「それでその、私はどうすれば良いの?」
村雨からの問いかけ。様子をうかがう様な上目遣いは、睨みとも違う感情の揺れが伝わる。これはアレだ。うむうむ。
滅茶苦茶緊張している。薄ら恐怖すら見える。ぶっちゃけ涙目になってる。
泣きたいのは俺の方だよ。泣いても良いっすか。自分、涙いいっすか。
うん。時雨の落ち着きや白露の感じで忘れていた。あの二人はなんだかんだと言っても、大した実力の持ち主だ。白露のお姉さん力。時雨の許容性。
完全に勘違いしていた。目の前で怯える村雨を見ろ。
『ぬ、脱いだら許してくれる…?』
とか言いそうなレベルで怯えてるじゃないか。可愛いけど。ぞくぞくするけど。
ぐひひ。一枚ずつ…ふう。落ち着こう。
これは駄目だ。白露のガチ切れを想像してしまう。
『ねえ提督。――あたしの大切な妹に何をした』
やべえ!! い、いや。そこまで怒らないだろうけど。怖い。
時雨なんかは。
『提督には失望したよ』
言い切られて見下ろされるだろう。興奮してきた。…落ち着け。興奮してない。誤射だ。
それはそれとして。俺って、普通にしてても怖いんだった。
顔立ちこそ若干マシになったが、雰囲気は怖いまま。村雨の性格は完全には分からないけど、日常の穏やかな感じが好きらしい。
俺の雰囲気と真逆。笑えてきたね。嘘だけども。
ううむ。どうしたものだろう。
いやあ、最近、というか初めの二人は慣れてくれていたからな。
ついつい忘れがちだが、俺は怖いのである。ふっふっふ。仕方ない。
もうその反応にも慣れた。我に秘策有り、だ。
「とりあえずかけてくれ」卑猥な意味はない。本当だ。
「えっと。そうする?」
怯えながらも俺の言葉を聞いてくれて、ソファーに座る。良い子である。
「うむ。仕事は終わらせてあるからな」
どや!! 鍛え抜いた事務力を見るんだ。これぞ提督力である。
「ゆ、優秀なんだ」
一々びくびくされると、さすがに傷つくのだけど。いや良いさ。秘策あるからな。
「お茶にしよう」
「あっ、私が淹れるよ」
「ここは俺に任せておくれ。お菓子の準備もあるんだ」
そう! この軍神に不備はない。甘い物で心を緩ませるのだ!!
今日の手作りお菓子はチョコケーキ。チョコのスポンジケーキを、これまたチョコクリームでコーティングした単純なお菓子だ。
艶のある黒色のケーキは、豊かな風味を予感させる。
飲み物はコーヒーを用意した。苦み少なく。香りを楽しむ豆である。
しっとりとした出来上がりに自信はあるぞ。
「わあ、すっごく良い感じ!」
緊張もどこかへいったのか。心底から嬉しそうに喜んでくれた。
「ならば良かった」
いつもなら、ここから姉妹艦の話を聞くのだが。他二人から十分に情報は収集している。どうしたものかな。楽しみだぜ。