はっと気がついたように、彼の意識が外界に戻ってきた。
思考の早さは相変わらずだけど、こんな色事に使っているのは面白い。
散った彼女が今の彼を見れば、嬉しそうに微笑むんだろうな。
うん。それを忘れずに、こんなにも日常を楽しんでいくんだ。
「どうした?」
それを聞きたいのは私の方だよ。心が読めないような繋がりだけだったら、今にも決戦かと覚悟していたね。
いや。ある意味ではお互いにとって決戦かな。
「難しい顔をして考え込んでいるけど、何か問題でもあったのかい?」
「いや。今日の仕事は既に完了している。不備なく、不足もない」
それはそうだろうさ。何だったら、半年先の計画まで終わっている。
後は結果を書類にまとめて、大本営に提出するだけ。徹底的に、効率的に。ちょっと狂っているよね。能力の高さもあるけど、執念がすごい。
「そいつは良かった」
それでもさ。彼が死線から解放された証なら、私も嬉しい。本当に嬉しい。
もっと私に甘えてくれても良いのに。雷じゃないけどさ。
『響。もう疲れたよ』
そういって俯く彼を抱きしめたい。胸で泣かせたい。再起しても良い。落ちきっても良いさ。どちらも愛おしい。
そうすれば、昔の仲間達もここにいられる。戦えなくなった彼を守る為に、我を通していられるんだ。
そんな逃げを許せない性格なのは知っている。損な性格だよ。
「ならどうして、考え込んでいるのかな」
言えるわけがないよね。だから聞いたんだ。
予想通り、仄かに赤面している。可愛い。好きだ。
「私には話せない内容?」
こう言えば、そうやって提督の仮面が緩む。
知っているよ。創をいっぱい知っている。好き。
「難しい問題だ」
「…そう。まだ私は、貴方に信頼されていないんだね」
「それは違う!」
真っ直ぐに見開かれた瞳。射貫くように、真っ直ぐに。惚れ惚れする。
本当に愛されてるなあ。ふふふ。
「ふふ。冗談だよ」
彼が息を吐いた。緊張が解けた様子も愛らしくて、堪らない気持ちにしてもらえる。
いっそスカートを脱いで迫ってみようか。ダメだ。彼を傷つけたくないし。その。
怖いもん。いや。艶本で色々調べたけど。調べたからこそ。怖いよ。うん。困った。
「からかってくれるな」
無理だよ。絶対に無理。愛している人の顔は、色々な方法で見たいだろう?
暁をからかうのに似ている。大事な時にはとても頼りになる相手。それも合わさって、普段はからかいたくなるんだ。
「私と君の仲じゃないか」
今は一方通行だけど、心すら読めるほど深い関係。
とっても落ち着く。いるのが当たり前。いつか訪れる死すら受け入れあって。
――大切な人。
そんな仲も良いのだけど、出来れば私のスカートの中を見せたいなって。