いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

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紅色のお茶です

 気恥ずかしさが言葉を滑らかに。お願いの躊躇いをちょっとだけ消してくれて。

「それなら、その」

 心から滑るように、小さな声で言葉が零れます。

「改めてお茶を淹れてきてほしいです」

 

 私の言葉を聞いて、司令官が恭しく礼を返します。

 まるで執事みたいで、心くすぐるのと同じ位。寂しい気持ちになってしまう。

 違う。そういうのじゃなくて、ふざけ合うみたいに。触れ合いたいだけ。

 

「承りました。紅茶と緑茶、どちらにいたしましょう」

 言葉もそうです。とっても距離を感じます。触れられるほど近いのに、仲良くなれたと思ってるのに。

 

 そういう接し方は、心寂しくて冷たく感じてしまいます。

「紅茶が嬉しいです。それと…」

 ここは譲れない。譲りたくない所。だから、堂々と目を見つめて言います。

「敬語はいやです」

 

 強い言葉なのは分かってるけど、司令官は微笑んで言ってくれます。

「ん。それじゃあ淹れてくるよ」

 柔らかな微笑を見せてから、するりと自然な動きで司令官が出ていきました。

 

 そうして、紅茶を淹れてくれて、戻ってきてくれます。

「どうぞ」「ありがとうございます」

 美しい紅のお茶。紅茶の名前通り。とても綺麗な色合いです。

 

 私の瞳みたい。なんて言うのは、少し自惚れが過ぎるでしょうか。姉妹の皆は、私の目を綺麗だと言ってくれたけど。この紅茶の方がきっと美しい。

 ふわりを香る湯気。花開く素晴らしい香気。澄んだ色合いは素直に心地良い。

 

「わあ! とっても良い香りですね!」

 匂いだけで味が分かる。鮮烈で、それでいて柔らかく響く香り。

 どうすればこんなに良い香りが出せるんだろう? 茶葉の質に変わりはないと思う。淹れ方だって、私なりに学んでる。

 

 でも、司令官が淹れた物の方が遙かに優れてる。う~ん。すごい。

「喜んでもらえたなら何より」

「何か淹れ方にコツでもあるんですか?」

 

 個人的にとっても気になります。私が出来るようになったら、姉妹達や皆にも振る舞える。ふふふ。

「基本をしっかりと守ること。後は慣れだ」

 

「ふむう。職人技ですね」

 積み重ねられた技術の結晶。尊い宝物ですね。…そう出来る生活の中でも、軍神とまで言われるほど強くなって。

 

 才能が違う。運命が違う。そう言い切ってしまえば楽で。今まで私なら、暗い思いは抱えつつも。丁寧さの仮面で隠せたのでしょうけど。

 こうして無邪気に笑う貴方を見てると、どうして、弟とか子供とかのにも見えて。

 

 ぎゅ~っと。胸が締め付けられる想いを感じるのでしょう?

 想いにうながされて、言葉が続きます。

「司令官も飲みませんか?」


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