考え込みです
何にも考えないで、ただ戦って生きていられたらと。思う私がいる。
それはあまりにも傲慢な願い。提督さんに負担をかける艦娘、それも駆逐艦が。口にするのもおこがましい願い。
「ん。朝っぽい」
朝日が差し込む自室。時雨と白露は眠ってるっぽい。村雨はお散歩かな。
平穏な日常にいると、泣きたくなるような違和感を覚えた。口から出る言葉とは裏腹に。私は、ちょっとだけ考え込む性格だった。
「…ただの妄想っぽい」
ぽつりと口癖が零れた。まだ眠気が残っているのかしら。ぼんやりと微睡む心とは裏腹に、今日を迎える緊張がある。ぐっと体を伸ばした。ベッドの軋む音。
提督さんとの一日。秘書艦を、私が努める一日。
「嫌われるっぽい」
言葉にすると不安でどうしようもなくて。皆みたいに、戦い以外でも頼れる私じゃないから。言葉も揺れて曖昧で。っぽいと付け足さないと、不安になる私だけど。
今日一日だけ。一日だけは、がんばって過ごしたい。
皆を起こさないようにベッドから出て、手早く朝の支度を終える。
「ん。がんばりましょう」
そうして、執務室へと向かってく。
執務室の扉を前にして、うるさい程に心臓が鳴っていた。
緊張してる。わざわざ考えるまでもなく。とっても緊張している。
…他の皆から、提督さんのお話はいっぱい聞いた。優しい人だと思う。でも、夕立は艦娘なんだ。戦うことでしか貢献出来ない。いや、戦いこそがと言い換えたい。
でも今は戦えない。駆逐艦は脆いから、戦えない。なら私はどうしてここにいるのかしら。ふふふ。頭が重たい。楽しいだけで良いのに。
私らしくない。けど、どうしても考えちゃう。ず~っともやもやしてる。
「夕立、入室します!」
せめて元気良くと執務室に入れば、提督さんが迎えてくれた。
「今日はよろしく頼む」
短く整えられた黒髪。同色の瞳。力強く凜々しい眼光。顔立ちも整っている。厳しく固まっていた表情は柔らかく。とても優しい微笑みが見えた。
初めて会った時より随分と暖かく。人間味のある雰囲気だった。
「よ、よろしくお願いしますっぽ……」「ぽ?」
思わず零れかけた口癖。だめ。恥ずかしい。ど、どうしよう。
「ぽ、ぽ、ぽ」
言葉が出てこない。小首を傾げて提督さんも待ってた。えっと。えっと。
「ポメラニアンは可愛いですね!!」
空気が冷ややかになっていく感覚。提督さんも困った様に笑って。
「そうだな」
静かに言葉を返してくれた。
自分の顔が真っ赤に染まってくのを実感しながら、今日の一日が始まってく。