いやしかし。口のぱさつきとか、残念な味とかを抜きにすれば。
楽しい食事だ。目の前で座る村雨を見れば、困ったような微笑みを見せてくれた。好き。やばいね。萌え力が高まりまくり。
うむ。こうして微妙な経験を共有することで、何だか仲良くなった気がする。良いね。
こぷこぷと水を飲み干して、再びのんびりと時間が流れる。
あ、飛行機雲。これ以上は消されそうなので歌わないが。あれは名曲だと思う。
ふふふ。寝ちまいそう。くっだらねえ事を考えている。なんて、言葉を汚くしてみた。ははは。ああ、いいねえ。
笑っちまう位に平和だ。良いこと。維持出来るように頑張らないとなあ。
「…提督はさ」
ぽつりと零れた言葉。続く想いを躊躇っている。
「うん?」
意識的に優しい声で促した。安心したように、しかしどこか寂しそうな顔で言うんだ。
「退屈じゃない?」
「難しい質問だな」
そんなにも泣き出しそうな瞳で聞くなよ。
思ってみれば、ここまで村雨らしい感じが少ないぞ。ちょっといいとこなあんて。
…戦争、だったからなあ。和やかムードとはいかなかった。
じゃあしかたない。しかたないんだ。――なんてつまらないよな?
俺は村雨に色っぽくからかわれたい! 飲み会を共にしたい!!
ふっふっふ。舐めるなよ。むしろ舐めまくれ。ぺろぺろされたい。
どこか自責の念を感じる表情で、彼女は静かに俺を見つめている。
真っ直ぐに見つめ返した。堂々と見つめる。
だってそうだろう。何が悪いんだよ。平和を楽しんで何が悪い。
「退屈が良いんだ。退屈で良いんだ」
劇的は要らない。激的な絶望なんざ求めてないんだ。
「かけがえがないから、前線が苦しんでいるから楽しむ事が悪い?」
愛らしい君達と楽しい日々を過ごしたい。例えば村雨で言うなら、そうだな。
「違う。楽しめ。君達は兵器じゃない。英雄になる必要なんてないんだ」
ノリノリで宴会をしたいし、今だって十二分に楽しんでいる。肉体的接触だけが楽しみじゃない。こうして過ごしているだけで、きゅんきゅん来ているんだ。
「今日の朝食は美味かった。明日は何だろう? ああ。なんて平穏な日々」
愛おしい熱量。この尊さを俺は誰よりも知っている。二つの世界を知っている俺は、数多に分岐した艦これを知るから、彼女の自責なんて認めたくない。
もっと笑っておくれ。宴会芸でも見せてみようか。
「退屈だ。そうだ。皆と遊ぼうじゃないか、なんて」
何でも良いんだ。かくれんぼでも良い。時にはケンカしたって良い。
「そう思える位、平穏が当たり前にあってほしい。そんな日常を味わっていたい」
「望んでも、良いの?」
彼女の顔が上がった。まさか俺から、軍神とか言われちゃってる俺から、こんな言葉が出るとは思ってなかったのかね。
救われた。と感じてくれれば最上だけど。生憎だが俺はそこまで優秀じゃない。
ただただ本音を言葉にするだけだ。
「俺がそうしてほしいんだ」
「…えへへ。そっか」
「こうして穏やかに過ごせる日々が、どれ程貴重な事か」
実際、平和な日々は特殊である。深海棲艦は普通に生息している。その内にここらの海域に巣が出来るかもしれない。からこそ。
「だからこそ、楽しいと思える自分を許してほしいね」