「敬語」
優しくて淡い指摘。微笑みながらの言葉は静かで、心地良い。
きっと全然怒ってなくて。それでも体は恐怖を覚えて。勝手に涙目になる。
「あっ! その、ごめんね」
慌てて訂正してみれば、愛おしそうに笑いながら言葉が返ってくる。
「ふふ。それが自然体なら構わないさ」
すっかりと打ち解けてきてる。彼の表情が何となく分かるの。
でもやっぱり、白露姉さんが言ったようなスケベさはないよね?
『提督も男の子だからね! あんまり近づきすぎると、お互いに困っちゃうから』
深い実感が乗ってたけど、いやむしろその実感の方が気になったけど。
今の所は、胸とかお尻にいやらしい視線も感じないし。
どうなんだろ。個人的にはそういうのも興味がある……って、何を考えてるんだか。
確かに、まあアレよね。提督しか身近な異性はいないけど。提督からしても、身近な異性は私たちだけね。
それでも普通の人だと、怪力とかに恐怖が先立つらしい。
う~ん。そんな考え方は提督に失礼かな。止めとこう。
「…白露姉さんから聞いたけど、提督は仲良くなりたいのよね?」
「ああ」
言葉通りに受け取ると、なんだか面白い響き。
仲良くなりたい。ふふふ。まさか恋愛じゃないよね。というか、多分響と提督はそんな仲だと思う。浮気なんてありえない。
乙女としては、二人の関係も強く気になったり。我ながら、恐怖が薄れたら馴れ馴れしすぎる。それがなくても上下関係。調子に乗り過ぎたら駄目。
なのに楽しいんだからずるい。何でこの人は、村雨に笑いかけてくれるんだろう。
…戦ってない駆逐艦なんて。こんな言葉も、ただ平和から逃げたいだけのような気がして。段々とこうして提督と過ごす時間が、楽しくなってる自分がいる。
ふふふ。いい感じ。ちょっとじゃなくていっぱい。いっぱい良い感じ!
「深い意味はないのだがな。君達が俺を恐れていると聞いた」
「う、うん。ごめんなさい」
否定出来ない。実際、大分慣れた今でも仄かに怖いんだ。
鋭い目つき。固い表情。身のこなしも隙がない。気配もそう。普通の人とは違う感じ。
見えてる世界が違うのかな? 周りの把握能力が凄い。きっとだけど、私の足音すらしっかりと認識してる。特に索敵と認識能力が凄い。
こうして、歩調を合わせて歩いてるからこそ、彼の感覚が少し理解できる。
私の戦闘経験は薄いけどね。仮にも艦娘の私が、底知れないと思う程度には隙がない。
「謝る必要はない。これまで交流を避けてきたのは、俺の方だ」
もっと正確に言うなら、仕事が多すぎたり。
それでもお構いなしな子たちだっていたけど。初対面の時は怖すぎた。白露姉さんとのやり取りから、随分と雰囲気が柔らかくなってる。
何があったのかな? 聞いてみたい。
「だからこそ、俺から触れ合いたいと思ったのさ」
「ふふふ。ありがと」