「司令官?」
再び響の促すまなざし。ああ、そうだ。約束は食べさせ合いだ。
分かっている。分かっているぞ。
だけど響さん。ちょっと躊躇いがなさすぎませんかね。容赦してくれ。
気心は互いに知っている。一番気易い仲ではある。でも恥ずかしいのだぞ。
彼女の小さな口に合うよう、小さめのから揚げを箸で持ち上げて。
「あーん」
響へと差し出した。迷いも見せず。照れすら感じない静かな表情で。
「ん」
彼女が食べた。もにょもにょと愛らしい。なんか良い。
こうしてみると餌付けみたいで、不思議な楽しさがある。
うん。思っていたよりは恥ずかしくない。逆に落ち着く。嘘だけどな!!
俺の秘書艦が可愛すぎる件について。と掲示板に投稿しなければ。ラノベ大賞でも良い。ふっふっふ。嫉妬の声が聞こえるようだ。わっはっは。
「提督」
川内からの声。現実逃避から戻って彼女を見れば。
「あ、あ~ん…!」
一口大にほぐした切り身を、箸で俺に差し出していた。
顔は真っ赤。表情こそ凜々しくなってるけど、手が若干震えている。可愛い。
成程。これは夢か。だって展開がわけわからない。何があった。
これが転生者の運命力だとでも言うのか。と、初めて思った時はもっとシリアスだったんだが。響が妙に誇らしげな顔をしている。なぜだ。わけが分からん。
い、いや。良いんだ。むしろシリアスじゃない方が良い。滅茶苦茶嬉しい。
良いだろう。これが俺の運命だと語るならば、受け入れよう。いざ!
「はむ」さらりととけ込む様な食感。
魚の旨味。仄かな塩味が魚の甘みを引き立てて、香り良く心を満たしてくれる。
おろし醤油のかかっていない味。焼き魚本来の風味が良いね。
合わされば、随分とさっぱりしたうまさになりそうだ。
これぞ和食の定番と言えよう。好き嫌いは少ないのだが、これは好きと断言出来る。
…まあ、少し脳が狂ってるので、苦痛を感じづらくなっているだけだけど。っと。
なんで微妙に暗くなりたがる。響と二人じゃなくて、川内もいるから? 戦場の意識が僅かに出ている。
いかんなあ。いかんぞ。まだ毒気が抜けてないわけだな。
この胸のときめきに任せて、もう少しバカをやりたいのだが。その、なんだ。
物欲しげに待つ川内を前にして、割と現実逃避をしていた。えっとこれはアレだな。待っているな。何をとは無粋すぎる。
仄かに開けられた口。なんかエロい。落ち着け。欲しいのは俺のおれではなく。
からあげだ。状況がおかしくて面白い。大安吉日である。意味不明だ。