「実はだな」
唐突に切り出す話の流れ。これにより相手の思考の隙をつける。
「はい?」
ほら。狙ったとおりだ。根が真面目な彼女は、俺の発言に虚を突かれた。
ここだ。もう少し言葉を巧みに使ったなら、甘えベタな春雨を甘やかせられる。
その結果どうなろうと構わん! サドな彼女が目覚めたなら仕方ない。俺が責任を取るさ。
「秘書艦は提督の業務を支えなければならない」
「は、はい。そうですね」
これは単なる事実。今は春雨が提督の位置にいるので、必然的に俺が秘書艦の役割を果たしている。仕事の補助。つまりは生活の補助。
支え合い提督業を紡ぐ存在。それが秘書艦である。
「故にこそ。提督は秘書艦に甘えなければならないとも言える」
「どういう意味でしょう?」
きょとんと小首をかしげている。愛らしい。頭を撫で回したいぜ。
焦るな。それも捨てがたいが、今は昼食の時間だ。今だけ出来る事を優先するが必然…!
「つまりだな――あーん」
一切の躊躇なく。彼女へ鮭の切り身を一口。箸でつかんで差し出した。
我ながら発想の意味が分からない。つまりこれは、かの有名なあーんの儀式。バカップルか介護か。究極の二択でしか生まれない筈の状況。
怒濤の展開だ。幾ら艦娘と言えど、動揺は隠せない。
「えっ、えっ!?」
綺麗な紅色の瞳が、大きく見開かれたあーんを見つめていた。
ふっふっふ。冷静になったら恥ずかしくなってきたぜ。それでも今更退けはしない。ここは譲れません!
舐めるなよ。俺は軍神と呼ばれた提督なのだぞ。最適な一手はいつだって、我が魂と共に!!
「嫌だったか…?」
俯き。とっても寂しそうな声で言葉を紡ぐ。というか割と本音。
だってアレだよな。白露とかならともかく。俺が唐突にやっても、違和感しかないし。調子に乗りすぎていた。
鬱だ。死のう。ちょっと踏み込みすぎたみたいだ。ふふふ。最近上手くいきすぎていて、距離の詰め方を間違えてしまった。
ただ違うんだ。俺の欲望だけじゃなくて。いっつも頑張っている彼女を、甘えさせたいと思っただけなんだ。やましくない。本当。
春雨の口内が見たいとか、食べさせるって実質せ………だとか。そんなじゃない。
等と思考の渦へ落ちていると、彼女が食べてくれる。
「ん」
ほんわかとする感じ。川内の時も思ったが、誰かに食べてもらうって面白い。
こう。胸が温かくなるのだ。少なくとも信頼を感じるし、普通に嬉しいぜ。
「…不思議と、食べさせてもらうと一層美味しいです」
柔らかな微笑みを浮かべてくれた。俺も嬉しいね。
「うむ」
ふう。良かった良かった。主に白露を参考にしたのだが、悪くない空気じゃないか。
それだけ春雨が優しく。或いは俺の雰囲気も柔らかくなったのだろう。良きかな。
「ではその。司令官は逆に、秘書艦にご褒美を上げるべき。ですよね?」
「うむ?」
妙に彼女が照れている。これはアレだな。
俺の予想通り。今度は春雨から、お返しのあーんが与えられる。
「あ、あーん」愛らしい声。さて。