「乙女が簡単に色事を許すんじゃない」
よくよく見れば、提督の顔も赤くなってる。照れてるのって私だけじゃないんだ。
提督だって、慣れなくても楽しんでくれてるの? ふっふっふ。良い感じ。
もっと踏み込んでみよう。そうして心を触れ合わせたい。
「でもでも、経験は大事だと思うの」
そういうのを知らないまま死にたくない。いつか、なんて思ってたら、知らないまま死んじゃうよ。そんなの嫌だ。怖い所もいっぱいあるけどね。
こうして提督と知り合って、信頼出来る人だとは思ってる。
軽薄な行動なのは否定出来ないけど。お互いに、触れ合えるなら良い事でしょう。
「興味があろうと、ちゃんと心身共に向き合える相手と添い遂げなさい」
そう言われちゃったら返す言葉もないけどね。実際、提督の趣味とか知らないし。
お菓子作りの腕はすごいけど、だからって彼を知りきってるわけじゃない。
日比生 創。提督って言葉を剥がしたら、彼の名前はこうなってる。
は、創。なんて呼べるわけない。こうして心で呼ぶのも躊躇う位。口に出そうとしたら、舌が緊張しすぎて困っちゃう。
「…そんなの待ってたら、いつか死ぬもん」
残酷な言葉だとは思うけど、これが大体の艦娘の本音だと思う。
事実、提督と関係を持ってる人は多いらしい。この鎮守府でこそ話は聞かないけど、激戦区ではそういう専門の人もいるとか。
でも、本当は愛し合っての方が素晴らしい。
だってそうでしょう。命を繋いで先を望めるなら、誰だってそっちの方が良いに決まってる。生きていくを出来るというのならば、日常を歩みたいに決まってる。
赤ちゃんとかさ。人生を背負い合って生きていきたい。
その相手に提督が……う~ん。想像出来ないや。だから、提督だって嫌と言うんだろうね。ちょっと反省。
「時雨にも言ったけど、そうならない為に俺はいるんだ」
軍神としての在り方。見惚れる程格好良い笑みを見せて、威風堂々と宣言している姿。
強い。びりびりと肌に刺さる圧力を感じる。切磋琢磨された指揮能力が、物理的に力を発揮してるんだ。
「逃げても良い。逃げた先にいる俺と響が、絶対に勝たせてみせる」
ふふ。やっぱり提督の相棒は響なんだ。張り合うつもりはないよ。お似合いだとも思ってる。でもちょっとだけだけど。ほんのちょっとだけど。
悔しいって、思ってる私がいる。自分でも驚く心。
胸に闘志が灯る時なんて、死ぬまでないと思ってたのにね。
「…ありがと」
素直に零れた感謝を受けて、また優しい笑顔で言葉が返ってくる。
「どういたしまして」