「その、あの」
言いづらそうにしながらも、俺の誘いに乗ってこない。
ふふ。なるほど。詰んだな! とまあ、冗談は置いておくとして。
しゃがみ込み、背の低い彼女と目線を合わせながら、ゆっくりとした言葉で問う。
「どうした? 焦る必要はない。落ち着いて話してくれ」
最近、随分と柔らかくなった表情で微笑んだ。
狙い通りにほっとしてくれた様子。白露とかに感謝。これまでだったら、まずここで泣き出していただろう。ふふ。俺の成長が怖いぜ。
「…お菓子、作ってきたんですけど」
もじもじとした言葉は素直に愛らしい。入ってくる時に気にしてなかったけど、よく見なくても手荷物持参である。お弁当袋みたいな。愛らしい兎を模した袋。
水筒だってある。紅茶か? 楽しみだ。
ふ、ふふふ。――まじでか!!
手料理って!! これは乙女ポイント高いですよしかし。
ふう。興奮しすぎて意識が飛んでいた。いやまずいね。絶対に美味いだろう。そういう意味じゃねえ。手作りのお菓子とか堪んないね!!
なにこの美少女ゲーム的展開。良いのか? 俺が惚れちまうぞ。本当に良いのか?
「よ、余計ですよね! ごめんなさい」
いやいや何を言っているんだ!! ここで待てとかどんなレベルのプレイだよ。
『待ても出来ないんですか? 盛りのついたわんちゃんですねえ』
興奮してきた。なんだろう。俺は春雨をそういう人にしたいのか。いじめられたいのか。
いや、いじめられたいよ!! 見下した眼で、それも白い靴下を履いた足を!! 舐めさせられたい!!
『ご褒美ですよ。こういうのが良いんでしょう? …変態』
ありがとうございます! ありがとうございます!!
落ち着け。パトスが漲りすぎている。体の調子が良くなりすぎて、どうにも心が昂ぶっているぜ。ふっふっふ。絶好調が過ぎるね。やれやれだ。
変態性は元からだけど、今日はやけに滾っていた。やったるで!
「ありがたくいただきたい」
「えっと、その」
春雨、恐縮です! とか言い出しかねない恐縮姿である。
どうしたものだろう。ちょっといじめたくなったり。涙目春雨も見たいぞ。
溢れ出るパトス!! パトスの意味とか知らないけどな!!
さて。改めて。
彼女の前へ大げさに跪いて。まるで騎士が姫君へ示すように、慌てる彼女の片手を取る。掌へのくちづけはしない。ていうか出来ない。
そうして真っ直ぐに紅色の瞳を見上げながら、囁く声で言葉を紡ぐ。
「もし良ければ、君のお菓子をいただく名誉を俺に与えてはくれまいか」
「そんな、大げさですよ!」
大慌てだ。仄かに涙目だった。ごっつぁんです。
「嬉しかったんだ。お茶も用意してくれて、本当に気が利く良い子だな」
「…えへへ」