いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

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望みなくです。

 とても嬉しそうに微笑んでくれた。それを見る私も嬉しくなる。

 良かった。素直な心だったけど、失望されないで済んだ。…ああ。こうやって裏を考えてる時点で、私は悪い子なのでしょうけど。

 でも、本当に喜んでくれて良かった。

 

「だがしかし。それは俺が気をつけねばならん事」

 こほんと一つ咳払い。改めて、司令官が聞いてくれる。

「春雨自身の望みはないか?」

 

 私の望み。平和? どうだろう。求めても手に入らないなんて。思っている時点で、とっても寂しい願いですね。はい。

 愛情。姉妹達から受け取っている。友情。仲間達と共に紡いでいる。

 

 恋愛? それは、口に出すのも失礼すぎます。司令官と子を成したいかと言われれば、恐れや緊張で考えられもしません。

『春雨。好きだ』

 

 悲しいですけど。とても空虚な妄想でした。お互いの事を知らないのに、そんな言葉は虚しすぎます。なにかの代用品みたく、司令官を使うのは駄目です。

 考えても何もない。望みすらないのだから、やはり私は。はい。

 

「…正直に言えば、難しいです」

 ようやく出せた言葉は、折角の言葉を拒絶するようなものだった。

 幻滅されただろうか。いや、優しいから。きっとないのだろうけど。

 私は、私自身に幻滅し続けてる。

 

「そうさな。欲しい物でも良い」

 困った様に司令官が笑っている。ああ。気を遣わせてしまっている。

 申し訳ないなあ。適当に望みを出せたなら、それだけで場が収まるのに。本当に何もないんだ。ああ。恥ずかしいなあ。

 

「うさぎの人形とか、何でも良いぞ」

 クッキーの形だとか。考えてくれた優しい言葉に。

「えっと。その、あの…」

 

 望めない心が邪魔をしてる。頷けば良いだけなのに、色々と考えて立ち止まってしまう。

 いらないとは思ってない。絶対、もらえたら愛用する。愛らしい人形と一緒に寝てみたい。でも、でもでも。

 

 嫌になる。望んでしまうのが怖いんだ。

「いや。そうだな。春雨から望むのは難しかろう」

 迷い続ける私に理解を示し、とっても柔らかな声で許してくれた。

 仄かにすら落胆の感情が見えません。どことなく嬉しそうにも見えます。

 

「ごめんなさい」

 正直に言えばありがたかったです。これが村雨姉さんだったら、もっと上手にお話出来たんだろうな。やっぱり申し訳ない。

 

 献身的だとか、丁寧なんて言えば良い風に聞こえるけど。我欲がなさすぎるのも。

「そうだ。今日一日、提督業務をやってみるか?」

 唐突な提案。意図が分からない。ただオウム返しをしてしまう。

「て、提督業務ですか?」


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