「大丈夫だ。大丈夫」
耳元でとても優しい声。落ち着かせるような頭の撫で心地。ただそれだけ。
でもそれだけがほしかった。蕩ける位甘やかされて、どろどろな心がどうしようもなく。ただ許してもらいたかった。
勝手に頬が緩んでく。なのに泣き出しそうで。
「甘えたくなったら、甘えれば良い。俺が相手でも良い」
許されてる。本当に僕は甘ったれで、そんな僕を許してくれる。
白露とは違う。彼女は近すぎる身内で、甘えきるには心が許せなくて。
だからこそ、彼の言葉は心をとかしてくれた。枷を外してくれた。
「遠慮する必要はない。好きなだけ頼ってくれ」
力強い抱擁は愛情を感じる。深い感情。断じて欲求なんかじゃない。
僕を許してくれてる。佐世保の時雨じゃない。ここに在る時雨の弱さを、提督の抱擁が許してくれてる。
「どうして甘えさせてくれるの?」
最低な言葉だ。確信がほしくて求めてる。
なのに受け入れてもらえるんだって。もうすっかりと甘えてるんだ。
「俺は提督だからな。皆のお父さんみたいなモノだ」
頼りがいのあるお父さん。軍神がお父さんなら、僕達は大丈夫だね。
胸が痛む。悲しみが叫んでる。折れるなと、心が叫んでる。
急に抱擁が緩んだ。お互いの顔が見える。驚いて提督の顔を見れば。
「時雨が恐れている事態には、ならない様に努めよう」
――格好良い笑顔。見惚れる程堂々とした在り方は、確かに軍神と呼ばれる威光があった。
戦い続けてきた人間の顔。大人が子供に見せる笑顔。格好良いなあ。
こうなれるかな? …こうなりたいな。強くなりたい。強くありたい。
「ぁ、っと。その」
言葉が上手く出てこなかった。素敵な笑顔だと思う。戦う人間の格好良い笑み。
甘えの罪悪感とか、簡単に消し飛んだ。頼っても良いんだと思う。
「なにせ悪鬼だからな。そうだろう?」
一転としてにやりと意地悪な笑み。人間らしい。彼らしい笑顔だと思う。
素直な表情は真っ直ぐで、どこか無邪気にも見えた。
「う、それは、その」
違う意味で言葉が出てこない。上手く返せなくて黙ってると、強めに頭を撫でてもらえた。暖かい。髪型が崩れるけど、とっても落ち着く掌だ。
抗議として襟を掴んでみた。愛おしそうに微笑まれた。
むう。暖かくて格好良い。表情豊かで面白くて、安心出来る優しい顔立ち。
目元が優しくなってるから、とっても似合ってる。
「ずるいよ。いじわる」
「ははは!」
たまらなく楽しそうな笑い声。提督の弱さも強さも見せてくれて、僕の心も暖めてくれた。