仄かに出来た無言の間。司令官を見れば、どことなく呆けたようにしてる。
虚を突かれた。と言えば大げさだけど。彼の予想してなかった行動なのは、何を言われずとも分かります。とっても気まずいです。はい。
間違えちゃったかな。考えようによっては、司令官のお菓子を食べたくないからみたい。皆の話を聞いてるって、司令官も知ってる筈だよね。
違う。違うけど……そう思わせてしまったなら私が悪いです。
胸の傷むのを無視する。せっかく用意したけどなんて傲慢だ。悪いことをしたら謝らないと。このクッキーは後で適当に食べちゃおう。
「よ、余計ですよね!」
司令官の目が見れない。恥ずかしくて、申し訳なくて消えちゃいそうだ。
変に調子に乗ってしまいました。はい。もっと自重しなければ。
「ごめんなさい」
慌てて頭を下げようとすれば、彼から言葉が返ってきた。
「ありがたくいただきたい」
とっても嬉しそうな笑顔。思わず見惚れる程愛らしい笑み。なんとなくだけど、ちょっとだけ大人っぽい夕立姉さんみたいな笑み。
無邪気の中に優しい雰囲気を。愛らしいのに強い笑顔。
「えっと、その」
上手に言葉が返せない。今更だけど緊張してきました。
これが美味しくなかったら、司令官は悲しむんだ。ちゃんと味見はしたけど、
『っぽい~』
脳内の夕立姉さんもしょんぼりしてる。な、なんで夕立姉さんを想像しちゃうんだろう。現実逃避でしょうか。
ここまで何も考えず。せっかくだからって作ってきちゃった。
どうしよう。今更訂正も出来ない。失礼すぎるよね。
迷う私に優しい微笑みを見せて――騎士がお姫様に跪くような。跪いて胸に手をつき、恭しい声で言葉が紡がれる。
「もし良ければ」
にこりと優しい笑み。どことなくからかいの雰囲気も乗せつつ。私の瞳を真っ直ぐに見つめながら、司令官が真摯に言葉を紡いでくれる。
「君のお菓子をいただく名誉を俺に与えてはくれまいか」
あ、あわわ! 似合いすぎです! きりっとした顔でそういうのは駄目です。はい。
でも良い。こういうの好きです。はい。
「そんな、大げさですよ!」
慌てて言葉を返してみれば、悪戯が成功したような顔で言うんだ。
「嬉しかったんだ。お茶も用意してくれて、本当に気が利く良い子だな」
やっぱり夕立姉さんに似てる。こういう時の笑みがそっくり。
『春雨ってば可愛いっぽい!』
「…えへへ」
色んな想いが重なって、不思議と胸が温かくなりました。はい。
張り切って用意しましょう。司令官に喜んでもらいたいです。