こうして、日常の中で軍隊の雰囲気を感じてると。
目の前の人の異名を強く思い出す。軍神。ここまで来たら、さすがに提督の気質は分かってる。優しい人だ。涙が出そうな程にね。
だからこそ、そんな彼だからこそ。こんなにも平和な日々を過ごすのは、寂しかったり辛くはないのかな。
「…提督はさ」
「うん?」
とても、とても残酷な問いかけだと思う。
私は何で聞くんだろう。何を許してほしいんだろう。分かってる。意味がないのは、分かってるんだ。
「退屈じゃない?」
最低の言葉。駆逐艦が言って良い事じゃない。
私は、尊いからこそ怖くなる。楽しいからこそ悲しいんだ。
失いたくない。戦いたくないよ。この平穏が壊れる位ならなんて。
「難しい質問だな」
困った様に彼が笑った。とても優しい笑みは、どこか泣き出しそうだ。
…やっぱり、とても優しい人なんだと思う。この人がちゃんと笑ったら、どれだけ緩んだ顔なんだろう。暖かい笑顔なんだろう。
彼の言葉は続く。天に呟くみたいな響きで。
「退屈が良いんだ。退屈で良いんだ」
のんびりと歌うような言葉。静かな声色は凪いでいて、穏やかに心を許してくれてる。
暖かい。ただ当たり前を教えてくれてる。
「かけがえがないから、前線が苦しんでいるから楽しむ事が悪い?」
ただただ提督が笑みを見せる。格好良い笑顔。人間として、大人として見せる強い表情。
「違う。楽しめ。君達は兵器じゃない。英雄になる必要なんてないんだ」
兵器じゃない。だけど、結果として私たちは戦う必要があるんだ。
それでも尚、そうではないと。そんな状況が可笑しいのだと。胸を張って、平和を楽しむ私たちで良いのだ。
むしろ、楽しむ私たちを知ってすらいる。確信めいた目の光が、真っ直ぐに私を見つめてる。駆逐艦・村雨じゃない。
いっしょにごはんを食べて、こうして共に過ごす私を見つめてる。
「今日の朝食は美味かった。明日は何だろう? ああ。なんて平穏な日々」
皆が楽しそうに過ごす時間。そんな幸せが当たり前にあって。
…恋、とか。いずれは人々と深く接していくんだ。駆逐艦としてじゃない。人の一員として過ごして生きてく。
ああなんて残酷な夢物語。信じたいと、そうなりたいと思えるからもっと酷い。
「退屈だ。そうだ。皆と遊ぼうじゃないか、なんて」
からかいの笑みを浮かべて、心底から嬉しそうに語ってる。
ありふれた日々と言えるのは、贅沢だと知っているからこそ。だから。
「そう思える位、平穏が当たり前にあってほしい。そんな日常を味わっていたい」
噛みしめる様な言葉。暖かな日常の中にあって、戦場を象徴する響きだった。