「私達艦娘って、親がいないから新鮮です」
素直に甘えてくれている。すっかりと気を許してくれている。…困った。いつものようにバカな感じになりたいけど、素直に言おう。
滅茶苦茶癒やされている。やばい。
「だっこしてもらっても良いですか?」
幼子の様な言葉。返答せずに、五月雨を抱きかかえて立ち上がった。
傍目から見ればお姫様だっこである。不思議と興奮しない。言い方は悪いが、ペットを抱き上げているような、赤子を抱いている気分だった。
「わっ。大っきくてぶれないです」
ぺしぺしと俺の肩を叩いてきた。小さな掌で叩かれても興奮しない。俺は変になっているのだろう。慈愛しかない。困った。
「鍛えているからな」
俺とは対照的に、五月雨の体は細く小さかった。抱きかかえるような体勢は、恋人にも見えるのだろうか?
「むふふ~」
無邪気に甘える彼女を見ていると、恋慕よりも父性が勝った。
「ふっ。好きなように甘えてくれたまえ。俺もその方がありがたい」
戦争の雰囲気で真面目になったおかげで、図らずも娘みたいな相手が出来た。むふ~と緩む五月雨の姿に性はなく。
五月雨らしく。純な雰囲気で甘えてくれていた。愛おしい。
「…二人きりの時は、お父さんって呼んでも良いですか?」
「うむ」
やはり、彼女は気づかいが出来て頭が良い。
軍の風紀がある。俺への評判が落ちるのは自業自得だが、それによって鎮守府の評価が落ちるのは駄目だ。何より示しがつかない。
甘えて良いと言っておきながら、大した縛りだ。
「えへへ。お父さんが出来ました」
それでも五月雨は笑ってくれている。嬉しそうにしてくれる。
「親みたいな人がいたらって、建造された時に思ってました」
…こんなにも小さく細い体でも、子供と変わらない重みしかなくたって。彼女は艦娘だった。
幼さは許されず。子供として大人に甘えられない。吐き気がするなあ。ああ分かっている。俺も同罪だ。
転生者なのに、世界を変える資格すらあるのになんて。
幾度も迷い続けてきた。傲慢と思いつつも捨てられなかった。
それでも、今の俺は五月雨を甘えさせられる俺でいられるらしい。ありがたい。誇りを胸に戦い続けられる。
「見守ってくれて、愛してくれる人がいたらなって」
恥じるように頬が赤く染まっている。それは贅沢だと思っているのだろう。
「人間じゃない私が望むなんてと思ってました」
五月雨の方が力はある。殺そうと思ったのならば、大抵の人類は殺せるだろう。それがどうしたの言うのだ。可愛いは正義なのだ。
ブスは死ねというわけではないがね。そもそも美醜は絶対的に主観でしかない。ただ綺麗であってくれた五月雨に感謝をしよう。
「でも、提督は違いますね」
「どうだろうか?」
艦これの予備知識もあるが、こうして生きて随分とお世話になっている。
知っているという傲慢は言えないし、言わない。それでも甘くなってしまうのは自覚している。人間嫌いでもないけど、人と艦娘のどちらを優先するかと問われれば、艦娘になってしまう。
「なぜだか分からないんですけど、提督はずっと前から私を知ってるような気がします」
「ふむ」
勘が鋭い。やはり俺と感性が似ているのだろうか?
こうして触れ合っていているのだから当然だろう。どうにもいかんね。真面目になると堅物過ぎる。こう。う~ん。
いやね。小さなおっぱいの感触とかあるんですよ。
なのに興奮しないわけだ。俺は不能になったのだろうか。
「気のせいでしょうか?」