「お、お仕事頑張ります!」「よろしく頼む」
そうして、夕立のお仕事が始まっていく。
ぎこちなく。体が緊張で固まりきった彼女が、恐る恐る仕事をしていく。
滅茶苦茶失敗しながらな! 緑茶を淹れようとすれば、湯飲みを落としてしまい。書類仕事は字が悲しいレベル。パソコン使いも出来ず。
幸いな事にケガこそなかったが、心はどんどんと軋んでいた。
失敗を重ねるほど、彼女の体は硬くなっていく。怯え竦み。仕事はどんどん間違えて。
もちろん、俺から怒りはしない。これ以上追い詰めたら可哀想で、何も言えない。そうして、俺が代わりにやってしまえば、彼女の自尊心は粉々に砕け散ってしまうだろう。
どうしようもなく八方塞がりだ。これで打ち解けていれば別だが。未だ、彼女は俺へ恐怖を抱いている。
秘書艦としての仕事としては、少し、その。言葉にするのも憚れる結果であった。
まあ、俺は萌えているのだがね。きゅんきゅんきている。やばいね。
涙目萌え、ぎこちなくも一生懸命萌え、ちらりと見えたパンツ萌え。うむうむ。
そんな、馬鹿な考えが消し飛ぶような光景。――夕立が泣いている。
「ごめんなさい…! ごめんなさい!!」
大粒の涙を流して、崩れ落ちたかのような座り方で。大声を上げながら、必死に泣いている。
「や、やく、たたずで…! 戦えなくてごめんなさい!!」
成程。夕立の自己嫌悪は春雨よりも尚酷く。だって、彼女は戦闘に特化している。
逆に言えば、戦えない己への自己否定は最も酷い子だ。
無邪気だからこそ、どこまでも徹底的に己を許せない。
「夕立…」
手を差し出し、頭を撫でようとすれば。
「ひっ!」
当然の様に怯えられた。ははは。そうだな。幾ら姉達から話を聞いていても。
いや、話を聞いて。親愛なる姉妹達が懐いているからこそ、自分だけが嫌われたらなんて。怖かっただろう。そうだろうさ。
涙を流し、傷つき落ち込む彼女へ。俺が、ここまで戦い抜いた俺だからこそ。
語れる言葉がある。示せる道がある。軍神として振る舞えるんだ。
手が、これから提案する事へ震え始めた。恐怖と緊張。ゲロ吐きそうな位怖くて、嫌で、もう二度とやりたくなかったけど。イベントでもないのに。慰めるだけでも。
勇気を出そう。他の者達に癒やされて、いちゃついて。とても幸せだったろう。
俺なりに、彼女たちに返したい。夕立にもそうだ。無邪気に笑ってほしい。シリアスはいちゃつきへのスパイスなんてね。
ようし。ジョークが脳みそに出る程度は、俺も何とかなりそうだ。
「大丈夫。大丈夫だ。…俺と共に戦おう。出撃準備を」
俺は、再び戦闘指揮を執る覚悟を決めていた。