「敵の増援っぽい」
安全の確立された海域で、不可思議な艦隊と遭遇している。
「うむ」
問題が出てきた以上、探らないわけにもいかない。
とはいえ、水雷戦隊だけで関わるのは怖いし。どうしたものだろうか。勝の奴に連絡を取るべきかね。
…それもなあ。アイツの方が遙かに負担も大きいだろう。困ったもんだ。そろそろ、覚悟を決めるべきだろうか。
「難しい顔をしてるっぽい」
「そうでもないさ。ただ臆病なだけだ」
考え込んでも仕方ない。でもさ、絶対にアレだよね。俺の物語に題名をつけるなら、艦これカッコガチだよね。
いちゃいちゃ大好き提督日常とか駄目? 駄目だよね。知ってる。うん。
ま、まあ良いや。今はいちゃつけてるもの。こうして夕立とじゃれ合えている。それだけで十二分。
俺の運命が過激すぎるのは、この艦これ世界がちょっと過激すぎるのは、ようく知っているぜ。
抗う力程度はある。その可能性は、艦娘が宿しているんだ。信じている。ソレしか出来ない俺の、精一杯の頑張りであった。
「努力あるのみ。結局、そこに行き着くのが結論だ」
「ふふふ。良い言葉っぽい」
嬉しそうに微笑む彼女と違って、俺はあまりこの言葉を好きではない。
「だな」
虚しいほどに正しい言葉だから、負けた時は結局ソレしか残ってなくて。
でも、死んだ者達の努力が劣っていたとは言いたくない。感情の限界、などと格好つけてみたり。
俺の表情を見て、とても優しい微笑で夕立は語る。
「…今日勝てたからね」
「うん?」
「夕立は提督を信じてる。提督も夕立を信じてくれたから」
真っ直ぐな瞳で夕立が見つめてくる。薄らと紅色が見えて、夕立改二の雰囲気を示しながら、とても強く凜々しい瞳。
目を離せない。戦う者として生まれた夕立の、強く優しい言葉があるんだ。
「もっと、もっと強くなれるよ」
優しく心強い宣言だった。俺と共に強くなってくれると、君も言ってくれるのか。
だから艦娘が好きなんだ。艦これが好きなんだ。俺もどこまでだって頑張れる。
「ん。ありがとな」
「ふふふ。ハンモックを張ってでも戦うっぽい!」
馬乗り状態から、ぎゅ~っと抱きついてきた。
そうして、楽しそうに俺の頭をわしゃわしゃとし始める。撫でると言うには手つきが乱暴で、彼女らしいじゃれつき方だ。
応えて俺は夕立の髪を優しく梳きながら、楽しい思いを言葉に変えるんだ。
「ならば、そのハンモックを最高級品にしようじゃないか!」
素直に帆を買い換えろという話である。冗談のやり取りであった。
「夏になったらキャンプも良いっぽい。皆でお祭り騒ぎにするっぽい」
夏祭りも良いねえ。浴衣に花火のロマンは素敵だ。もちろんノーパンな!
「他鎮守府との交流も良いかもな」
最前線は相変わらずだが、ここからの支援物資で、大分安定してきたとは聞いている。
もう数ヶ月もすれば、もっと状況は良くなるだろう。
なにせ俺より遙かに強い提督がいるのだ。
「交流戦もやってみたいっぽい」
抱きつきを止めて上体を起こし、格好良い笑みを見せて言ってくれる。
「駆逐艦と軽巡洋艦の力を、見せつけたいっぽい」
胸を張って仲間だと言いたいから、強くなった己を示したいんだ。
「ようし。楽しみだな」「楽しみっぽい!」
じゃれ合い笑いながらも決意は新たに。今日が進んでいった。