さて。改めて対峙する敵の姿を目に収めた。
『敵発見しました!』「…やはり駆逐か」
魚雷を模した様なフォルムの、漆黒の駆逐艦。人型ではなく。まだ未発達とも見える異様な肉体だ。
禍々しい歯が生えそろった口を開き、怪しく光る両目は丸く。ライトのようにぼんやりと光を発している。纏う瘴気もまだ弱くて。
それでも、易々と人を殺せる化外の存在。口から砲弾と魚雷を放つ化物だ。
深海棲艦の内で最弱の敵――駆逐イ級が二体現れた。
良かった。勘は鈍っていないらしいぜ。予想通りの敵艦隊だった。
これで戦艦とかが出てきてたら、全速力で逃げざるを得なかったからな。
ありえないとは言えねえ。実際、響だけでもっと絶望的な状況も経験している。
「いけるな」『いつでも!!』
さあて、始めるとしましょうか。
敵艦隊見ゆってか! ははは!! 語る文字もなければ何もなく。無慈悲で無秩序な戦場に、ようやく戻ってきたぜ。
駆逐イ級が二体とも、夕立へ砲撃を開始した。…甘え。その程度で俺達を沈めるつもりか? 舐めるな。
敵の射線が見える。砲撃するタイミングが分かる。それ即ち、絶対に命中しない事実。
『安全な所が見える! こっちに避ければ良いっぽい!!』
砲弾が嘘のように外れていく。当然だ。幾度となく戦い続けた俺の魂は、敵艦の心さえ読んでいる。
殺気が漏れてんだよ、ど三流共が。調子に乗ってんじゃ……おっと。
どうにも夕立の魂に引っ張られていた。響への指揮とは真逆の感覚だ。
響が完全なる精密機械の動きなら、彼女は獣の如く。爆発的な熱量でぶれ動く。
規則性のない暴れ馬。縦横無尽に敵へ突進する。良いね。見ていて面白い。
練度差で今は響が出力勝ちしているが、これから成長していけば、もっと面白い事になりそうだ。
あえて、操作で型に嵌めない。彼女の動きをフォローするように、世界への認知を広げるイメージだ。
夕立に世界を見せろ。経験を補助し続けろ。理想の結果を導き出せ。型に嵌めるな。
自然な動きを理想に当て嵌めろ。それが夕立をもっと輝かせる。
『今度はこっちの番かしら?』
にやりと笑う彼女が見えた。良いぞ。恐怖が闘志を燃やしている。素晴らしい。
『そっちは行き止まり! 逃げ場はないっぽい!』
敵の動線が見える。移動するタイミングが分かる。それ即ち、絶対に命中させる事実。敵に向かって砲撃するんじゃない。その一歩先へ。砲弾を置いておく!
『当たって!!』
祈りを込めた砲撃は笑っちまう程呆気なく。一体に命中。轟沈。撃破完了。
『やった!』
「よくやった!」
『提督さんのおかげっぽい!』
「訓練の成果さ」
そう。今回の俺はサポートしているだけ。補助しかしていない。
普段から練習していたのだろう。理想の動きへ素早く適合して、無駄のない戦闘を展開している。
演習と遠征の積み重ねが、夕立を成長させていたんだ。
「残りは一体だ。油断や慢心もなく。殲滅するぞ!」『ぽい!』