触れあい。触れあいね。う~ん。唐突な思いつきだけど、のんびり二人で散歩してるんだからもっとこう、触れ合っても良いかもしれない。
いやらしい意味じゃなくて。純粋な話。うん。うんうん。…誰に言い訳してるんだろう。
腕を組む? いやいや。照れるし恥ずかしいよ。いっその事ハグしてみるとか。
そ、そんなの駄目。抱きつくとか絶対に出来ない。初対面と比べれば、とっても気持ちは落ち着いてるけどね。どうしても無理。恥ずかしすぎる。
もっと軽く。単純に距離をつめて歩くとか。照れない程度のが良い感じ。
手をつなぐ? ……うん。良い感じ!
だけど、これを言うのも恥ずかしいな。せっかくの機会。分かってるけど。
緊張する。言葉がのどに張り付いたみたい。それと同じくらい――楽しみにしてる。
「じゃあさ。手、つながない?」
い、言っちゃった。唐突すぎなかったかな。引かれてないかな。
高鳴る心臓の音を自覚しながら、そっと提督の様子を窺うと。
「む? 分かった」
何の動揺も感じない声色。いつもと変わらない自然な佇まいで、手を差し出してきた。妙に似合ってて不思議な感じ。
ずるい。ドキドキしたり、緊張してるのは私だけなんだ。
当然だけどね。分かってても、乙女としては複雑な気分。いや変に興奮されたりとか、そういうのは普通に怖い。でも、何かもっとあっても良いじゃない。
とりあえず今は、気にしないでおく。こうして触れ合えるようになれたのも、純粋に嬉しい。それこそ今までだったら、挨拶すらまともに出来なかったんだ。大分前進。
もっと良い感じになりたい。躊躇いながらも、そっと手をつなぐ。
「わっ大きい手…」
武骨な手のひら。分厚い皮膚と鍛えられた感じ。
少しだけ肌が変なのは火傷の痕かな。傷痕だらけの手だ。
歴戦の軍人の手。だけど握り心地はとっても優しい。壊れ物を扱うみたいに、そっと握ってくれてる。
ふふふ。レディの扱い! 暁ちゃんじゃないけど、一人前のレディーとして扱われてる。なんだか胸が温かい。優しい気づかいね。
提督は紳士なのかもしれない。気恥ずかしいけど、乙女としては嬉しいね。
「村雨の掌は小さいな。細くて、女の子の手だ」
真剣な言葉。本音だけで語られてる。聞きようによっては、ちょっとスケベにも感じるけど。あんまりにも真っ直ぐだから、拒絶とかできなくて。
素直な嬉しさが言葉になる。
「あ、ありがと」
「「……」」
お互いに黙ってしまう。自分の顔が赤いのは分かってる。ちらりと彼を見れば、仄かに赤面してる気がした。