彼女が俺から降りて、立ち上がり見つめてくる。
「ありがとうございます。司令官のおかげで、ちょっとだけ自分が好きになれました」
改めてのお礼の言葉。姿勢良く。ぺこりと頭を下げてくれた。
そのまま頭を上げれば、凜々しい表情の春雨がいる。
小柄で愛らしい姿は美しきかな。柔和な微笑みが似合っている。
歪みなく。淀みなき紅の双眼。美しい。凜としたその姿は、先程までの淀んだ雰囲気は感じられず。落ち込んだ様子は残っていない。
静かに寄り添う春雨の、優しくも心強い佇まいを感じられた。
「こちらこそ。春雨の手助けが出来たならば良かった」
「はい!」
うん。大した事も言えなかったが、少しは調子が戻ったらしい。
やはり美少女には笑顔が似合う。春雨はとびっきり似合っているぜ。ふふふ。
我ながら気障な台詞。絶対、口に出せない言葉だった。
「お礼と言っては変ですが、今日の夕食は私が作っても良いでしょうか?」
窺う様な言葉。彼女らしい魅力的なお誘いだった。
ふっ。俺の超人的料理技術は、まだまだ封印しておく事になりそうだな…!
などと、適当に思考を巡らせつつも。真面目に言葉を返す。
「ありがたくいただこう。期待しているぞ」
「お任せください」
良いね。俺は春雨の丁寧さが好きだ。献立は何だろうな。楽しみである。
「ふふ。提督体験中なのに、やっぱり変ですかね」
「俺が作る時もある。気にすることはない。ただただ楽しみだよ」
「そ、そこまで期待されると不安だったり。がんばります」
恐縮する春雨可愛い! これで料理が麻婆だったらね。しょうがないね。
「うむ」
「でも、でもでも。春雨に期待しててくださいね。――約束ですよ」
困った様に笑う彼女。色々と意味が込められているのは、俺でも分かるさ。
だからこそ堂々と、目を逸らさないで応える。
「約束するよ」
駆逐艦・春雨。艦これ世界での在り方は、艦装の感じからして戦闘向けでなく。
まあ、護衛や輸送が強調されているけど。たしか武勲も相当に優れていた筈。
ならば、今彼女が憂いている問題も解決出来よう。練度が上がれば改二に至れるかもしれない。
それこそ、加賀改二の前例だって在る。俺が知らない改二もあったんだ。
春雨改二。どんな姿になるのやら。まだ改すら至っていないのに、話が早すぎただろうか。別に良かろう。心を咎める者なんていないさ。
「では、残りの仕事も頑張っていきましょう」「ああ」
さあ、今日を終わらせよう。着実に一歩ずつ。強くなっていくんだ。