「それなら改めて」
座ったばかりでアレだけども。立ち上がって、彼女の後ろへ回ろうとすれば。
「いえ、えっと。座っててください」
止められてしまった。
春雨がもじもじと何かを躊躇っている。触れられるのが嫌だったのだろうか。
或いはトイレか? 言葉にはしないけども。おもらしは……止めておこう。俺の性格を疑われかねない。春雨スープ――おっと。深い意味はないんだ。本当だ。
「む?」
ぼけ~っと様子を見守っていれば、彼女が俺の太ももに座ってきた。
「よいしょっと。…重くないですか?」
「軽い位だよ。気にする必要があるとは思えない」
……ふむ。そういう事か。成程。なるほ、ど。――えっ? えっ!?
弾力のあり、小ぶりで柔らかな尻の感触。スカート越しに伝わる春雨の体温。甘い匂い。華奢な背中がとても近くに見える。桃色の髪に手が届きそうだ。
何より此方を振り返る春雨の瞳。紅色の潤んだ瞳。や、やばい。やばいぞこれは。
どうした? 何があった!? 俺は悪魔にでも魂を捧げていたか。何をどうすれば、このような奇跡的状況に至れるというのだ。
「えへへ。ありがとうございます」
嬉しそうな彼女の声が、とても近くで聞こえる。控えめで可愛らしい声色。こうして近くで聞こえると、胸をくすぐる切ない声音。
ちょう萌えるんですけど~!! だめ、だめだめ。これは嬉しすぎる。幸せすぎて心臓が止まりかねない。
「うん」
頑張れ俺。ちょう頑張れ。抱きしめたら駄目だ。あ~滅茶苦茶抱きしめてえ。抱きしめて頭を撫で回してえ。欲を言うならば。ああ。ああ!!
……ふう。落ち着くんだ。大丈夫。いけるさ。
「それじゃあ肩を揉むぞ」「お願いします」
改めて、彼女の肩を揉み始める。
痛くならない様に気づかい。ツボに親指が当たり、そうして他の指で肩の筋肉をほぐすイメージ。
ぐいぐいと力は込めない。点へと的確に力を込めて、流れで肩をさするだけ。
「あ、そこ、です。う~、あったかい。気持ち良い、です」
「うむ」
春雨は俺の耐久テストをしているのか? 愚息よ。反応するな。
『司令官の方が凝ってそうですね。…変態』
やべえ!! 落ち着くのだ。尻の感触を気にするんじゃない。そういうのじゃない。マッサージに集中しろ。
「司令官は、ほんとにがんばりやですねえ」
とろけきった声での言葉。だからこそ、彼女の本音が聞こえるような。
「そうか?」
嬉しいのだけど、頑張り屋とは言い難い。いやまあ、かつての仲間達の日々は財産であり。それらが成し遂げた功績位は、誇れる自分でいたいのだがね。
故にこそ、賞賛を素直に受け止めきれないのかもな。
…それはそれとして、色々と異名をつけた奴には話があるのだけど。なあ。
「私たち姉妹と、ちゃんと話してくれてます。嬉しいです。はい」
「俺も楽しいからな。だから、こうやって接しているんだ」
現在進行形で楽しんでいる。楽しみすぎて逝っちまいそうだ。二重の意味で。
「良かったです」
「ん」