提督さんの指示を受けて、私は海に立ってる。
艦装の力。海を滑る感覚。特殊なローラースケートを履いた気分。
海に立って艦娘としてある時は、不思議と感覚が変わってる。
こうして海面に立つと、強く実感するっぽい。――私達は人間じゃない。
やっぱり艦娘は戦う者っぽい。私だけかもしれないけど、こうして海に立ってると血が沸き立つ。はやくはやくって、心の底が動いてるっぽい。
だけど、今日は大きく違ってて。…提督さんとの繋がりを感じてる。
緊張で視界が狭まってるのは自覚してた。心臓がうるさい。熱い。頭が熱くなってる。自分の息もうるさい。何もしてないのに、息が切れ始めてた。
怖い。怖いよ。
自分の被弾は怖くない。痛みだって怖くはない。
戦えるならソレで良いっぽい。負傷なんてどうでも良いの。心配してくれる皆には悪いけど、私はいつ沈んだって構わない。
多くの敵を沈めて落ちるなら、いつ落ちたって構わない。
でも、私の負担は提督さんにもかかっちゃう。
魂がつながってるっぽい。痛みが伝わるのは分かる。緊張も伝わってるっぽい。
私が轟沈すれば、とんでもない負担になるの。皆からあれだけ愛されて、信頼されて。重要な鎮守府を任せられるほどの提督さんが、私のせいで傷ついてしまう。
駆逐艦は酷く脆い。敵の砲撃を受ければ、簡単に大破してしまう。魚雷の破壊力と、消費の少なさこそ利点だけど。欠点が大きすぎるっぽい。
大破した駆逐艦を庇って、戦艦や空母も負傷してしまう。そうして積み重なれば、戦艦だって危ないっぽい。資源だって無限じゃない。いつか底をつく。
だから、駆逐艦は運用されない。平和な海域に配備されてしまう。今までは平和な海域はなかったけど、ようやく得られたここで活躍してる。
もちろん、この鎮守府で練度を上げれば話は変わるっぽい。
…その為に、提督さんに酷く負担をかけてしまう。今もそう。私が泣いてしまったから、提督さんに無理をさせてるんだ。
いっそのこと、怒られた方が良かったっぽい。
嫌いだって。もう要らないって言われた方が…そんなの嘘。嘘っぽい。
だってそうでしょう。白露達の笑顔を見て、そうだ。なにより、あの時雨の笑顔を見て、思ったっぽい。
ほめてほしい。認めてほしい。信じてほしい。
夕立だってすごいっぽい。皆だけじゃないよ。夕立だってここにいるんだよって。
言いたかったけど、駄目だった。海でも駄目なのかな。魂、夕立っていう艦娘の全部が、ぎゅ~って狭まってるっぽい。