先程とは桁違いの速力で、敵艦隊へ接近。標的を発見した。そのまま殲滅し蹂躙出来れば良いがね。
そこまで世界は優しくないし、易しい状況でもない。
『提督!』
透き通る凜々しい強き声。分かっているんだな。良いぜ。
六対一の地獄。二対一より三倍厳しいかと問われれば――その程度で収まらないと答えよう。
「楽しもうか!!」『ぽい!!』
密度激しい砲弾の嵐。隙間なく。凄まじいレベルの砲撃が、夕立へ襲いかかる。
魂の共鳴が理外の読みを構築して、全弾の着弾点を読み切っている。
砲弾の動きがラインで繋がっているイメージ。発射前に、既に回避が終了している。
舞い踊る天女の如き。躍動と無駄なき動きの芸術。頬を掠める砲弾に動じず。紙一重に近き回避を実行していく。
堪らない緊張感で脳みそがぶっ飛びそうだ。心臓がうるせえ。ギリギリの綱渡りで避け続けている。
『見える……けど!!』
どう考えても全ての回避は不可能だ。夕立改二の性能は、回避に特化していない。
笑っちまう程の殲滅特化型。荒れ狂う暴走機関車の様に。出力の波があり。安定しない強みがある。
「安心しろ。俺が支えてみせる!!」
ならば、その隙を埋めるのが俺の仕事だろう。――集中しろ。
纏う装甲の力を認識。ゲーム内にて、駆逐艦が被弾しても小破で済んだのを参考にした技術。
『力が動くっぽい!?』
命中する部位に力を集中して、駆逐の装甲で尚も壊されぬ防御術。
読みを間違えれば、悲惨な結果に終わる技。気が遠くなる程の訓練を終えて、俺が掴んだ技術の欠片。駆使するは不断の覚悟によって。
『きゃっ!』
それでも衝撃はあるが、今度は夕立の強みを活かす時だ。
『でも、まだ戦えるっぽい!!』
当たる瞬間、覚悟を決めて。衝撃をくらいながらも攻撃へ転じる凶暴性。
俺は無論理解しているが、彼女も本能が悟らせているのだろう。
六対一と、五対一は全然違う。子供でも分かる算数の話。
『今度はこっちの番!!』
攻撃に転じた彼女。砲撃に迷いなく。一切の躊躇も見せず発射。
軽巡洋艦の一体に命中。鈍く、腹に響く衝撃音が響いて。うめき声すら許さず轟沈。
まさしく駆逐のレベルを超えた砲撃で、あっさりと一体仕留めた。
『まだ手番は終わってないっぽい!』
続く魚雷は言葉通りに、雷の如き速度で泳ぐ魚の如く。凄まじい爆音が炸裂して、軽巡をもう一体仕留めた。
「二体撃破。良くやった」
『頑張ったっぽい!』
これで軽巡を全て仕留めきった。なんて、なんて凄まじい火力だろう。
溢れ出る力を感じる。これぞまさしく改二の力。敵戦艦すら容易にぶち抜く。理不尽な破壊力を、夕立改二は宿している。
その代わりに脆い。意識を集中して受けなければ、敵駆逐の一撃で大破してしまう脆さ。
提督泣かせの駆逐艦だ。まったく、これだから艦娘は大好きなのだ。
俺も頑張れば応えてくれる。これ程のやりがいは早々ない。
「さあ、俺を信じてくれ。俺も君を信じている!」
『任せて。素敵なパーティーにしましょ!』
残るは駆逐艦が四体だけ。その程度で、今の俺達を止められると思うなよ!