「何?」
「空母や戦艦に守ってもらって、艦娘としての価値も出せねえ」
遠征だけと割り切るには、天龍のプライドが許せない。
資源を軽視しているわけじゃない。ボロボロになって戦い続ける仲間がいて、己の弱さを許せる性格ではないのだ。
「これが駆逐艦だってならまだ納得出来た」
駆逐艦。この世界で最も脆い艦種だ。運用するにはあまりにリスクが大きい。そもそも、俺や戦神とか呼ばれた勝みたいに、前線で駆逐艦を運用するのは狂っているのだ。
無論、俺の相棒の響や、勝が頼りにする清霜が弱いわけではない。
ただ脆い。そういった領域を超えての話なのだ。
まず前提として改二に至っている。その上で途方もない程の練度を築き上げてきた。血を吐き、決して美しい思い出だけじゃない。
己の無力に怨嗟の声を上げながら、這い蹲って強くなった。
「チビ共を馬鹿にしたいわけじゃねえ」
それはそうだ。彼女は他者を蔑んで、己の無力を帳消しにはしない。あくまでも自分を見つめて、心の侭に生きている。
目を見れば分かる。天龍の眼は荒んでいても、濁ってはいない。彼女らしい…というと冗談みたいだがね。
真っ直ぐに輝いている。嘆いても美しい。
「アイツらは子供だ。幼く生きても良いんだ。これから先があるべきだ。アイツらが重ねた時間が、これから歩んでく道が消えちゃあならねえ」
天龍だってちゃんと生を分かってくれているんだ。
そうだろう。世界に刻まれた時が無駄になるモノかよ。
「でもよぉ! オレは、オレは違うじゃねえか!」
「何が違う?」
俺の言葉を睨み付けるように、事実至近距離で睨み上げながら叫ぶ
「片目もロクに見れねえ欠陥品! 改二にすら至れねえ!」
叫びに俺への怒りはなかった。燃える様な隻眼は、今にも涙が零れそうだった。…いや。涙は見えない。だけど泣き出しそう。
下手な言葉は返せない。慰めなんて無意味だ。
そうだな。事実、同じ軽巡洋艦の中でも、彼女の能力は劣っている。神通改二が良い例だろう。大した能力はない。
ただ数値で表わすならば、彼女は最弱の軽巡だ。
だが、それはあくまでも個としての見方である。
むしろ軍として考えるならば、俺は天龍の方がありがたい。
嘘ではない。キャラとしての愛着でもない。
そこにいるだけで士気を上げる天性の魅力。神通が孤高の最強ならば、天龍は鼓舞する者。愛される者、愛している者。
天性の、強さの資格がないものだからこそ、奮い立たされる。
ゲームに例えるならば、他の者達へのキラ付けが出来る性能と言える。
勝率をパーセントで例えるならば、味方の勝率の底上げが成される。なあんて。現実はゲームとは違う。眼に見えないモノの方が遙かに多く。今俺が告げても、天龍の無力感を晴らす証明にはならない。
駆逐艦とは違う。軽巡は諦めることすら許されない。
軽巡洋艦とは、重巡洋艦にも至れず。駆逐艦でもあれない。
事実一部の軽巡は前線でも活躍している。役割が違うと切り捨てられない。