「…ごめん。提督さん」
『勝ちてえ、よな?』
全て伝える前に、感情だけが熱く届いてくれたっぽい。
勝ちたい。そう。そうね。夕立は勝ちたいの。逃げたくない。逃げたくないの。
「ふふ。つーかーの仲っぽい!」
とっても嬉しい。繋がってる実感が出るっぽい。ああ。やっぱり勝ちたい。
『そりゃあそうだ。せっかく得られた勝利の輝き、潰されたら堪んねえっての』
「魂が叫んでるの。強くなれる、勝ちたいって。先に進みたいって!!」
ようやく掴んだ勝利。ここで逃げたら同じ事。逃げたくない。
いつか逃げる時は来る。最後に勝てばそれでいい。また来れば良い。
間違いじゃないっぽい。でも! 逃げちゃ駄目な時もあるっぽい。
「我儘なのは分かってる。もし私が沈んだら、貴方に負担がかかるのも分かるの」
…言葉にしないけど、繋がってるから本当に分かるっぽい。
提督さんは戦いを恐れている。一方的な殲滅だけを求めてる。その為に、戦力を充実させてるの。本当は戦い何てしたくない。
本当に強い人。だから、お願いします。そんな貴方と戦う名誉をください。
「それでも! …それでも私は艦娘だから。戦う為に生まれてきたから!」
怖がらないで、夕立を信じて。いつか示した決戦のように、確信すら超えた無限の可能性を示すよ。
「戦えるのに、まだやれるのに!!」
手足は動く。疲れも残ってない。燃料も弾薬もあるんだ。逃げたくない。
「ただ危ないからって、逃げるのなんてもうやだよ!!」
全部伝えきった。通信は沈黙している。提督さんの心の動きが伝わってる。
それでもまだ提督さんは怯えてる。表面には出してないけど、心底から怯えてる。
そう、だよね。私を信頼するのは難しいっぽい。まだ組んで初日。まだまだ響には及ばないっぽい。わかってる。
『なあ、夕立』
「っ!」
ああでも聞きたくないなあ。戦えって言ってほしい。どこまでもいけるよ。
『馬鹿共に教えてやろうぜ』
あ、うそ。本当に? えへ、えへへ。良いんだ。怖いくせに。勇気を出してくれるんだ。
『お前達がケンカを売ったのが、どれ程の相手なのかをよ』
提督さんの啖呵に心が躍った。魂の震えを感じる。熱い。心臓がうるさい。
自分の怯えに気付いてないんでしょう? 戦い続けたせいなのかな。提督さん、とっても心が萎縮してるっぽい。
経験と練度で何とかしてるだけで、提督さんの心は軋んでる。
なのに、言ってくれるんだ。提督さんが言ってくれたんだ。
戦えって、私と共に戦ってくれるって。――全部。っぽい。全部を見せる。私の性能全部で、もっと底からかきあつめて。
応えて私の全て。夕立の全て。可能性を見せて。魅せるんだ。
信頼してくれた貴方に報いたい。魂の果てを肯定するように変化。艦装が変わっていく。魂の総量が急激に増えていく。
脳内が澄み渡ってる。海の流れ全てが見えるよう。出力が増大。
視界が紅に染まった。首にはマフラーが巻かれている。びりびりと、脳の奥底の本能が疼いてる。気持ち良い。提督さんと繋がってて、とっても気持ち良い。
提督さんの経験を喰らっているっぽい。魂と、軍神とまで謳われた…弱さすら許してもらえなかった人の、熱い技術の結晶が融け合ってる。
「…にひひ♪ それなら」
『ああ』
今なら言えるよ。自信をもって言える。胸を張って堂々と。貴方と声を合わせて。
『「ソロモンの悪夢」』
「見せてあげる!!」『見せてやろうぜ!!』