それはそれとして、お腹が空くから困っちゃう。
のんびり陽気で気が緩む。風が気持ちよくて眠くなる。
ふふふ。やっぱり今日も良い感じ。この場所は素敵だね。でもお腹空いたなあ。
小さくお腹の音が鳴った。恥ずかしい。ちらりと提督を見れば、音は聞こえてなかったらしい。ちょっとだけ安心。乙女的に聞かれるのは駄目だよ。
ただ、視線には気付いたみたいで。静かに口を開く。
「昼餉と言えば、だが。軍用食ならあるがどうする?」
手品みたいに懐から出された物。見慣れた物資。乾パンが入った缶と、頑丈に作られた水筒。きっと中身は水。コーヒーとかの洒落た雰囲気はない。
聞こえてなかったよね? 何の反応もなかったし。ただの気づかいだったのかな。
顔が真っ赤になりそうだけど。なんとか我慢しよう。気付かれなかったら、とっても恥ずかしい感じ。触らぬ神に祟りなし。優しい軍神だからこそ駄目。
内容は少しだけ残念だけど、せっかく出してくれた物。それに。
「ふふふ。のんびり原っぱで食べると、不思議と美味しそう。良い感じね」
こうしてお腹が空いてる時に、それに和やかな時に見るとね。武骨なイメージのある軍用食も、ちょっとだけ馴染みやすく感じられる。
海の上だと、妖精さん特性の艦装しか食べられない。いっつもおにぎり。嫌いじゃないけど、陸だと食べる気は出てこないよね。
それにジャムもついてるから、きっとおいしい筈。うん。
「お気に召したなら良かった」
微笑みながらも、少しだけ得意げな顔だった。顔は固いのに表情豊かな人。微笑ましい感じ。
二人で声を合わせて、ごはんの時間を告げる言葉。
「「いただきます」」
缶を開けて、乾パンを取り出した。何度か食べたこともある。
特に戸惑いもせずジャムを塗って一口。
「…美味しそうだったけど、えっと」
とっても口の中がぱさつく。味も酷い。小麦をブロック形にして、徹底的に固めた感じ。要約すると美味しくない!
カロリーを取れれば良いって、そんな目的しか感じられない。提督がごちそうしてくれたケーキとは、似ても似つかない残念な味だった。
でも、そのまま伝えたら傷ついちゃうかな。そっと様子を窺う。
「正直に言えば不味いな」
苦々しげな顔で呟いてた。良かった…いや良くはないけど。
提督の味覚もそこまで変じゃないらしい。ふふふ。お互いに嬉しくないのに、共有してると思うと嬉しい。変なの。
「ちょっと残念な感じ」
「うむ」
二人で微妙な顔をしながら、食べてく。味はおいしくないのに、胸はあったまる。不思議な時間が進んでく。