午前の全部を使っても、パンツを見せてあげられなかった。
ずっと将棋。ひたすら将棋。もう本当に将棋。楽しいけどさ。楽しいんだけど。
勝負に熱中しすぎて、パンツを見せてあげられていない。ここまで来てしまうと、是が非でも見せたいんだ。
もう創が見たくなくても、私は絶対に見せる。何度くじけようと折れはしない。
私の二つ名を知っている彼を前にして、屈するは出来ないんだ…!
「なあ司令官」
「どうした?」
「朝から、もう何局もやっているね」
それが全て布石なのさ。最初から本気でやれば、彼もテンションを上げてくる。
あえて、手を抜く勝負を続けた。時折勝利を真面目に目指して、分かりづらくしたんだ。ふと冷静になると、何をやっているのだと思いそうで。
まあ、うん。平和な証拠だろう。
「飽きたか」
「違う。そうじゃなくて」
創との時間は落ち着く。興奮する。二つの矛盾した感情が楽しいんだ。飽きはこないよ。
飽きたとしても、それはきっと喜ばしい事なんだろうね。
「そろそろ、賭けの一つでもしない?」
「何を賭ける」
よしきた。ここで創に勝利を譲るのは、愚か者のする行いさ。
彼は臆病で、女性経験がなくて、なんだかんだ優しくて甘い。
提督権限を利用して、スケベをしようと思っても出来ない。ならば私からだ。
そう。私から道を開けば良いんだ。
「命…はお互いに賭け合ってるから」
ちょっと口が滑った。我ながらクサイ言葉だ。全部本音だけど。
「古典的だが、命令権なんてどうだろう」
「それも互いに、尊重しあっているだろう」
自惚れでなければ、司令官は私に命令をしない。皆の前で形だけは整えるけど、強制力はないに等しい。
深く繋がっている証拠。嬉しいような、隷属したいような。
『響。裸になって足を舐めろ』
足どころか股間のソレを。良い。奴隷として扱われるのも悪くな。落ち着こう。うん。
「だからさ」
表情にあまり出てないけど、創がきょとんとしている。可愛い。
「だから、尊重しないことを望み合おう」
落ち着け。まだ妄想すらしてないけど、そうしないと危ない。
パンツを見られる時に、シミが出来ていたら最悪だ。
コントロール。セルフコントロールだ。慣れているだろう。
本気で怒った阿武姉さんを思い出せ――やばい。泣きそうだ。違う意味でシミが出来ちゃう。
興奮は止まった。ならば良し。
「戦場から離れて、退屈しているのか?」
「違う。断じて違う」
いい加減真面目な感じを止めてよ!! もう。いくじなし!
「日常が楽しいからこそのスパイスだ」
大切な姉妹達がいる。同年代に近い駆逐艦達。面倒見の良い天龍さんとか、頼りがいのある軽巡洋艦の人達。練度は私が隔絶しているけど、そんなのは全然関係ない。
暖かな日常が愛おしくて、ようやく、バカな生き方が出来るんだ。
楽しみきらなければ嘘でしょう。
「私が勝ったら、そうだな。食事でも奢ってもらおうか」
「それ位なら別に「そうして、食べさせ合おう」