上体を起こし、それでも立ち上がらず。五月雨はぺたりと座り込んでいる。
疲れきっているようだ。今にも泣き出しそうなのに、困ったような微笑みを浮かべていた。
「…私、いっつもこうなんです」
ぽつりと零れた想いは止まらず。泣き出しそうな激しさを伴って。
「気をつけてるのに、ずっと気をつけてるのに!」
そうだろう。ここが甘い日常だけの世界ならば、彼女の個性は緩く流された。戦場だ。どうしようもなく戦場なんだ。
時期も悪かったかもしれない。今の俺が張り詰めているのは、自覚している。
「なにもない所で転んで、確かに入れた筈の荷物とかもなくて」
よくあるドジだ。しかしそれが、真剣に準備した上での結果だったら?
涙目が深くなっている。零れ落ちそうな涙を拭って、彼女は笑いながら俺に言ってくれる。
「…神様に嫌われてるのかな、なんて」
理不尽なナニカを思ってしまうのは、当然と言える。それでも明るく笑える五月雨が好きだ。
「えへへ。ごめんなさい。弱音を吐くなんて「――分かるよ」
だから俺も弱さを隠さないで語ろう。涙を流す少女を前にして、格好つけてつき離すつもりもない。
「えっ?」
「神様ってさ、すんごい意地悪な野郎なんだ」
眼に見えねえくせに心に巣くって、どうしようもない絶望ばかり与えてくる。
「糞みてえに難題を押しつけてきやがる癖に、でも責めることすら出来やしねえ」
「見えないからですか?」
「ああ」
形がない。概念でしかない。己の心の中にしかない。神はいる、じゃなくて在るのだと語った宗教家もいたか。成程。その通りかもしれない。
「それを認めたら負けになる。俺を、頼り愛してくれる者達への裏切りになる」
重荷を預ける者を責めはしない。そうして預けて出来た余裕で、他者に優しく出来るなら良い事なのだろう。物語としても、宗教の在り方はスパイスになる。
ただ、俺は許せない。そんな逃げは許せない。
俺は俺が全部味わいたいんだ。美しい者達との、この胸をときめかせる切ない感情を、萌えと燃えを味わっていたいんだ。
「全力でやったからだ。真剣に向き合って生きているからだ」
五月雨の頑張りを、俺は彼女自身にすら否定させない。
他の姉妹達だって五月雨の懸命な努力を知っていた。転んでも、立ち上がり歩み続ける彼女の強さと優しさを語っていた。
まあ、俺はスケベだけどさ。パンツ最高! って感じだけど。
それもひっくるめて五月雨だろうよ。
「神様のせいだなんて言ってみろ。俺を、俺達を愛してくれる者の心すら」
絶対者を肯定してしまえば、あらゆる物事をしょうがないと言わざるを得ない。それも一つの生き方だと知ってはいる。だが俺は愚か者なんだ。
全部ほしい。俺がほしい。それだけだ。
「神様のおかげになってしまう」
奮起する為の言葉として世界は意識するさ。転生者だから、俺は作者を常に意識して生きていた。
でも駄目だ。響の慟哭を覚えている。阿武隈の抱擁に許されている。龍驤のデカさに救われている。北上の強がりを知っている。那智の涙を拭っている。長門の弱さを認めている。
ほら、これまで歩んできた道の全てが、俺が、胸を張る事実を刻んでいる。