「しかし、頑張り屋と言えば春雨もそうだろう」
優しくも力強く。司令官は肩を揉んでくれる。固まった緊張がほぐれて、全身の血液が喜んでます。とっても良い気持ちです。
このまま時間が止まってしまえばなんて。ふふふ。そんなレベルの安らぎでした。
「こんなに肩が凝る位頑張って、日々過ごしているのだろう」
強い肯定と仄かな心配が乗せられた言葉。彼らしい、とても優しさに満ちた声でした。胸が温かくなるのと同じ位、心が静かに痛み始めます。
「…そう、ですかね」
私は、司令官に認めてもらえる程の頑張りが出来てるのかな。
まさか強く否定もしないけどね。けど、自分ではよく分からないよ。
「私は皆みたいな、強い意思がないので」
それこそ響ちゃんとかなら、強く凜々しい姿で佇んでる。
私みたいにおろおろとはしてない。丁寧さと優しさを見せつつも、静かに揺れない強い人。きっと彼女は、戦うために必要な心を持ってる。
私とは違う。違うんです。貴方に褒められるような艦娘じゃないの。
「できる限りを、自分に許された狭い範囲を過ごしてるだけです」
とっても小さくて狭い範囲で、日々を過ごしているだけ。
英雄と語られる司令官とも、不死身と謳われた響ちゃんとも違う。
「それが偉いんだ。誰だってそうだよ。許された範囲を過ごしている」
どうして、そこまで褒めてくれるんだろう? 私が弱いからかな。褒められないと、認められないと駄目だって。思われてるのかもしれない。
ああ。弱さが滲んできてる。そんなわけないのにね。しみ込んだ劣等感と、生来の臆病さが合わさってる。…兎は臆病者。逃げ惑うだけの。
なんて。私は兎じゃないけれど。そんなに可愛くないもの。
「だけれども、俺は春雨の頑張りが好きなのさ」
好き。好き。淡い言葉。信じるには、私の弱さが許してくれません。
司令官も分かってるから、語りは力強く止まらない。
「君の姉達から色々と話は聞いている。春雨の活躍を知っているよ」
姉さん達はそうでしょう。いっぱい褒めてくれます。妹だからです。
可愛い妹達も、自惚れでなければ慕ってくれてます。嬉しくて、私も可愛がってます。でもね、それが司令官に認められる理由になるの?
私は弱い。弱いんだ。
「だから、甘えてくれたまえ。姉達だからこそ、遠慮する時もあるだろう」
「…良いんですか?」
弱さを見せて良いのだろうか。この奥底に眠る劣等感を、認めてほしい心を、貴方に見せても良いのかな。
「俺がそうしてほしいんだ」