「あーん」
彼女は響よりも大きく口を開ける。川内らしい愛らしさ。迷わずから揚げを与えた。
もぎゅもぎゅと、美味しそうに食べてくれている。
なんだコレは。萌え。としか言いようのない。
良い。良いぞ。エロスだけではない。こういう切なさを俺は求めていた。
これこそ俺が捨て去った胸キュン。心臓が止まるの意味が正反対だ。
此処こそヴァルハラである。
恍惚の感情。なんかもう良い。これで良かったんだ。
ほんわかとした気持ちに包まれて、どうしたものかと思っていたら。
「司令官」
響が声をかけてきた。どうしたのだろう。彼女を見れば。
「む?」
彼女が身を乗り出して、頭を差し出している。いつの間にか帽子は取っていた。
それ自体は、食事の時は帽子を取るのを知っている。というかまあ、気が緩んでいる時は、彼女は艦装を緩めたがる。
それは良い。愛らしさがアップだ。最高である。それはそれとして。
ちょうど俺の手が届く距離。何より気心の知れた仲だ。彼女が望む行為を俺は分かる。
つまりこれは、頭を撫でろと言っている…!!
何で!? などとは言わない。言えない。彼女は当然の様に佇んでいる。
異様な緊張感が広がった。響の隣を見れば、川内がごくりと唾を呑んでいた。
成程。これは俺の幻覚じゃないらしい。現実を認めよう。
響の目を見る。湖面の如き凪いだ瞳。感情が読めない。表情も落ち着いている。
いや。急かしているのは分かる。ここで変に拒めば失望と共に。
『司令官は私を裏切るのかい?』
などと言うだろう。少し話は変わるけど、ハイライトのない瞳って綺麗だよね。
無論、わざと傷つけるつもりはない。ないのだがね。
響みたいなクール系の女の子が、眼の光をなくすと病んだ魅力があるよね。
まあ、そんなのは最前線で何度も見たが。何だったら訓練生時代に何度も見たが。
はっはっは! ――現実逃避は終了しよう。そろそろ響が怒る。
分かった。分かったよ相棒。これまで共に戦ってきた仲だ。彼女が俺の死を望むならば、それに応える。彼女に、かつての仲間達に何度も救われた。
今度は俺の番だろう?
こうまで考え込んでいるのは、響に失礼だと分かっているんだ。
でも、でもさ。響めっちゃ可愛いんだもん!! 触れるの怖いじゃん!!
分かってはいる。分かっているんだ相棒。そんな瞳で見つめないでくれ。
『パンツは良くて、こうした触れあいは拒むのかい? すけべ』
言いたげな顔で見ないで。
……アレ? 可笑しいな。パンツを見ていた事を、響は気付いている?
被害妄想である。
そろそろ限界だ。誤魔化しはきかない。覚悟を決めろ。緊張も楽しんで。
俺は、お前の頭を撫でる!! そっと手を添えて、優しく頭を撫で始める。
「んっ」
くすぐったそうに彼女が微笑んだ。まずここで俺は達した。
た、達していない。最近俺の心がすぐに達したがる。緊張の誤魔化しにしても、ちょっと下にいきすぎだ。清くいこう。清霜な感じ。わけが分からない。
…透き通る髪の感触。透明さはそのままに、表面を撫でればすてきな心地。
少々調子に乗って、手櫛みたく手を動かしてみる。
い、嫌がってないぞ。嬉しそうに微笑んでいる。響と目が合った。にこりと、今度は静かに笑ってくれた。