楽しくて幸せな時間。こうして近くで触れ合って、提督の気持ちがよく伝わる。
心底から嬉しそうな声。愛おしいと伝える体の熱。全部、全部で僕を受けれてくれてる。
それでも、僕は問いかける。最低だと自覚しつつも、いや。
だからこそさ。白露ではありえない。最悪の想像を問うんだ。
「ねえ、提督。地獄にならない?」
一度だけ。本当に一度だけ、激戦区を経験した事がある。
時雨として生まれて、武勲艦から期待された。そうして戦場に向かって、戦ったのだけれど。
アレは地獄だった。艦娘をすり減らしながら、戦い続けていったんだ。
戦艦だから平気なわけじゃない。空母だから無事なわけでもない。
それでも、僕達駆逐艦は役に立てなかった。
駆逐艦の運用は危険すぎる。結論として、そうならざるを得なかったのさ。
回避と夜戦に特化した艦種だ。裏を返せば死にやすい艦種。肉体へのダメージ。そうして、大抵は幼い駆逐艦の喪失は、優しい人達の心を削ってく。
そうした果てに、戦艦を守る為に盾になった者達がいて。
提督にかかる負担が大きすぎて、練度の低い駆逐艦は危険すぎた。
僕が生まれた頃には、大分艦種への理解が深まってたけど。
平和な海域が生まれて、遠征が確立するまでは、本当に悲しい事ばかりだったらしい。
…この海域の近くに巣が出来た時。僕達が戦えば誰かはきっと死ぬ。
嫌だから、必死に強くなりたいと願っていたのに。こうして甘えさせてもらって。
「――そうならないように俺は在る」
この言葉を求めた僕は、本当に欲深いのだろうね。
強くありたい。何度でも心に願うよ。強くなる。強く在り続けてくんだ。
でも今だけは、こうして強くなった提督に甘えたい。自惚れでなければ、提督だって望んでくれてる。僕の自然な姿はこうだもん。
想像してたのと違う? 分からないけど。喜んでくれてる。ふふふ。恥ずかしい。
「だから、素直に甘えてくれたら嬉しい」
言い切って笑ってくれる貴方に、この重みを背負ってほしい。
ふふふ。重たい。重たいな。もう少し笑い合おう。聞きたい事があるんだ。
「それだけだ。以上。質問は?」
照れた様な言葉。柔らかな雰囲気は、ここまでの重たい空気を壊してくれた。
恥ずかしいけど、こうなったら完全に甘えきるんだ。
「白露って、お姉ちゃんって僕が好き?」
うわあ! すっごく恥ずかしい質問だ!!
……答え、分かってるし。なのに提督の口から言わせたがってる。
でも聞きたい。とっても聞きたい。白露は僕をどう思ってるの?
「すごい幸せそうに妹達を語っていたぞ」