「天龍が?」
ふふっ、怖いか? なんてイメージこそないのだがね。そもそも彼女とは報告の時しか見ていない。
『報告いたします』と真面目に、厳しい表情で佇む天龍だけしか知らない。
「天龍さんは人一倍責任感が強くて、とっても優しい人なんです」
大切な姉でも紹介するような言葉だった。慕われているのだろう。
快活で力強い天龍の笑みを思い出した。堂々として駆逐艦達を思う姿は、頼りになる姉貴分として慕われているのだろう。
そうして、俺の中でも天龍さんである。凜々しい美人がガチの表情をしていたら、それだけで竦むのが童貞なのだ。
ど、どどど、童貞ちゃうわ!! 誰に言い訳をしているのだろう。
いや童貞だけどさ。悪いか。しょうがないね。
「だから、応援をお願いすると、その」
言い淀んでいたが、言いたい事は分かる。彼女、ひいては彼女を慕う者達の士気も下がってしまうのだろう。
改めて、俺が此処で出会った天龍の姿を思い出す。
健康的な太ももが眩しい黒のミニスカート。豊満な胸に押し上げられている、黒色の、あれってブレザーと言うのか? ブレザーに似た制服。
胸元の開けられた白Yシャツを下に着込んで、緩く結ばれた黒ネクタイが印象的だ。アメジストに似た艶のある紫髪を、短めに切り揃えた美女。
内にある戦う者としての雰囲気が、表面に滲み出た凜々しい美人である。
何よりも印象的なのは眼帯か。厳しく自分を責めるが如き、隈のくっきり残った目元があった。
背筋伸ばし凜々しい軍人の在り方と、姿勢乱れぬ武人の佇まいがあった。
それでいて目下の者への笑みを忘れず。愛情を注いでいた。愛が大きい艦娘であった。だからこそ。
どれだけ鍛え込んだのだろう。どれだけ己を責め続けたのだろう。
軽巡は駆逐艦とは違う。少なからず戦える艦種である。無論、戦艦よりは遙かに脆いのだがね。前線で活躍している軽巡もいないことはない。
『創くん。偶には私に甘えてね~!』
阿武姉…阿武隈の、蕩けるような声を思い出した。アイツはその代表と言っても良い。高い能力を惜しみなく発揮し、空母のような派手さはなくても、確かに戦場の一部として阿武隈は戦える。
その中で、戦場に出ていない自分を責める心。努力を重ねているからこそ、艦種という理由に逃げられないからこそ。
天龍の心は、きっとどの駆逐よりも重たいのだろう。
心なんて比べるモノではない。分かっているさ。
それでも断言しよう。俺が艦これで見ていた天龍の、間の抜けた愛らしさは存在しない。厳しく自分を追い込んだ、そんな艦娘がいるんだ。
『ふふっ、怖いか?』
そんな風に自信満々で、……前線にいた頃の俺が憧れた様な、無根拠でも大切な佇まいを見せる天龍はいないんだ。
怖いねえ。戦場の臭いが消えやがらねえ。
とはいえ俺は甘い運命を信じてはいねえ。命の危機に秘められた力が、とか。実はチート能力でしただなんて、甘~い運命は信じちゃいない。
そういうのは、俺の人生に存在しなかった。
あっても良いだろと心底から思うが、そこに命は乗せられない。取り返しがつかないからだ。
ここは譲れない。絶対に譲れないんだ。
…せめて軽空母でもいてくれれば、話は別なんだがな。
「天龍の自己満足の為に、艦隊を危険に晒す気はない」