「あむっ」
司令官が食べてくれます。なぜだか自然な反応。他に食べた事があるの?
不思議。その姿は微笑ましくて、やっぱり弟みたいです。
「もっと食べます?」
「いただこう」
食べさせ合う時間。緩んだ彼の顔は、生来の優しさと温かさが滲んでいる。
「美味い」
「ふふ。誰かの手で食べると、本当に味が変わりますね」
「…きっと春雨のおかげなのだろう」
誇らしげで嬉しそうな言葉。ふふ。可愛いと思ってしまう。
「ですかね。ありがとうございます」
「こちらこそだな」
本当に弟みたい。頭を撫でればどんな顔をするのかな。
『春雨姉さん』聞いてみたい。うんと甘やかしたい。
不敬。だとかがどうでも良く。こうして触れ合ってると本当の家族みたいで。
男の子の、いや男の人と言うべきなのでしょうけど。男の子の家族は初めてだ。
ああそうだ。今は私が司令官なんだっけ。だから、もっと触れ合って良いんだったよね。はい。ふふ。さすがに頭は撫でないけど。
この時間は、許されてるんだっけ。
食べさせ合い。食べさせ愛なあんて。馬鹿みたいな思考が生まれてる。
恋愛? 家族愛? それとも、性愛なんて。あはは。馬鹿みたいだ。本当に馬鹿みたい。
私なんかが、こんなにも強い人に認められるわけない。
『本日を以て駆逐艦春雨は解体する』
何度も夢に見た言葉。悪夢。無能な私は解体されて、ほんの僅かな資源しか残らない。燃え滓よりも意味がない。何も残せずただ消えるだけ。
嫌だ。やだ。嫌だ! ここにいるよ。駆逐艦・春雨じゃなくて。ただの私が、艦娘の春雨がここにいるのに。
どうして弱いの? どうして最前線で戦えないの? 大切な姉妹達がいるのに、こんなにも脆くて。改にすら至れず。改二なんて夢の又夢。
時雨姉さんと違って、私には確固たる先が見えてない……ずるい。ははは。ああ。最低な気分。
色んな喜びがあったからかな? こうして、軍神とまで謳われた人と、のんびりとした日常を送ってるからかな?
今日は、どろどろと黒い気持ちが出てくる。嫌だなあ。良い子でいたいのに。
必要とされたい。褒められたい。認めてもらいたい。ここにいるんだって叫びたい。
駆逐艦・春雨。武勲こそあっても、艦娘としての在り方は補給の面が強く。
これが白露姉さんなら。
『いっちば~ん!』
笑いながら皆を守れる人だ。私とは違う。丁寧と言えば聞こえは良いけど。ただ臆病に竦んでるだけです。
もちろん、大きな能力差はないんだろうけど。結局、駆逐艦止まりには変わらない。
でも仕方がない。分かってる。分かってるんだけど。
この日常が愛おしすぎて、仄かに狂い始めてる私に気付いてた。