1限目が終わり、それぞれ次の授業の準備や友達と談笑したりし始める。一夏は大きめの小説本を取り出しそれを読もうとすると

 

「ちょっといいか?」

 

「ヒッ!?」

 

そう声を掛けられ、一夏は突然真横から声を掛けられたことに驚き悲鳴を上げる。

 

「なっ! なんでそんな情けない悲鳴を上げるんだ一夏!」

 

そう叫ぶ黒髪の女子生徒。一夏は怯えた表情を浮かべ、体がブルブルと震えていた。

 

「そ、そんな、こと言われても「ごたごた言い訳をするな! 貴様それでも男か!」」

 

すごい剣幕で怒鳴る女子生徒に一夏は完全に怯え切っていた。

 

「ちょっと篠ノ之さん! 織斑先生に言われていた事忘れたの!?」

 

そう言い一人の生徒が一夏から離そうと引っ張る。

 

「五月蠅い! 今、一夏と話しているんだ! お前には関係ないだろうが!」

 

「だからって一夏君に怒鳴ることないじゃない!」

 

そう咎める生徒。すると箒は拳を握りしめ一歩踏み出した瞬間、箒の頭目掛け何かが振り下ろされ、ガンッと鈍い音が教室内に響き渡った。

 

「……篠ノ之。貴様、私が言った事もう忘れたのか?」

 

「ち、千冬さん」

 

ガンッとまた箒の頭に出席簿が振り下ろされ、鈍い音がまた鳴り響く。

 

「織斑先生だ。篠ノ之、お前は織斑に近付くことは許さん」

 

「なっ!? なんで「お前が織斑の傍に居ると症状が悪化する恐れがあるからだ」くっ‼」

 

「分かったら、さっさと座れ」

 

そう言われ篠ノ之は悔しそうな表情で席へと戻る。

 

「四十院、すまんな」

 

「い、いえ。織斑君、苦しそうにしていたので」

 

「そうか。お前達も織斑が苦しそうだったら、少しでも手を貸してやる様に」

 

「「「はい!」」」

 

そう声が上がると、千冬は教卓へと向かう。

そして2限目も終わり一夏の隣の生徒が話しかける。

 

「おりむー、ちょっといい?」

 

「ふぇ? えっと、いいですけど、その」

 

「あ、私、布仏本音って言うんだぁ。宜しくねぇ」

 

のんびりとした口調で自己紹介をする本音に、一夏は「よ、よろしく」と返す。

 

「そ、それで何の用ですか?」

 

「えっと此処の問題が分からないから、教えて欲しいんだぁ」

 

そう言い、教科書のある部分を指す本音。

 

「えっと、其処だったら……」

 

そう言いながらノートを取り出す一夏。

 

「どうやるのぉ?」

 

そう言って、一夏が取り出したノートを覗き込む本音。

 

「えっと、此処の公式を分解して、それで当てはめれば、解けます」

 

「ほへぇ~、そう言う事だったんだぁ。ありがとうね、おりむ~」

 

「ど、どう、いたしまして」

 

そう言い、ノートを片付ける一夏。すると視線が一斉に自分に向いている事に気付き顔を上げる。生徒達のほとんどが、千冬や真耶でさえも驚愕の表情を浮かべていた。

 

「な、何か?」

 

一夏は一斉に見られている事に怯えた表情を浮かべる。

 

「い、一夏。お前、今何があったのか、分かるか?」

 

「ふぇ? な、何がって?」

 

「の、布仏が今近くに居たんだぞ?」

 

そう言われ、一夏はしばし茫然としていたが、「あっ!」と気付いたような表情を浮かべる。

 

「そ、そう言えば、大丈夫だった」

 

「ほへぇ?」

 

一夏の一言の次に布仏の方に視線を向けられ、布仏は首を傾げる。

 

「…布仏、少し一夏に触れてみてくれないか?」

 

「いいですけど。いい、おりむ~?」

 

「…は、はい」

 

一夏は若干怯えながらも、身構える。千冬たちも万が一を考え何時でも動けるようにする。そして本音が一夏の方に手を置いた。

 

「……何とも無いか?」

 

「う、うん。なんとも、無い」

 

一夏自身は若干驚いているが、千冬たちにとっては大きな衝撃だった。

 

「ど、どどど、どう言う事ですか織斑先生?」

 

「わ、分からん。一体どういう訳か……ん?」

 

全員が首を傾げている中、千冬はある事に気付き本音をジッと見つめる。

 

「なんですかぁ、織斑先生?」

 

「……布仏。お前、周りから自分の事をどういう感じだと言われている?」

 

「どんな感じでか? え~と、のんびり屋で、お菓子が大好きな子ってよく言われます。あと動物の着ぐるみを着ると、のほほんとしてるって事も言われまぁす」

 

そう言うと、千冬は顎に手を当てながら考えこみ、何かが合致したのか顔を上げた。

 

「なるほど。そう言う事か」

 

「えっと、どう言う事ですか?」

 

「布仏の性格だ。アイツののほほんとした性格とのんびり屋と言う事がもしかしたら織斑に警戒心を与えていないんだろう。だから織斑に近付いても、症状が現れないんだ。恐らく布仏の気配は動物に近いんだろう」

 

「そ、それじゃあ布仏さんは唯一織斑君に触れられる生徒と言う事ですか?」

 

「生徒の中であればな。他には私が知っている限り、一人しかいない」

 

その言葉に、全員「いいなぁ。」と羨ましそうな視線を本音に送る。

 

「?」

 

布仏は事の重大さが分かっていないのか、首を傾げる。

 

「布仏、すまんが少し頼みがある」

 

「なんですかぁ?」

 

何時になく真剣な表情を浮かべる千冬に、皆なんだろうと思い静かになる。

 

「織斑の事、頼んでもいいか? 無論私が傍に居てやればいいのだが、教師故ずっとは居てやれん。だから唯一織斑に近付いても大丈夫なお前にしか頼めない。無理なら断ってくれても構わない。どうだろうか?」

 

そう告げて、「この通りだ」と言って頭を下げる千冬。千冬が本音に頼むのは教師としてではなく、弟を守る一人の姉としてであった。

 

「分かりましたぁ! おりむ~の事お任せ下さぁい!」

 

そう言いダボダボの袖を高々に掲げる本音。

 

「そうか、それじゃあ頼む。他の者達も出来る限りで構わん。織斑の力になってやってくれ」

 

「分かりました!」

 

「近付けるのが布仏さんだけですから、私達は私達で出来ることをやります!」

 

それぞれ意気込む生徒達を見て千冬は少し安心した表情を浮かべ、教室から退室していった。


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