「お、お仕事頑張ります!」
何はともあれ初めての秘書艦業務。全然、自信は出てこないけど。せいいっぱいの頑張りを見せたい。…全然、自身を出せなくたって。ぎゅっと胸の奥が痛んだ。こんな私で良いのかな。
不安が頭を埋めようとして、段々と痛みも酷くなってる。
「よろしく頼む」
真っ直ぐ優しい声で言ってくれる人が、見守っていてくれるから。
怖くたって、緊張してたって。なんとか頑張れるんだって言いたいのに。
お茶をいれようとすれば。
「あっ」
手を滑らせて湯飲みを割ってしまった。よく使い込まれた高そうな湯飲み。思い出とか、お金に代えられない大切な物。それを私が割ってしまったんだ。
視界が狭くなってく。割れた湯飲みの破片が、視界の全部になってく。失敗した。…やっぱり私は。
「大丈夫か!?」
「は、はひ、あの、その」
身が竦むほど、真剣に心配してくれている。艦娘がこの程度で傷つくはずないのに、提督さんは真面目に心配してるんだ。
ぎゅっと胸が痛んだ。最初の痛みと、他にもなにかが乗った痛みだった。
美味く言葉が出てこない。違うよ。私、この程度の破片じゃ傷つかないから。提督さんの痛みを、ぶつけてほしいよ。私、艦娘だから。
そう言いたいのに言えない。当然っぽい。…本当に? 自分でもくすぶる心があるんだ。
「ん。大丈夫だよ。後は俺が片付けておこう」
泣きたくなる位に優しい微笑みで、それでも、とても愛おしそうに破片を集めてく。
やっぱり思い出があったんだ。最前線の思い出? 絶対に大切だった物。なのにどうして、私を心配するの。
次。そうだ。次があるんだ。頑張ろう。頑張るから。夕立を信じ……思うことすらおこがましいっぽい。
「これは、えっと」
書類仕事。ぱそこん? を使って打ち込んでいくっぽい。よく分かんない。いっつも書類は手書きで作ってる。でも頑張りたい。頑張る。
「報告書に書かれた数字を、この項目に入力していくんだ」
「こ、こうですか?」
おっかなびっくり。キーボードを人差し指で押してくっぽい。キーボード。うん。覚えた。
「ふふ。こちらの項目だ」
でも、間違えてた。やっぱり駄目で、夕立は使えなくて。
「ごめんなさい…! ごめんなさい!!」
何度も色んな仕事を失敗して、そのたびに提督さんが片付けてくれたんだ。
ぎゅって、心が締め付けられる。視界が潤んで全然見えないや。夕立は出来ない。
頭よくない。あんまり考えるの得意じゃない。戦い、戦うのは出来たのに。
出来るけど脆いから、欠陥品の使えない兵隊だから。みんなと違って、夕立には他に何もないから。
「や、やく、たたずで…! 戦えなくてごめんなさい!!」
ただ泣きじゃくるばかりで、なんて情けない姿。惨めっぽい。ソロモンに残した名前とは裏腹に、ちっぽけでどうしようもない夕立だけが残ってる。
こんななら、艦娘として生まれてこない方が良かったのかな。
「夕立…」
提督さんがそれでも頭を撫でようとしてくれた。――やだ。
「ひっ!」
怖い。怖いよ。なんにもない夕立に、それでも良いってなるのが一番怖いっぽい。…戦いたい。ああだめ。
それでも、提督さんは提督さんだから。真っ直ぐに。
「大丈夫。大丈夫だ。…俺と共に戦おう。出撃準備を」