「帰ったら美味しい焼き魚でも食べよう」
『楽しみっぽい!』
ニコニコ笑顔が見えるようだ。こうして指揮を執った甲斐もあろう。やはり、繋がっていると違うぜ。…繋がっているって何かエロいよね!
落ち着くのだ。ふふ。俺も大分余裕が戻ってきた。よしよし。
「ようし。近海の哨戒任務を始めようか」
『よろしくお願いします!』
そうして、のんびりと決められた海路を進んでいく。
戦闘がないと良い景色なのだがね。彼女に搭載された電探が、本人より早く俺へと情報を伝達する。即ち敵の発見。このまま進み続ければ、開戦は避けられない。
「前方に敵発見、数は二。艦種は駆逐艦か」
彼女へすぐに情報を伝える。身が強張る感覚。これが初陣ではない。遠征や演習で戦ってはいる。だが、今回は初出撃。俺と繋がっての戦いだ。
緊張は分かる。そも、単騎で出撃する事なんてなく。自らが負傷すれば、提督へとストレスを与える状況。
そうして、駆逐艦の脆さが彼女の緊張を深めている。自分が沈めば、どうなるかを知っているんだ。優しい子。さてはて。
「夕立。水平線をごらん」
『ぽい?』
「敵に目を向けると固まってしまう。それよりもだ」
のんびり心地は維持しつつ、俺の方は集中力を高めていく。
「楽しい事を考えよう」
意識が埋没していく。艦娘を操作するコントローラーを、纏う透明な力に、己が意識が融け込んでいく。
細部まで広がる意思の力。夕立の中心から末端まで、邪魔なく補助する力への融解。
俺が消えていく心を意識しながらも、会話は止めない。
「間宮のアイスでも構わない。伊良湖のモナカも美味いよな」
『甘くて幸せっぽい!』
「羊羹も捨てがたい。いや、どら焼きなんてどうだ?」
次々と伝えていく言葉。夕立の緊張が解けていく実感があった。
『よ、よだれが出てきちゃう~』
楽しそうな声。見えないのだけれど、幸せそうな表情をしているんだろうな。
そんな愛らしい子を、戦場にぶち込むのが俺の仕事だ。ははは。うん…せめて俺の全力を尽そう。
「ふふふ。楽しいよな。面白いよな…だから、怖いんだ」
失いたくない。生が楽しいからこそ、死を何よりも恐れている。
自分が傷つけば仲間も悲しむ。今の状況ならば、俺へとダメージが伝わる。
優しく無邪気な彼女が、どれ程恐れているかなんて。考えるまでもなく。
「良いかい夕立。怖いから笑うんだ」
ガッチガチに固まった体を、強制的に緩ませる行動。
恐えよ。俺の指揮一つで皆が死ぬ。もっと頑張っていたらとか。恐え。恐えよ。
「ぶるっちまう程の恐怖があって、そいつは裏に喜びがあるから生まれる恐怖で」
楽しい日々があるんだ。俺は世界の広がりを知っている。平和な艦これを知っている。
「今君は、それと戦う場所に立っている」
たった一人で戦場にいる。他の仲間達は今回いない。彼女の自信と、戦闘への強張りを解くための戦いだ。
「笑ってみると更に気付くよ」
緩んだ心に浮かぶ想いは一つ。
「――死にたくない。生きたい。もっと楽しい明日が待っているんだ」
『ん。…怖い。怖いの』
ぽつりと零れた言葉。戦いへの恐怖? まさか。それだけじゃない。
戦えない現状への恐怖。もっと強くなりたい。日常を愛するから。
「此処で終わって堪るか。俺は、俺は願い続けた日常を生きていたい…!」
『此処で終わりたくないに決まってる! 夕立だって、戦えるんだって叫びたい!!』
お互いの言葉が呼応する。彼女と魂が共鳴する。意図的に、ああ随分と俺も成長したもんだ。そうして、その成長を発揮させてくれる夕立がいてくれる。
熱い。夕立から熱意が伝わってる――駆逐艦だからって、戦場を諦めたくない!!
「腹の底から熱が出てきて、恐怖が四肢に伝わって」
『お腹が熱いっぽい…!』
「ひひ。そうして脳髄が、どこまでも冴え渡るように」
段々とギアが上がってきた。いいぞ。戦いの予感が魂を起こしてくれる。
「さあ笑おう。笑って、挑もうじゃないか」
「はは」『ふふ、あは』
「『はっはっは!!』」
俺達の笑いがぴたりと止まって。既に敵影は眼前に捉えている。故に問おう。
「共に戦ってくれるか?」『任せて!』
元気いっぱいな彼女の返事を受け止めて、いよいよ戦闘が開始された。