「結局、提督はどうしてほしいの?」
そうだなあ。今更、エロい気分にもなりづらいと言うか。
例えばそう。乳枕をしてもらったとしよう。…罪悪感が来るよね。
いや、下ネタに走ると決まったわけでもなし。素直な本音で彼女に望むこと。
――歌声。どうだろう。時雨から聞いた話だけど、彼女は歌が好きらしい。暖かい日常を楽しく歌うのが好きらしい。
ちょうど良い天気だ。正直、俺の疲労も完全には抜けていない。昼寝といきたい。
「子守歌を聴かせておくれ。こんなにも天気が良いから、ゆっくり眠りたいんだ」
驚いた様子もなく。というか、時雨から聞いたと察したのだろう。
いたずらに微笑みながら、いじわるな声で問いかける。
「膝枕もつける? 提督は甘えん坊だもんね」
「したいのか?」
堂々と問い返した。真っ直ぐに見つめて、彼女の逃げを許さない。
「…しないもん!」
真っ赤な顔で耐えきれず。愛らしい反応をまた一つ。
本当にからかい甲斐がある。良いリアクションを返してくれる子だ。
「くくく」
「また笑った! お願いしてるのそっちなのに、もう」
「すまんすまん」
どうして村雨は、こんなにからかいたくなるんだろう?
白露には甘えさせてもらって、時雨には甘えてもらった。純粋に考えるなら、村雨は時雨より甘えさせるのが、自然な流れだと思うぞ。
楽しいから良い。そうだ。そうだろう。
「…正直、プロ並とかじゃ全然ないけど」
「俺が聞きたいんだ。君の声で聞きたいんだ」
ごろりと横になって、ぐ~っと体を伸ばした。
疲れがどろどろと出てくる。白露のおかげで、随分と軽くなった体。それでも芯に残った疲れは重く。まだまだ残っている。
きっと、村雨の歌を聴いて眠れたなら楽になれる。
「草原に寝転がって日向ぼっこをするのも、悪くはない。そこに村雨の歌声があるなら尚更だ」
「そんなので良いの?」
不思議そうな声。可愛いぞ。ふふ。君が愛する日常の尊さ。俺が愛する萌えの尊さ。
似ているのだろうけども、さすがに正直な心を聞かせられない。
熱意をぶつけて照れる彼女は眼福だろうが、白露から怒られそうな気もする。
だからこそ、正直な想いを嘘にはしない。ただただ淡く伝える。
「そんなのが良いんだ。君の愛した日常を俺にも楽しませてくれ」
「ふふふ。なら村雨のちょっと良い歌声聞かせてあげる!」
寝転がって顔は見えないけど、きっと村雨らしい得意げな微笑みなのだろうな。
「よろしくお願いする」
目蓋を瞑り意識を世界に融かす。眠りに落ちる恐怖は薄れて、ただただ彼女の歌声を待ちわびていった。