いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

141 / 322
想いを紡ぐ、愛おしき貴方へと。です

 息を吸う。お腹の底から、手足の先まで酸素が澄み渡るイメージ。

 一度だけ瞳を閉じた。脳裏が静かに揺れてく。心が緩んでいく。

 細く、鋭く、集中という名の力を伸ばす感覚だ。

 

 息を吐いた。息を止めてた分だけ体が温まって、脳から雑念が消えてった。

 体の準備は出来てる。心の用意も済んだ。さあ歌おう。

 こうして、優しく愛おしい時間をくれたこの人へ。私の全てを乗せて紡ぎ上げよう。

 

 歌を、歌を歌う。

 優しいこの人へ告げる。戦場の悲しさを響かせる歌。

 夜の海。静かに凪いでいる。全てを許す声よ届け。私たち艦娘が、いつか訪れる終わりを歌声に変えて魅せる。

 

 私が愛する日常の暖かさを、戦場が告げる果てもない哀切を。

 織り交ぜて、貴方の心に届いてほしいって。ゆらゆらと揺れる音色は柔らかく。お腹から全身に伝達する震動。息。いき。生きるを伝える。

 

 こうして向き合ってくれたから、どこまでも真っ直ぐに想いを伝える。

 ふふ。村雨の、ちょっといいとこ聞いてよね。穏やかに提督を見つめると。

 寝転がった彼から涙が出てる。それは軍神の涙と言うには弱々しくて、必死になって戦ってきた人の。

 

 でも駄目だ。そんな許し方を彼は望まない。なんて偉そうな言葉で。

 それを紡げる今の状況は、とっても良い感じ!

「…提督。泣いてるの? ふふ。それならこんな曲を聴いてほしいな」

 

 お祭り騒ぎの楽しい歌に変えた。陽気に明るく。私たちの姉妹で言えば、夕立が一番似合いそうな歌。ああ、そんな事を言っちゃうと、想像の白露姉さんが騒ぎ始めた。

 皆のやり取りを時雨姉さんが見守ってる。

 

 楽しい楽しい日常を強調して、ふふ、っと静かに微笑んでくれた。

 嬉しい。芝居かかったように声を意識しながら、私自身も楽しんで歌ってく。

「村雨。欲張りですまないが、先程の曲をお願いしたい」

「でも…」

 

 提督の泣く姿を見てると、とっても胸がざわついて。落ち着かない感じ。

 本当はぎゅってしたい。強く抱きしめたいけど、きっと許してくれないよね。

 なんとなくだけど。今の提督はからかう感じとかなくて、しなやかな在り方が見える。

 

「少し涙を流したい気分なんだ」

 真っ直ぐな言葉。忘れたくないって、戦場も己の一部だって。

 声に出てないのに、熱く伝わってきた。ん。そうだよね。

 

 艦娘としての在り方。戦う者としての在り方も、私たちの一部なんだ。知ってるよ。知ってるから、もっと強くなれる。

「ふふっ。物好きだね。良いよ。村雨が、もっと良い歌聴かせてあげる」

 心を込めて想いを紡ぎ。とても優しい微笑みで眠る彼と、一日を過ごしていった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。