献身と丁寧の仮面です
白露姉さんが、白露型の秘書艦作戦を提案してから三日目。姉さんの分も含めたなら、四日目が正しいのかな。
『今日の秘書艦は四日目っぽい!』
ふふ。四番目と考えたら、夕立姉さんの方が良いんだろうけど。
今日は私の日。駆逐艦・春雨の日が訪れてる。
昨日の内から用意したお菓子と、水筒に淹れた紅茶を持って。私は執務室へと訪れてた。ドキドキとうるさい心臓を気にしつつ、がんばって大っきな声で入室する。
「春雨。入室いたします!」
扉を開けて、部屋へと入った。
出迎えるように司令官が佇んでいる。初めて見た時とは、似ても似つかない柔らかな雰囲気。静かで優しい黒目。どことなく力がある黒髪。
一番印象が変わったのは、今も柔らかに浮かべる微笑。
前見た時は、今にも死にそうな人だったのに。今では活力も感じてる。
大っきな体は大樹みたいで、力強くも優しい佇まいだった。
私個人としては、こういう雰囲気の人は好きだ。司令官としていてくれるのは、素直に嬉しい。
だからこそ、無言で私を見てるのが気になった。なにかしちゃったかな?
「司令官…?」
恐る恐る窺ってみれば、はっとしたように司令官が動き始めた。
怒ってはいなかったみたい。良かった。自覚がない事で怒られたら、余計に傷ついちゃう。はい。
「何でもないんだ。とりあえずお茶にしようか」
そう優しく言って、随分と慣れた様子で動こうとするけど。
はい。実はもう用意してます。どう提案しようかな。
「その、あの」
喜んでくれるのかな? 緊張と不安が言葉を続けさせてくれない。
…臆病者ね。それこそ白露姉さんとかなら、元気いっぱいに言うだろう。
私は、丁寧と言えば聞こえは良いけど。嫌われるのが嫌で、必要以上に固いだけ。
ああもう。不安が出てきて、出せそうにありません。はい。諦めようかな。
「どうした?」
司令官が、大っきな体をしゃがみ込ませて。私の瞳を見つめてくれる。
幼子を安心させるみたい。ゆっくりとした言葉。落ち着いた声色は、浮かぶ不安を解消させる力があって。
彼の大人な心を感じられた。暖かい。はい。姉さん達の言ってた通り。優しくて暖かな人みたいです。
「焦る必要はない。落ち着いて話してくれ」
小さく笑み見せる姿は、私の緊張を解しきるには十分だった。
一回だけ深呼吸して、用意してきた物を差し出しながら。
「…お菓子、作ってきたんですけど」
クッキーと紅茶。話に聞いてたお茶会の品としては、貧相かもしれないけど。
頑張って作って来ました。ほんとに頑張りました。どうかな。駄目かな。